スリーハンドレット
途中でかなり下品な歌が出てきますが・・・開き直りました。
古代ギリシアでは逸物は小さくほっそりしていることが知的でよいとされていました。
大きいのは獣のようで下品ということです。
時代によって感性って変わるんですよね。
「小アジア近辺で騒動を起こすとしても・・・・」
「トラキアはどう?」
「ダレイオスはスエズを超えたわ」
「商人が兵糧を運んできた。」
「ネコ王の運河のシルトを浚渫してるらしいわ」
ボクの目の前で喧々諤々の討論が続いている。
結局のところ、こっちが集められた兵員は8000人
ペルシア帝国側は運河の整備や物資輸送に3万人を出したので戦力は6万5千人というのが現状だ。
その兵力比、8倍以上・・・まともに戦っては勝ち目がない。
こうなると狙うのはダレイオス1世の首だ。
「アーシア、どうやっても、最終局面はサルピズマと指揮官の全投入が必須よ。」
レイチェルが地図を片手に話しかけてくる。
「つまり?」
「最強の3人はこっちの作戦に必要。デマラトスはこの戦争が勝てたらになるわね。」
現状を考えると、まずデマラトスの捜索が必要で、いつ見つかるかもわからない。
とりあえずはペルシアとの戦闘を優先するのは当たり前だろう。
「了解、それは仕方ないね。」
その言葉を聞いたサンチョが声をあげた。
「殿、この近辺に立札を立ててはいかがでしょうか?」
「立札?」
「捜しても見つかるかどうかわからないなら、挑戦状を出せば来るのでは?」
それは・・・ありかもしれない。
ペルシア軍との決戦場所はすでに決めてある、そこを指定しよう。
「アテナイ人の湿地」ナイルの三角州にあり、その中でも川の字のように3つの田んぼが並んでいる場所を見つけた。
田んぼそのものは深田といわるもので田舟が無いと胸まで泥に潜ってしまう。
毎年の洪水による冠水を考えて深く耕したんだと思うが、今回はこれが役に立つ。
田んぼと田んぼの間は数十メートルの幅で道がある。
この地面は通常と変わらないので戦闘が可能だ。
ここに、8000の兵を率いて新ファラオが向かう噂を、クルナ村民の手でペルシア軍に広めている。
現状ではうまく誘導されているようだ。
こちらが先につかなくてはならないが、それは水路を使うことで何とかなりそうだ。
「挑戦状の文面はタルゲリアに任せる。板に炭で書き込んで数を立てておけ。」
ボクは指示を出すとペルシア軍対策に頭を切り替えた。
本隊は5000人ボクが率いる。レオスは2000人を率いて別動隊になる。
1000人は小船にのった弓兵で、キモンが指揮を執る。
ここまではすんなり決まったのだが指揮官で揉めている。
誰もがボクの護衛を望んで譲らないのだ。
攻撃隊は僅か250人でサルピズマとスパルタ海軍からなる、兵の資質ではペルシア軍を凌駕する最後の切り札だ。
この部隊に充分な攻撃力を与えたいのだが、コリーダとタルゲリアはおろかピュロスとレイチェルまで本隊を希望したのは予想外だった。
「ピュロスは戦闘は無理だろう?」
「弓ならば人並には使えます。」
そういえばアテナイに向かう途中で盗賊に攫われたときに弓で救出にきてくれたな。
「姫様も安全なところに」
「大分日焼けできたし、大技一発ならいけるわ。」
はぁ・・・
「コリーダとタルゲリアはサンチョを手伝ってほしいんだけど」
「アーシア様には兵の指揮をとる人間が必要です。リヴィア人では不安です。」
「私はご主人様の奴隷、兵は指揮できないし、ご主人から離れる気はない。」
ペルシア王の親衛隊の資質を考えると、こっちの戦闘力、全部攻撃隊に突っ込まないと、王まで届かないような気がするんだが・・・彼女らの意見もわかる。
・・・困った。
そんなとき、本部を警備している兵がざわめいたのが聞こえてきた。
なんだ?
マラトンで聞きなれた大声が聞えてきた。
「相変わらず、アーシアのところは綺麗どころが揃っているな。キモンは元気か?」
「父上!」
キモンが走って迎えにいく。
本部にやってきたのはミルティアデスとその部下20名だった。
「なんとか、間に合ったな。兵の指揮は任せておけ。マラトンの時の部下も連れてきた。」
そう言われると、20人の中には数人見知った顔がある。
「で、婿殿はどこだ。早速打ち合わせしたいのだが」
・・・レイチェルにうまく誤魔化してもらったが・・・彼女の件もどうにかしないと・・・
話し合いの結果、本隊はミルティアデスとその部下15人、別動隊はレオスを5人のアテナイ人が補佐する。
攻撃隊はアーシアの私兵を全部投入ということで、ようやく勝ち目が見えてきた。
デマラトスへの挑戦状を数十本立てた後に、急ぎアテナイ人の湿地に向かって進軍した。
移動は水路というのは大きい。輜重部隊が小さくできる。
今回にいたっては民間人の協力で武器食料を輸送している。
前ペルシア王のエジプト神への冒涜がここにきて効いている。
民衆はこっちの味方になってくれた。
あとはこの戦争に勝てばペルシアの影響を、ナイルから締め出すのは難しくないだろう。
ファラオ諸連合軍がアテナイ人の湿地に布陣して二日目の朝、ペルシア軍がやってきた。
予想通り65000の大軍だ。
ここにきて、レオニダス王の無茶苦茶さがよくわかった。
300人で300000人と喧嘩するとか・・・どう考えても同じ人間とは思えない。
何しろ65000が進むのですら地響きのような音がするのである。
普段はこの地の王者のカバやワニも逃げ出してしまった。
「アーシア、今気づいたんだけど・・・」
「なにレイチェル?」
この期に及んでもレイチェルは含み笑いをしている、どんな度胸だ。
「アカイア号に乗り組んだのって丁度300人じゃない」
サルピズマが52人、漕ぎ手兼戦士が200人、クルナ村の元盗賊がたしか40人、あとはいつものメンバー+ワジとアルカイオスで8人・・・まじか!
「あなたの記憶にあった300人の散歩みたいに、300人の舟遊びで伝えられるわよ、きっと」
驚いた顔がよほど面白かったのだろう。レイチェルは口を押えて笑っている。
その様子に周りのメンバーが集まってきた。適度に緊張がほぐれたようだ。
「殿、戦闘が始まるようです」
「敵は二手にわかれましたな。ダレイオスは50000を率いて中央と右手の道を進むようです。」
サンチョが軍勢を見ながら解説してくれる。
「もう一方は左の道か。誰が指揮しているんだろう。」
「兵は15000、旗からすると王太子のクセルクセスだと思われます。」
「そっちの相手はレオスか」
「レオス殿は兵2000で防御に徹する作戦ですので、沼からのキモンの弓矢の応援があれば、相当に粘れるかと」
「この二日で防禦用の策や堀も作りましたので、左手の不安は少ないです。それよりも右手の道ですアーシア様」
タルゲリアが右手の道を指さした。
ダレイオスは中央の道に15000、右手の道に30000人を分けて進軍している。
クセルクセスは道が細いこともあり、5000のみ戦闘に投入して10000で後方警戒しているようだ。
このため500の水上弓兵の援護もあって安定しているといってよい。
クセルクセスにすると王よりも大きな武勲を得ないための処世術かもしれないが、おかげでだいぶん助かっている。
中央の道は2000名が出口をふさいでいるが500の水上弓兵の妨害で敵の15000はうまく運用できていない。
多くの兵が深田に落ち込んで、仲間に踏みつけられては溺死している。
もっとも、死体で足場が出来上がるにつれ、やや不利になってきている。
右手の道はミルティアデスが3000を率いて迎撃しているが、敵は10倍である。
中央突破させそうになっていた。
ダレイオスは5000を率いて安全な後方で監督している。
激闘、1時間程でついに右手の道が突破された。
ミルティアデスが1000人ほどで川岸に包囲される、分断された残りの1500は副官が直ちに隊列を組みなおした。
絶体絶命の中、ミルティアデスの部隊から歌が聞こえてきた。
必死の戦闘の中、兵たちが歌い出したのだ。
それは水上弓兵、レオスの部隊を巻き込み戦闘の喧騒を超えるほどになっていた。
「ペルシアのダレイオス、豚並みのチ*ポ。でっかいだけでスカスカだ。1月1回がやっとの元気、おまけにタルゲリア歌ってた、ダレイオスの醜いシワシワチ*ポ、3こすり持たずに発射した」
・・・作戦とはいえ、とんでもない歌である。
その歌が聞こえたらしい。ダレイオスの本陣が右手の道に突っ込んできた。
「怒ったかな?」
「そりゃ、怒るでしょう。負けそうな敵が王をバカにした歌を歌い出したら・・・見てください、隊列も考えずに突っ込んできますよ。」
ボクの言葉にサンチョが指さし説明してくれる。
「両舷全速!「トロイの木馬」開始」
ボクの号令でナイル川に浮かんでいたアカイア号は全力で戦場に突進する。
目標は隊列の伸び切ったダレイオス本陣である。
アカイア号はダレイオスの本陣に突入、そのまま道に乗り上げる。
あっという間に木製の砦の出来上がりだ。
もっとも同時に竜骨から嫌な音が聞こえた。
もう船として動かすことはできない。
「アポロの息吹は左舷へ、兵を帰ってこさせるな!」
アカイア号に積んであった小天雷も左舷に放り投げさせる。
灼熱地獄が左舷に拡がる。
「ダレイオスは右舷だ。サルピズマ、スパルタン、続け!」
そう言って先頭で突っ込もうとしたら、いきなり羽交い絞めにされた。
「ナイス!ピュロス。ご主人様、今の身体じゃ無理。アタシらに任せて。」
そう言って先頭を切って突っ込んでいったのはコリーダだった。
「ですな(笑)」
笑いながらサンチョをはじめ戦闘要員が飛び降りていく。
残ったのは、ボク、レイチェル、ピュロスと、ボクらの護衛のクルナ村民、アポロの息吹の操縦者のみだった。
ボクは不承不承観戦にまわる。
「錐行陣!サルピズマ続け!右舷兵はコリーダ、左舷兵はタルゲリアに続け。3本の錐で王を刺すぞ!」
サンチョの指示が響く。
サンチョ、かっこいい、あれやりたかった・・・
船の上から見てるとわかるが、敵の兵力を3つの部隊が切り裂いている。
ペルシア王の親衛隊なのだから並の腕ではないはずだが、先頭の3人は無人の野を進むように進んでいる。
サンチョは偃月刀、コリーダはアポロ旗を付けた長槍、タルゲリアは曲刀と三者三様の戦い方で渦を巻くようにダレイオス王を包囲していった。
「そこ!」
弓を構えていたピュロスが火矢を打ちこんだ。
青い火が一直線に敵の陣地後方に向かう。
その矢は鎧を捨てて、なんとか包囲から逃げ出した人物に突き刺さる。
たちまちのうちに錐の行く先が変わり、その人物を押し包んだ。
「やるなー、中央の黄金造の鎧は影武者か。」
「タルゲリアから、影武者と王の特徴は聞いておきましたので」
「ダレイオス王、戦死!!」
攻撃部隊から大音声が上がる。
味方部隊から喚声があがり、敵が浮足立つのがわかった。
「さてミルティアデスを救援に行かないと。」
そう思いながら左舷を見ると、敵の大部隊を左右の兵でサンドイッチした形・・・あれってマラトンの陣形そのままじゃないか。
王の戦死が伝わったおかげか、優勢に戦闘は進んでいるようだ。
とはいえ、10倍以上の敵だ。うまく逃がす道を作らないと・・・そう思った時だった。
ドゴンドゴンと音を立てながら敵の兵が縦に真っ二つに切り裂かれている。
人の部品がはじけ飛び、悲鳴が上がる。
なんだ?一瞬のうちに数百体の死体が出来上がったようだ。
そう思っているうちに深田の方に敵が飛び込んでいく。
溺れるのは覚悟のようで、武器をすて、ネズミが逃げ込むように、泥へとダイブしている。
敵兵がいなくなったおかげで原因が見えた。
ワニの頭に筋骨隆々の身体 デマラトスだ。
ワニの口から怨念のような声が流れ出る。
「テキ、コロス、キタ!」




