ネアポリス(ナポリ)攻防戦BC487 9月
ようやく両方ともイタリア入りです。
デマラトスの計算が銅貨なのは古代ローマの物価に合わせているためです。
アーシアの計算は今後もドラクマベースになると思います。
=BC487 9月 ローマ デマラトス=
ネアポリス(ナポリ)はローマの南200Kmに位置するアテナイが植民したギリシア植民都市である。
このネアポリス攻略がデマラトスにとっての当面の目標であったが、時期は9月に入り屈強なローマ兵は農夫に戻って麦の種蒔に従事していた。
このころのローマでは兵農分離が進んでないため、侵攻作戦には時期を選ぶ必要があるのが常識だった。
また、防衛戦がほとんどであり、兵站の維持というノウハウがないため兵士が持っていける食料で戦える範囲(7日分)の半分が行動限界であるため、50km以上離れた都市には戦闘を仕掛けることすらできなかった。
この同時期のギリシアの市民=兵士、奴隷=荷物持ちという形体に比べても遠征能力は極端に低く、ネアポリス攻略をローマ人は考えたことがなかった。
道路が整備されてない状況では荷馬車や曳車を使っての大量輸送は不可能である。
このためロバの背に荷物を括り付けていくしかないのだが、輸送量は大きく変化させるほどではない。
ローマ人の弱点の一つが海を恐れることで、海洋国家であるギリシア国家群に比較してこの部分での利用が極めて低く、まともな軍艦も存在していなかった。
トラキアーノの合流は、この点でもローマにとってプラスに働いた。
彼らは自前の輸送船を持ち、交易をおこないながら、建築資材を調達して運び込んできた。
当然航海のノウハウは持っていた。
ようやく朝夕に涼しさが紛れ込む9月初め、ウエイの戦利品がメリクリウスの神殿に飾られ、トラキアーノ市場は華やかな活気をまとっていた。
今日も貿易船が入ってきたのだ。
積んでいたのはアテナイの壺、スパルタのオリーブオイル、それに船員の帆待ちと呼ばれる私貿易品の各地の土産品だが今までローマでは手に入らなかったものが多く、皆が争うように買っていった。
この船はローマで小麦を買っていき、食料が高騰している北方のエトルリア都市で売ってくるようだ。
恐らくはエトルリア製の鉄器や工芸品を買うであろうから、帰りにも寄ってくれるように船長に頼んだ。
浅黒い肌を持つリヴィア出身の船長は快く了承してくれた。
「こういう点はアーシアが羨ましいな・・・」
俺の呟きはため息交じりだった。
アーシアは自分で大商会を持っている。
輸送船も100隻近く、専属の軍艦すら、スパルタ海軍の名称で13隻を有している。
どの船も従来の船に比較して強度が高く、積載量が大きくかつ速い。
船の構造はトップシークレットになっていて、ラムヌースとアイギナ、アテナイ、カラマタ、コリントスの5か所の造船所以外は作り方を知らない。
ヘルメスにサラミスの海戦を忘れた人間はいない。
ペルシアとの決戦兵器を他国に教える人間はいないのだ。
つまりこちらは自前で従来型の船を作るか入手して運用する。
ガレー船は風に左右されることはないが、どうしても積載量が少ない。
高速船になればなるほど余裕がなくなる。
交易に用いるには効率が悪い。例えば夜は停泊して陸で炊事し休憩する。
数百人分の食事を作るのである。材料をもっていくくらいなら近隣の村から入手した方が積み荷を増やせる。当たり前のことだ。
このため、沿岸交易が限界で、地中海横断なんてのは夢のまた夢だ。
だが、アーシアの船は違う。2日でも3日でも海の上にいられる。
大きなアドバンテージだ。
その船団を率いるのが、若き名将キモンである。彼はエジプトのファラオでもあるが、彼と彼の配下はペルシア商船の拿捕で一財産築いたともっぱらの噂だ。
こちらにも彼ぐらいの力量の人間がいれば・・・フム、ないものねだりはこれくらいにして、とりあえずはネアポリス攻略でも考えよう。
幸いネアポリスは海沿いだ、海岸沿いに兵糧を運んで、物資集積所を作るのは難しくない。
30km毎に作れば6か所か、兵力を5000人として小麦粉一人一日500gとすると一日2.5tずつで15t、往復分で30t、これにチーズが30gづつとして300kg、玉ねぎが一切れづつとして1個で10人分とすると6000個。そしてワインが一人100㏄として6000リットル。
費用は一日で小麦が10000銅貨、チーズが2500銅貨、玉ねぎ6000銅貨 ワインが5000銅貨 計23500銅貨になる。
作者注)
1銅貨は日本円で80~100円の換算。つまり200万から250万円かかる。
つまり往復12日だけでも2500万から3000万円の食糧費がかかる。
向こうでの作戦期間を考えなくてもこの量である。
兵站集積地は柵で囲って守る兵を少なくする必要もある。
そうなると野営地に近い形に仕上げる必要も考えると、人夫の食料も必要になる。
各地に100人づつ配置すればそれだけで600人になる。
彼らの食料は現地調達できればいいのだが、それに関しては不安定要素が大きい。
そもそもネアポリスを落とすのにどれくらいの人数と期間が必要なのかが読めない。
ネアポリスは大きなポリスだが人口は3000人程度である。
降伏してくれれば楽だが、籠城されると想像がつかない。
どうやって籠城させずに勝つかが分かれ目になるだろう。
そのための作戦を練らなくては・・・
=BC487 9月 タラント アーシア=
カラマタを出発したボクらはまずタラントを目指した。
ここはいまだに分かれたスパルタ王家が統治している。
双王家ではなくアギス家が統治しているが、エウリュポン家はそれに次ぐ副王のような立場で国政に参加している。
タラントは天然の良港を基に発達してきたポリスである。
特にその初期にスパルタの財力すべてと労働力半分が投入されただけあって人口は非常に多い。
市民権を有するものは5000人、総人口は3万人と聞いている。
周囲の地形の開発も進み大規模な農場がポリスを囲んでいた。
メッセニアはとりあえず落ちつきそうなのでパンティティスとアルカイオスに任せ急ぎイタリアに来た。
最初期からスパルタ海軍にいるパンティティスは武勇も優れているが完全な脳筋ではない(脳筋気味ではあるが)貴重な人材だ。アルカイオスはコリントス市民にしてクルナの代表者をやっていた彼だ。今ではクルナはワジが取り仕切っているので、強引にメッセニア監督員に押し込んだ。
あの二人がいれば、スパルタとヘイロイタイの交渉は何とか維持できるだろう。
「黄金の羊号」はカラマタから順風に恵まれ、5日間でタラントに到着した。
1000km以上もあったのに拍子抜けするほど楽な航海だった。
タラントの港が見えたときには昼ぐらいだった。
舵はボクがとってコリーダは仮眠していた。
帆はフルセイルのままでも安定して走れるほど風は穏やかだった。
港が見えたので知らせようとしたときに、キャビンの入口からホルスが現われた。
口にはネズミを咥えている。
ネズミをボクの前に置くとすわって鳴いた。
=ニャア=
「オーえらいえらい。ちゃんと仕事してるな。」
ほめながら耳の後ろを掻いてやると、嬉しそうにゴロゴロ喉をならした。
「ネズミが入りこんでいたのか・・・どこで入ったんだろうな?」
ともあれ尻尾をもって海に放り込むと海面に浮かんでいたネズミを、たちまち海鳥が咥えていった。
「みんなタラントに到着だ。たぶん出迎えあるから服装を整えて。」
キャビンの中から身支度をしてるらしいゴソゴソとした音がしている。
最初に出てきたのはレイチェルだった。
幅広の白い帽子に白のワンピースにジャケットといういつもの格好だ。
サングラスは魔法を使わなくなったので、かけなくて済むようになった。
コリーダは執事服でピュロスはメイド服なのは変わらないが、今回タルゲリアが久し振りにペルシャの踊子風ビキニアーマーの衣装にしている。
涼しくて動きやすい恰好だが、恥ずかしいと言って今まで着なかったものだ。
「タルゲリア、良く似合ってるよ。」
「ありがとうございます。アーシア様。」
すこし恥じらいながら返事をしてくれた。
腰に偃月刀が差してあるのを見ると、すでに臨戦態勢のようだ。
「懸念はデイラネイラかい?」
「ええ、彼女が出てきたら全力で止めます。」
まだタラントだから大丈夫だとは思うが・・・油断は禁物だ、魔女ってのは怖い。
どこにいるのかまだ情報がつかめてない。
そこらへんも何か手に入るといいんだが・・・




