地中海世界
アーシア側から見た地中海世界です。
ちなみにアーシアは着流しですし、ピュロスはメイド服、コリーダは執事用の燕尾服でレイチェルに至っては巫女服着てます。
そのうち街のファッションも書きたいですが・・・コリントスではワンピースやフレアスカートも出現しています。
=BC487 4月 ラムヌース アーシア=
ロードスという島がある。
この島にははるかな未来に著名な騎士団が生まれる。
彼らはこの島で騎士500人が20万人のトルコ兵に壮絶な抵抗を示し、停戦条約でシチリア島に撤退した。
その後マルタ島で再起し侵攻してきたオスマントルコ帝国と再度攻防戦を行い、ついには退けた聖ヨハネ騎士団である。
彼らは地中海世界の行く末を決めたレパントの海戦にも参加している。
後裔のマルタ騎士団は領土を失った今も、国際医療団体として主権実体を有し外交主権を持つ団体として存在している。
アナトリア半島の南18kmという立地条件から小アジア侵略を計るペルシアと激しい戦闘が行われていたがマラトンの戦い後、アリキポス商会の拠点が置かれた。
ロードス支店の主な業務は、通商による利益で、小アジアで奴隷になったヘレネスを買い取り、解放すること。ロードスを海上交通の一大拠点にするために海軍力を育てることの2点である。
ロードスは地理的に小アジアの喉元にナイフを突きつけた位置にあることや、島にあるポリス、リンドスがドーリア人のポリスであることもあってアリキポス商会から多くの資本が投下された。
その成果は直ぐにエジプト、アミルタとマルタ、シチリアを結ぶ航路の確立に結びついた。
黒海、小アジア近辺の産物やカナンの産物がリンドスに集まり、小麦や米、大豆等、イベリア半島やエジプトからの産物がアミルタ・マルタ経由で集まり、盛んな取引が行われた。
一方でイチジクやオリーブ、オレンジ等、昔からの重要な交易品もカルタゴと競うように行われていた。
リンドスの人口は直ぐに3万を超え、連れてこられた奴隷たちは活気にあふれ、交易で儲けた奴隷は自分の自由を贖っていた。
彼らの奴隷の価格は小アジアでは下落していたため、自分を買いなおす費用も大きくはなかったのだ。
この時に交易に用いられるために作られたのがシャベックである。
もともとは小アジアで小型戦艦の意味で用いられていたのだが、3本マストのラテンセイルを用いた船で、オールを補助的に使う。大きさとしては3層ガレー船に匹敵する船に対する総称になった。
帆船の採用については地中海の微風に対応できる帆が必要であり、そのノウハウはアミルタで作られたバミューダセイルのスループ「黄金の羊号」からの得られた。
現在でも「黄金の羊号」はアポロ教皇御座船として地中海を縦横に飛び回っている。
もっとも戦闘艦については未だに帆船ではなくガレー船が主体である。
これは鋳造技術の面から大砲の生産がうまくいっていないため、艦載火力がアポロの微風と呼ばれる火炎放射器であることが大きな要因である。
帆船は構造上索具と呼ばれるロープが多数使用されるため、火炎放射器には極めて弱い。
敵に攻撃するときに、巻き込まれて火の粉、あるいは炎そのもので索具が炎上し使い物にならなくなる。
相手の船の拿捕を考える上でも大砲に切り替えたいが、鋳造技術の向上待ちの状態である。
シャベックは量産に入り、50隻を超える船が稼働しているが、戦闘用ガレ―はいまだに13隻のままである。
一つには船員をこれ以上増やすのが難しいということが挙げられる。
維持費用も莫大なものであるため、そう簡単には増やすことはできない。
戦闘用ガレ―はラムヌース型強襲揚陸艦に変更されていたが、13番艦はダイダロス型という新しいタイプだった。この船は今まで水面下についていた衝角が巨大化して水面上に取り付けられていた。
しかもこの衝角は侵入通路として使えるようになっていて、戦闘員が敵船に乗り込み制圧すること目的にした強襲突撃艦とでもいうべき船種だった。
しかし教皇が嬉々として船名にダイダロスと名付けたのは皆にとっても不思議であった。
たしかにマストと帆の発明者であるので、ふさわしい名前とは思うが、今まで地名だったのに?
ともあれ、現在アーシア教皇はラムヌースにいることが多い。
他のポリスと違い、エーゲ海から数珠のように連なる小さな防禦拠点と内陸部に作られた生活用ポリスを甬道でつないだ前線都市というべき、他に例を見ない配置の対ペルシア戦線の中心都市である。
常にいるとは限らないのが困りものだが・・・
北部方面はマケドニアの防禦施設が殆ど出来上がっている。
この地には各国の兵力3万が常駐している。
このためマケドニア王も経済活性で上機嫌だ。
以前なら食糧問題が起きそうだったが、エジプト、シラクサからの供給が十分にあるので問題は起こっていない。
代金も木材を売り上げで賄えているようである。
ここにはサルピズマのクラブ隊がタソス島にラムヌース型3隻で駐留している。
東方方面の兵力はロードス島に集中している。ラムヌース型3隻と旗艦ダイダロスが配置されているのもリンドスだ。シャベックも20隻が廻されている。
サルピズマのスペード隊をサンチョ自ら率いて、ペルシア船やフェニキア船を襲っている。
これがバカにならない金額を生んでいて、漕ぎ手の奴隷に元ヘレネスが含まれていることも多く
ここがペルシア戦争最前線と言えるかもしれない。
ナイルを治めるエジプト第28王朝アルクメオン朝は現在ペルシアで反乱を続けるバビロニアへの支援と食料供給の一大拠点になっている。
国内は安定しているが貿易立国を目指し、ネコ王の運河を使って紅海からインド洋への航路を確立すべく日々調査中である。
陸上では、エチオピア王国とヌミヴィア王国との同盟締結を目指す交渉が活発に行われている。
サルピズマのハート隊がキモンを隊長にファラオの親衛隊として駐留している。
海軍力はシャベックが20隻のみ、戦闘用のガレ―は自前で作ってもらっている。
最後が西方でここが一番安定していない。
マルタ島を押さえてカルタゴの動きを押さえる予定だったが、そんなことで大人しくなる国ではなかった。
シチリア島をめぐる攻防戦がエスカレートしそうである。
この時代のシチリア島は小麦の一大産地である、またオリーブについても産出量が多い。
敵に渡すわけにはいかない地域だ。
おまけにイベリア半島も狙われている。
義父が先に農園開発をしていてくれたが、彼らは農場だけではなく鉱山開発も目的に大規模な兵力派遣を狙っている。制海権を渡すわけにはいかず戦闘艦の半分は配置せざるを得ない状況だ。
おかげでイタリア半島に回す兵力が足りない。
南部のタラントはスパルタのエウリュポン家とアギス家で押さえてもらったが他のポリスについてはまだまだ掌握できていない。
とりあえずここにはタラントに3隻、マルタ島に3隻のラムヌース型を主力に配置し、サルピズマのダイヤ隊が配置されている。
シャベックも10隻、他にも大小合わせて50隻を監視兼交易で配置している。
その殆どがカルタゴ封鎖作戦に参加しているが、あと戦闘艦20隻は投入しないと厳しい。
ほぼ毎日どこかで戦闘が起きている。そんな海域になってしまった。
ラムヌースの街は清潔で景色がいい。
正午の明るい陽射しが照り付けるベランダで、ボクの着流しの裾を風が抜けていく。
高所から見ると白い小さなポリスが綿々と海まで繋がっていく。
ボクが、この街の開発に入って5年、ようやく一通りの公共インフラの整備が終わった。
上下水道の整備から、道路の舗装、住宅の石造化まで一見すると現代地中海の観光地のように見える。
これは、ヘレネスと付き合っていて感じたことではあるが、建築物=神殿ということで、他の部分への波及が少ない。神殿の立派さがそのポリスの富裕さを示すことになる。
そこでラムヌースでは都市そのものを神にささげるというコンセプトで作った。
いわば巨大な神殿に住むという形である。
むろん、多くの面で矛盾が出てきたし、自分でアポロの神託が自由に使えなければ調整不可能だったであろう。
しかしおかげで水洗トイレ完備の治安のいい街が出来上がった。
特筆すべきはこの街では殺人がない。
神域で人の血を流すのは絶対的タブーだからだ。
おかげでこの街を使って戦争調停締結を行うポリスも多く、アポロ神殿の神託依頼もひっきりなしである。
デルフォイの神託所の分院も作ることで、神託の犠牲になる巫女の数も激減することができた。
最近はこの街から出る暇がほとんどない。
ローマにはクルナ達を派遣して情報収集しているが、トラキアーノ一族の台頭が激しい。何か手を打ちたいのだが・・・赤毛のメイド服の女性が報告に現れた。
「アーシア様、今日の測定が終わりました。」
「ありがとうピュロス。」
僕らは今、太陽暦の暦の作成を行っている。
基本的な資料はエジプトで手に入れたので一年は365+0.25日になるだろう。
グレゴリウス暦ではなくユリウス暦になるが、これでだいぶん農業が楽になる。
暦を制する者は農業を制するのはエジプトで学んだことだ。有効活用させてもらおう。
今日は仕事もないし、久しぶりに料理でもするか。
そう思っていたときであった。
「タルゲリア様から連絡入りました。新トラキア総督とのつなぎがとれたようです。」
ワジが音もなく現れ告げた。
意外だな、北から動き始めたか?
西から動くと思っていたんだが・・・




