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ヘレネの湯(ヘレネの浴場)

ヘレネの浴場っていうのはコリントスの北の港の横に沸いていた温泉です。

日本で言えば小野小町の湯みたいなネーミングですね。

コリントスの浴場や水道の整備はハドリアヌス帝がやったのでだいぶんあとになります。

さて仮想戦記に突入です。

コリントスはドーリア人が南下の際に原ギリシア人を征服して成立したポリスである。

ミケーネ文明は存在していたが、大流星雨の夜に大きなダメージを受け衰退していたため容易に征服されたと思われる。

このポリスはペロポネソス半島とギリシア本土をつなぐイストモス地峡に位置し、交通と交易の要衝として繁栄した。

古くはアイギナと並ぶギリシャ世界の経済の中心であり、アテナイやテ―べの台頭後も、財力では互角の戦いを繰り広げた。


コリントスのアクロポリス=アクロコリントス=には、街の主神であるアプロディテの大神殿が築かれ、神聖娼婦が存在する。

またアフロディテにささげるイストミア大祭が2年毎に行われ、歌劇が競われた。

後にヘロドトスが「歴史」でこの神聖娼婦を取り上げたが1922年、ジェームズ・フレイザー卿は「金枝篇」で多くの間違いを指摘した。

この「金枝篇」はアミニズム・トーテミズムの名著として、クトゥルフ研究者が秘本と併読する良著である。


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強くなってきた初夏の日差しの中、コリントスでは色々な衣装の男女が街中を歩いている。

・・・この街ではすでにキトンは伝統衣装扱いであり、エヴィマシアと呼ばれるドレス風の服が流行している。

イオニア号だけを率いてやってきたアーシアはアポロ神殿の柱の影に隠れ、街を見渡していた。


コリントスの守護神はアフロディテでアクロコリントスに見事な神殿があるのだが・・・なぜかアゴラの横には立派なアポロ神殿が存在する。

アーシアはそれを最大限利用し拡充させた。

またミケーネ文明の影響が残っていたところから、アリキポス商会を通じ、様々な施設を復興させた。

それが、下水道、トイレから始まり、公共浴場、公共の泉及び上水道、生鮮市場そして職人街である。


・・・その結果としてコリントスは高度成長期に突入していた。


美しい衣服ファッションがもてはやされ、懸命に働けば豊かになれると信じる人々が多くなった。

慎重よりも積極性が重視され、失敗は成功のもとと考えられた。

経済の発展が消費を呼び、消費が新たな経済を生み出す。

まさに国の根本が変わり始めていた。


(それにして・・・変化が速すぎる。)

アーシアはこの街に工房を構え、必要な水資源を得るために、AD100年代の帝政ローマの頃のコリントスの施設配置を提案したのだが・・・BC490現在でほぼ同じ配置ができがってしまった。

再開発後わずか1年である。

つくづく師匠ヘラクレイトスの辣腕ぶりには呆れさせられる。


「アーシア様、ヘラクレイトス様がお呼びです。」

ピュロスが呼びに来た。

今日のピュロスは、絹のキャミソールに木綿の生成りのジャケットをはおり、下はタイトな7分丈のパンツルックである。

まだ、スカートは女性のものとか、この形は男性用という概念がないため、ピュロスとコリーダには好きに着させているのだが・・・この二人はスカートよりパンツ系のファッションを好むようだ。

キトンを考えると窮屈そうだが、動きやすさ優先なのかもしれない。


「いかがしました。アーシア様?」

「いや、ちょっと見惚れていた。」

それを聞くとピュロスは苦笑しながら

「あとでいくらでも見せますので、今はヘラクレイトス様のもとに急ぎましょう。」

そういって、アリキポス商会の建物に向かった。


アリキポス商会の中には4人の人物が待っていた。

会頭のヘラクレイトス、姫様、パンドラ…あと一人がわからない・・・パンドラと同年代の女性のようだが?


「アーシア、こちらは神聖娼婦の束ねをなさってるウェヌス殿だ。・・・まあアレティナ巫女長と同じ地位だと思えばいい。」

「初めましてウェヌス様。アーシア・オレステス・アリキポス・アルクメオンです。」

「初めましてアーシア様、神聖娼婦の束ねをしているウェヌスです。アフロディテ神殿に所属してます。皆さま、呼び捨てでお願いします。」

「アーシア、ウェヌス・・・に頼んでは神聖娼婦たちから情報を集めてもらった。」

「神聖娼婦ですか?」


(出雲の阿国や歩き巫女みたいなものだろうか?)


「まあ、そっちは後で連れていっ!いてぇよ、パンドラ」


師匠ヘラクレイトスの足の親指は赤くなっていた。


高級娼婦ヘタイラからの情報、巫女アレティアからの情報、デルフォイからの情報、そしてコリントスの神聖娼婦の情報か、これにスパルタ王家とアテナイのアルクメオン家・キモン家の情報が加わるんだから・・・・たぶんヘレネスでここに一番情報が集まってないか?


「最新情報だ。デマラトスはペルシアでトラキア総督サトラップに任命された。・・・今後はトラキアの西、マケドニア王国を攻め、占領後南下してヘレネスに攻め組んでくると思われる。」


・・・・はい?


「今まで、船を使って送り込んできたのとは違って、陸地を歩いてじっくりと攻め込んでくるぞ。防御も腰を据えてやらないと喰われるな。」


まったく聞いたことのない戦略だ。

だとすると後半戦は・・・予想もつかない。

テルモピュレーの300人の散歩も起きないし、プラタイアの戦いもサラミスの海戦も起きない可能性が高い。


「マケドニアで食い止めるしかないな。マケドニアはペルシアの属国だが、アレキサンダー王はオリンピアにも出た親ヘレネス派だ。あそこをひっくり返してこっちにつけないと・・・ラリッサ、デルフォイ・・・と襲われることになる。」


師匠の声にはいつも含まれている笑いが全くなかった。


「どうひっくり返すかは・・・アーシア考えろ。」


「まあ・・・そうですね。」


アーシアは呻きつつも承諾せざるをえなかった。




「まったく、やってらんねー!」

アーシアは一人、北の港ケンクレアイにむかい、露天風呂「ヘレネの湯」につかっていた。

この風呂は塩化物泉の天然温泉かけ流しである。

源泉で40度をきるくらいなので十分に温泉として使える。

横には運動場があり、アーシアが引き抜いてきた未来の英雄たちが訓練していた。

多少の声では訓練の音に紛れ、聞こえることはない。


温めの温泉で緊張がほぐれたところで思考に没頭する。

マケドニアがペルシアを圧倒するにはまだまだ時間がかかる。

今すぐかなう相手ではない。

しかしやらないといけない。

史実でアレクサンダー1世は自分の好悪は置いておき、ペルシアに従属しながら親ヘレネスを示すという、現実的な目を持った打算家だ。


交渉相手としては・・・・厳しい。


性格やエピソードを思い出しながら湯船につかっていると、誰かがやってきた。


紅い髪・・・ピュロスだ。この湯は当然混浴である。


「ピュロス、入っているぞ。」

「はい、アーシア様が湯あたりしないように見張れと送り出されました。」

「師匠か?」

「いいえ、レイチェル様です。」


ああ、レイチェルは身体の色素が戻ってない。屋外に裸でいたら即火傷になるだろう。


「なるほど。」


「アーシア様、少し話しませんか。」


・・・?


「気分転換にデルフォイの話でも?」

デルフォイか・・・何だろう?


「最近デルフォイの聖域で神が顕現したと噂があるのです。」

「神が顕現!」

なんかすごい話だな。


ピュロスは湯船に入ると、笑いながら話し始めた。


「ええ、事の起こりは聖域近くの道を歩いていた市民が気づいたのです。あの・・・男の精の匂いに。」


・・・あ


「聖域は男子禁制、もちろんアーシア様を除きですが。このような匂いがするはずがないと、しかもこれだけ長時間・強く匂うということは、人間業とは思えない・・」


・・・


「ついにはアポロンが顕現して、自ら出した精で聖域を清めたという噂が・・・クッ・・・」


やっちゃった・・・


「ピュロスは知ってるんだよな。」

「はい、私は聖域を出入りしますし、精の匂いもわかりますので」


そうだよ、栗の花の匂いだよ・・・


「でも聖域を覗き見れない市民には、原因は想像もできませんし、純潔の巫女たちは精の匂いを知りませんので・・・噂のもとが栗の花の匂いのこととは気づいてないようです。」


「あわわ、あとで何か考えないとな。」

「はい。」


=チュ=


裸のピュロスが近づいてきて軽くキスしてくれた。


「気分はまぎれましたか?」


「ああ、大分、楽になった。」


その言葉を聞いて、にっこりと微笑んだ笑みは、大輪のバラのようだった。


「・・・一度、デルフォイに行ってみるか。」


幸いここなら、船で3日もあればいける。

黄金鏡のことも気になるし、マケドニアで神官たちの知恵を借りるのもいいかもしれない。


「栗の花も何とかしないといけないしな。」


アーシアはやっと苦笑いすることができた。

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