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サレルノ近郊

和弓の作り方、調べたら気の遠くなるような手間がかかることがわかりました。

コンポジットボウの極みとでもいうべき能力です。

これで達人は矢の軌道を変化させられるキャパもあるとか、日本人って日本刀に並ぶだけの弓作ってたんですね。

=BC487 12月 サレルノ アーシア=


ボクらがローマ軍の追跡を振り切るころには、サレルノの港近くになっていた。

さすがに岩山を通り、騎射をする兵を殿におくと、敵も追撃の足は鈍った。

この辺は予想通りなのだが・・・港の手前で意外なものが見えてきた。

それはローマ式の宿営地を強化したと思われる物資集積所だ。

周りに水堀があるのが変わっているぐらいで、ほかはローマの宿営地の作り方を遵守している。


15世紀から一気に千年以上さかのぼって2世紀ぐらいの様式だ。

いったいこの30kmを移動しているうちに敵に何が起きたのだろう?

もっともローマ式宿営地の段階で完成するのはポエニ戦争のことだ。

200年以上後の形式であることは間違いない。


それにしても星型要塞とは時代や目的が違いすぎる。

敵の知識の断続性に不信を抱きながらも、ボクは集積所を大きく避けてローマに向かう道を指示した。


=BC487 12月 サレルノ南方 デマラトス=


「サルピズマの弓は化け物か!」

思わず俺は怒鳴ってしまった。

見たことがないほど長く人の背丈は楽に超え、握る場所が真ん中でなく下寄りの始めてみる形状だった。

その弓を使ってディアウロス(392m)を超える位置から撃ってくるのだ。スタディオン(192m)をきると正確に狙ってくる。

しかも騎乗のままだ!

こちらの投槍(ピルムが最大で30mだったのを投槍器を使わせ、改良して投げるだけなら100mをようやく越せたのだ。

射程がここまで一方的になるとは思わなかった。


いままでサルピズマは火器や騎乗戦闘の威力だけが喧伝されてきたが、遠距離戦も恐ろしく強い。

あの騎兵の移動力を奪う方法を考え付かないと接敵すらできない。

厄介な集団だ。

あいつらがアーシア所有の奴隷って冗談だろう。

隊長以外の一般兵は奴隷という噂だが、どこの国でも市民いや隊長として迎える武力があるぞ。

今回、長い時間追撃してわかったことがある。あいつらの馬の持久力も異常だ。

こちらの蹄袋が破れて速度を落とさざるなくなっても軽々と走り続けていた。

蹄を痛めたりしないんだろうか?

そういえば足元に袋が被せてなかったな。どういう馬だ、あれは?


=BC487 12月 サレルノ近郊 アーシア=


「総隊長、そろそろ馬を休めたいのですが?」

パンティティスが馬を寄せてきて声をあげた。

「わかった。川を渡ったら、そこで休憩にしよう。」

ボクらは宿営地を見つけた後、手前のイルノ川にそって上流に上り渡河地点を探していた。

イルノ川自体は幅が20mにも満たない川なので、浅瀬でローマに見つからなそうな場所は直ぐに見つかった。

対岸の河原で火をおこし休憩にする。

サルピズマは、クロースアーマーの上に革貼りしたレザーアーマーを身に着けているせいで寒さには強い。この時期12月直前でも全く支障なく動いている。

逆に夏は暑さで蒸れるため考慮が必要になる。

そんな訳で、火をおこしたのも寒さ対策というよりは食事のためである。

馬用の大豆と大麦の混合物を暖めながら煮ている。

人間はその火で平らな石を焼いて即席のピザ釜にしている。

何人かは馬の世話に回り、ブラッシングや蹄鉄の確認・交換を行っていた。

ビュンと音がして近くを通りかかった獣や鳥が和弓で仕留められる。

敵地とは思えないのんびりした風景だが、常に複数の見張りは出している。

ここのところ緊張続きなのでくつろげるときにくつろがないと、プッツリ切れてしまう。

歴戦の彼らには言うまでもないことだ。


「今日のメニューはコリアンダーと山鳥の胡椒風味チーズがけのピザです。」

馬たちの食事が出来上がるころにピュロスが運んできた。レイチェルが水で薄めたワインを持ってきている。

「コリーダは?」

「皆さんの分を絶賛大量調理中です。」

サルピズマではコリーダがいるとコリーダが、そうでないときは調理当番が食事を作る。

コリーダの食事はサルピズマ隊員にとっては重要な魅力の一つで、このせいでサルピズマを続けている連中も多い。軍用レーションが三ツ星レストランのシェフが直に作ってくれてるといえばわかるだろうか?

また彼らは奴隷といっても所属はアポロ神殿になる。死後遺産を残せないことを除けば市民と同等の生活がおくれているし、賞賛・尊敬は言うまでもない。

何人かは必要上、解放奴隷にしたが説得の方が大変だったという落ちがある。

もっともボクのそばを離れるのがいやという嬉しい意見もあるのだが・・・


近くでキンキン鉄を叩く音がした。馬の蹄鉄交換だろう。

この蹄鉄がサルピズマの秘密兵器その2だ。

日本の戦国時代ですら馬草鞋を使っていたぐらいなのに、蹄鉄を採用したことで馬の蹄への負担が減り、騎乗時間が長くとれるようになった。

馬の蹄は自分の体重以上の負荷だとすり減りやすい。蹄がなくなると最終的には足に炎症を起こして死んでしまう。

ギリシアだと革の袋で包み込むのが一般的だが、革を重ねても耐久性は限界がある。

蹄鉄とは比べ物にならないのだ・・・特に石畳の都市戦において・・・

蹄鉄の再現は難しくなかったし、取り付けについても何人かが要領をのみこんでくれたおかげで楽になった。

まだ敵にばれてないのは、サルピズマの戦死者が0、馬の損失0というおかげだろう。

慎重に使うべき部隊なのではある。

今回も見た目は派手で作るのに異常に手間のかかる和弓とセットでの運用だ。

敵が弓に注目するように蹄鉄に気付けないように。

見つかれば敵も真似してくる。それを踏まえて運用しなくては・・・


「アーシア様、お茶はいかがですか?レイチェル様も?」

難しい顔をしていたのだろう。雰囲気を変えるようにピュロスが声をかけてきた。

「ああ、お願いする。ミントはあったかな?」

「寒いですのでミントにベルガモットを加えたものにしますね。レイチェル様はサフランティーでよろしいですか?」

レイチェルは頷くと無言のままボクに寄り添うように腰を下ろした。


「ごめんレイチェル、戦闘に巻き込んだね。」

「いい、おいていかれる方が寂しい。」

「そっか。」

目の前のたき火がパチパチと音を立てる中、くっつかれた人肌の温かみに神経がほぐれていくのを感じていた。


(それにしても・・・ローマはどんな状態なんだ?)



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