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トラキアの黄金

トラキアの黄金って意外な気もしますが、先史時代から結構な量の財宝が出土してます。

ミケーネと同様にギリシアにとっては重要なファクターになっていたようです。

この時点ではアーシアはデマラトスが二人になってるのを知りません。

「気をつけよう。殺したつもりと死んだはず。」は有名な格言ですよね(笑)


=BC487 4月 ラムヌース アーシア=


「ワジ、トラキア総督がどうした?」

「は、タルゲリア様をつうじて内密に3年間の停戦協定を提案してきました。」

「話にならないな。ペルシア王即位までの時間稼ぎだろう。」

「それが、そうとも言えない部分がありまして・・・」

ワジの話ではペルシアが攻め込みさえしなければ、戦闘が起きないのだから休戦協定を提案する理由は他にあるという。

指摘されれば確かにその通りなのだが、他の理由が思いつかない。

「トラキア領内で5つの有力部族と総督府から多額の黄金が消えたという噂があります。」

なんとなく、その二つの行き先は想像できるが・・・


「おそらくトラキア新総督はこの事が本国にばれないように時間稼ぎをしていると思われます。」

「それと停戦協定がどう結びつくのだ?」

「ペルシア王国には「王の目」とよばれる視察官と「王の耳」と呼ばれる諜報部隊が存在します。北部戦役が起きれば彼らの注目がバビロニアからトラキアに変わる可能性が高いと推測します。」

「その時に失態がばれるのは避けたいから穏便にということか。しかしそれでもこっちにメリットが無いのは変わらないぞ。」

「そこから先は交渉次第ということで・・」


ワジの提案は結構えげつないものだった。

トラキア総督府の旗の使用権限をもらい、香料之道シルクロードの到着地のシリアへ向かう通商隊に掲げさせることを黙認させることだった。

先方はトラキア領内通過について黙認させるという予測だろうだが、ワジの考えはさらにその先を行く。


ロードス・キュプロス島から海路直接アンテュオキュアやアレッポに向かう商隊を乗り込ませ陸路と同時にトラキア・シリア方面に情報網も築いてしまおうというものだ。

情報源になるのは宿泊する村々のギリシャ奴隷ということで、構築はさほど難しくない。

旗一つと思って許可を出すと利用する人間しだいでは、とんでもないことになるのがこの時代だ。


「わかった。その方向で進めてくれ。密書が必要なら書いておく。」

「はい、お願いします。」

要件が終わったワジはそのまま仕事に戻っていった。


それにしてもトラキア総督府の黄金か・・・デイアネイラの資金源がそこだとは思ってなかった。

デマラトスがいれば総督府の印章も使えようが、彼はエジプトで倒しているはず・・・


そういえばローマに彼の甥っ子がいる話だから、相続したのかな?

その割にはトラキア総督もペルシアからの新任のようだし、いまいち甥っ子の正体がつかめない。

一度ローマに潜入してみるか。


「アーシア、お仕事終わったかしら?」

巫女服のレイチェルが入ってきた。

「ああ、今終わったところだから。」

「じゃあ、紅茶を入れてくるね。」


このごろ一番変わったのは飲み物が充実してきたことか。

エチオピア産のコーヒーやクレイステネスが持ち込んでイベリア半島に植えた茶ノ木も製法と共に徐々に食卓に上るようになっていた。

特に紅茶はギリシャの硬水に対して相性がいいので市民階級でも評判である。

まだこっちの生産量がおいつかないので中華からも入手できれば値段も下がって庶民的な飲み物にできるだろう。


英国風のハイティーに出てきそうな軽食と一緒にお茶が持ち込まれてきた。

給仕はコリーダだ。執事服だけに似合っている。

お茶の香りもよい。十分に醗酵して紅茶の良い香りが広がる。


緑茶は水の問題からか紅茶程は受けていない。

エジプトではコーヒー主体だし、緑茶用のいい水を探さないと・・・


クッキーやサンドイッチをつまみながらゆっくりと時間を過ごす。

話は多くは無いがレイチェルも満足そうに微笑んでいる。


「近いうちローマに行ってこようと思う。」

空になったカップ(アテナイの黒絵である)をコリーダに差し出しながらのボクの一言に、二人が動揺する。

「デイアネイラですか?」

「それもあるけど、デマラトスの甥についての情報が少なすぎる。外観がボクに似ているというのも気になるし。」

「その折には同行いたします。」

「私も・・・」

消え入りそうな声なのはレイチェルだ。


安心させるように微笑んで、「今回は戦闘はしないから、一緒でも大丈夫だよ。」

そう告げるに花が咲くように笑顔になった。この言葉にはコリーダも安心しているようだ。


「では準備させます。黄金の羊号でよろしいですか?」

地中海世界最速の帆船にしてピュロス旗をなびかせるアーシアの御座船。

「ああ用意頼む。出発は大祭の後だ。一度タソス島に回って3隻のラムヌース型の配置を、シラクサに変えてカルタゴ封鎖に回ってもらうよう伝えたいのでその準備も。」

「ピュロスに依頼しておきます。」

「コリーダも書類仕事したら・・・?」

「私は護衛と家事だけで手一杯です。」


実際に彼女の料理の腕は三ツ星級シェフといってもいいレベルになっている。

すっかり追い抜かれた気がする。


ともあれこれでカルタゴに対しより圧迫を強めることができるわけだ。

ヌミヴィアとの交渉にプラスになるといいが、あそこの騎兵は天下一品だからな。ペルシア戦争第2ラウンドには間に合わせたい。


エチオピア王との交渉はコーヒー豆の通商を通じて貨幣、産品を流入させることで徐々に有利になっている。しかし思ったよりもアフリカ内陸部も文明化されていたんだな。アンドロメダ姫の話もあるから馬鹿にはしてなかったんだが、ほぼナイルと同じ程度の文明度がある。さすがにペルシアの侵攻を防いだ国だけのことはある。

同盟できれば、かなり強力な援軍が期待できそうだ。


そんなわけでタルゲリオンの7日のタルゲリア大祭(アポロとアルテミスの誕生日祭り)が終わったらローマに行って来よう。

そのあたりは麦の収穫で戦争も起きにくいし太陽暦だと今年は5月20日か、スケジュール調整しないと。

あとひと月、なにも起きないといいな。

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