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I'm BACK

テーセウスの盾なんですがアイギスの盾という方がギリシアっぽいんですけど、英語読みのイージスの盾の方がききなれているのでこちらで記述します。



「ヴォオームーー」

ワニの頭から鳴き声が轟く。

兵は敵味方関係なくデマラトスから距離をとるように後ずさりした。

悲惨なのはペルシア兵だった。


デマラトスは一直線にアカイア号に向かって進んできた。

普通に歩く速度なのだが、細い道に3万人以上がいるのである。

逃げようにも逃げられない・・・その瞬間に・・・右腕が素早く動き血煙が連続して上がった。

あまりにも続く血煙で赤い霧がそのあたりに立ち込めているように見えた。


ペルシア軍の士気は崩壊した。

誰もが走り逃げた結果、スタンピードが起きた。

泥地に向かった兵は埋り踏みつけられれ、溺死した。

道路を逆走した兵はアカイア号の前で立ち止まり、後ろから押されて倒れ圧死した。

ペルシア兵の流れは途切れることなく、赤い霧が近づくにつれて、一層、激しく積み重なっていく。

徐々にアカイア号の前に人間のスロープが出来上がっていた。


「右舷、サンチョ達はまだか!」

「一旦敵陣後方に抜けましたので、戻るには若干の時間が必要です。」


ダレイオス大王を討った時に敵の後方に向かったことが裏目に出た。

アカイア号に戻るには残敵300を突破して来なければならない。

同様の理由で50人程度のボクらが船から逃げ出すのも難しい。


左舷のびちゃびちゃいう音が徐々に高くなってきている。

既に船腹の半分くらいまではスロープができている。

周囲の水が真っ赤に染まっている。

スロープの圧力で船がわずかに傾いている気がする。

下手をすると船腹が破れる。


ボクは左舷に立ちあたりを眺めた。

血の霧は船から50mの地点に近づいている。

デマラトスは兵の欠片が邪魔して見えない。


「ピュロス、ファラオの遺品を!」

デマラトスは既に雷や台風のような存在になっていた。

勝てるとは思えないが、足を止めさせなければ皆が死ぬ。


「アーシア様!」

「急げ!今、行かないとペルシア兵ごと吹き飛ばされる。」


ピュロスが船内からファラオの遺品を取りに向かった。


「アーシア」


ボクの右手を両手で包み込むようにしてレイチェルが握っていた。

「レイチェル、ダメだったらナイル川の方に飛び込んでくれ。」


「大技一発は大丈夫って、言ったでしょう。」


そういうとレイチェルは左舷から身を躍らせた・・・手を握ったまま!


レイチェルに引きずられ、ボクの体も船から落ちる。


一瞬の浮遊感の後、柔らかいスロープに落ち膝まで埋る。

高さがそれほどでないせいもあり、怪我はない。

ただこのスロープがズブズブのグチャグチャで、ものすごく凄惨な臭いがする。

既にレイチェルは下半身がスロープに埋まり、着ていたキトンが真っ赤になっている。


「生き延びて・・・アーシア」

彼女が小さく呟いた瞬間に、今まで感じたことのない苦痛が全身全霊を駆け巡った。


細胞の一個一個が火をつけられて燃えているような・・・肉体から神経だけを引きずり出されているような・・・声も出せなければ、身動きもできない、ショック死させてくれと神に祈る思考も起きない。

なぜなら、脳に焼け火箸を突っ込まれては引き抜き、また突っ込まれる。そんな苦痛が同時に起こっている。

それこそ全身の各部分で別々の拷問を受けているような苦痛が永劫に続くのである。


眼は瞬きすることなく太陽より輝く光で焼き尽くされ。

耳は鼓膜が破れて骨が粉になる轟音で全身がスピーカーになる。


いったい、どれぐらいの時間、その地獄が続いたのだろうか・・・


=access・・・connect・・・reboot・・・compleat=


ボクは肺から血を吐き出し、大きく息を吸うとスロープの上に這いずり出ていた。


「な・何が起こった?」


すぐ横には血まみれのレイチェルが倒れていた。

赤い霧が20m先に近づいている。


慌てて船の舷側を見上げる


アカイア号は船底から甲板まで4m程度だ。

でもスロープで高さが半減して・・・ない!スロープがなくなってる。


船の甲板からピュロスが覗きこんでいる。

「アーシア様!!」

そのままピュロスが飛び降りてきた。


「ピュロス!」


慌ててお姫様抱っこに受けとめる。


「戻ったんですね!」

戻った?


意味も分からないままに、両腕に抱えていたファラオの遺品と盾を渡される。


受け取った瞬間に空いた手を首の後ろに回され、思い切り抱きしめられる。


やわらかな胸に顔を埋められて、何も見え・・・そんな場合じゃない!!


「ピュロス、レイチェルを頼む。」


くぐもった声にはなったが叫んだことで、ピュロスが身を離した。


「失礼しました。アーシア様。ご武運を」


そのままピュロスはレイチェルに向かう。

・・・あれ、ボクを止めないのか?


急いで短剣を腰に・・・って服がない…マッパですか?


・・・あ・・・ついてる・・・!?


・・・


・・・


・・・えええーーーー戻ってる!!


レイチェル!


首から鏡を下げると、剣を抜き、盾に腕を通すと王笏を握る。


この盾、本当にイージスの盾だ。頭の中に操作方法が伝わってくる。


刹那、周囲が赤く染まる。


同時に暴風のような斬撃が襲ってきた。

同時に斬撃の筋が視界に見える。


それに合わせて盾を動かす。


そう想った瞬間に盾が跳び、剣を防ぐが衝撃で吹き飛ばされる。

足元が泥で踏ん張りがきかず、滑り飛び、そのままアカイア号に吹き飛ばされる。


反射的に、背中の空気を圧縮してクッションにする。

体が止まる瞬間、圧力に耐えきれず、破裂音がしてアカイア号の舷側が吹き飛ぶ。


同時にデマラトスの剣が折れ、回転しながら泥地につっこっむ。


「グフゥーーー アーシア、シネ!」

デマラトスはペルシア兵の遺した剣を拾うと再び切りかかってくる。


トラキアに続く第2ラウンド開始だ。

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