黒き豊穣の山羊
今回はアマルナ遷都の原因作成です。
まあ史実では宗教改革が継続できなくてツタンカーメンの時にテーベに戻るんですが・・・アマルナの壁画とか形式が全く違うんで感動のあまり、もう少し面白い理由がほしくて(笑)
アマルナの次はいよいよメンフィスです。
アマルナはアクエンアテンが遷都した旧王都である。
息子のツタンカーメンがテーベに遷都しなおした。
アマルナ文化は時代に咲いた空花のようにエジプト史主流から断絶して光輝いている。
写実主義が用いられ、非常に生き生きしたネフェルティティ像は特に有名である。
もちろん他の彫像も、従来の制約が取り払われ、人間らしく、肉感的になった。
そして制約の解放は街の配置においても如実で、アマルナでは西が死者の国という概念がない。
神殿や墓が街の北に配置されている。
おかげで・・・
「パトラ様、今、何か動きました。」
「ああ、ワジ、ネズミか猫か犬か?」
「大きさは猫くらいですね。十分に注意してください。」
お化け屋敷のように暗い神殿の中、浮き上がるリアルなマネキン・・・結構怖い。
おまけに居住区が近いせいか野良猫や野良犬が住み着いていた。
面倒なのがネコくらいの大きさといっても猫ではなく、ミイラだったりすることもあって気が抜けない。
アテン大神殿がそれほど大きくないのがせめてもの救いだが・・・ここにいなかったらアクエンアテンの墓地に向かわないといけない。
「レオス様、ミイラです。」
「はー、6匹目か。鰐かな猫かな?」
弓矢で射止めて動けなくしながらレオスがぼやく。
「形状からは蛇ですね。」
捜索を開始して1時間、主殿の神像痕に到着した。
(頭が蛸、体が人間の神像ってSAN値、削れそうだな・・・)
予想したのと違い崩壊したアトン像がお出迎えしてくれた。
どうしても千の顔を持つ神を思い出してしまう神像(邪神像じゃない!)をあちこち調べながらどうでもいいことを考えていた。
(今日はハンバーグでも作るか。)
いやほんとにどうでもいいことしか浮かばない。
この神像はもともとは泥煉瓦を積み上げ、表面を磨いて艶を出したものと推定されるが・・・いわゆる光る泥団子の超巨大版・・・絶対耐久性考えてないだろうといいたくなる。
でも千年単位で残っているところをみると・・・案外気候が合っているのかもしれないが、崩れた土塊を剣で刺したり掘り返したりするのも飽きてきた。
「ダメだな、ここには手掛かりはなさそうだ。」
俺が宣言する。
「じゃあ次は、どこにするパトラ?」
レオスも同意のようだ。
「神殿の方ということは街の北側だから、何か目ぼしいところがあるか、ワジ?」
「もう少し東の方にアクエンアテンの王墓がある程度ですね。」
やっぱりそこになるのか。
「あそこは盗賊には人気があるのですが、一つ有名な噂があります。」
人気がある?盗掘終わってないということかな・・・
「王の玄室にマジカルブリックが置いてありません。」
「マジカルブリックって?」
「玄室に必ず備えられている呪術用煉瓦なんですが、これを治める壁竈が見あたらないんです。」
「で?」
「まだ本当の玄室は見つかってないんじゃないかといわれてます・・・アクエンアテンのマジックブリック自体は王家の谷で見つかったんで、移葬してはいるようなんですが、本来の玄室がいまだにどこかにあるはずです。」
「そこに何かあると?」
「わかりません。」
その話を聞いた瞬間にピンときた。
おそらくデマラトスの狙いはそれだ。
神殿跡を抜けて東の谷に向かう。
この谷にアクエンアテンの墓は掘られていた。
「しかし、今までの常識が通じない王様だな?」
「その点は同意する。長くメンフィスにいたが、こんな様式があるとは思わなかった。」
墓の入り口で俺の言葉にレオスが同意する。
死後の方角とされるのは西、生者は東がナイルにおける不文律である。
それが全く無視されて、北に家臣の墓、北東に自分の墓、神殿と生者のための街もごっちゃに作ってある。
まるで、生と死を一緒にした混沌の都市をつくろうとしたようだ。
「パトラ様、レオス様、玄室の手前で右の壁が崩れているようです。」
たしかに松明の光に照らされた通路の奥で、石が崩れて穴が開いている。
「おかしいですね。あの辺も調査が終わっていたはずですが?」
ワジが首をかしげながら周囲を警戒している。
「行きましょう。」
レオスが先頭に立ち歩き始めた。
続いて俺、ワジとついていく。
ワジが言っていた調査されたのに穴が開いていた理由は簡単だった。
反響が変わらないほど大きい、たぶん3m以上の厚さの砂岩で通路が埋められていたようだ。
「これって絶対入らせる気なかったよね?」
「しかし人外が破壊したということか。」
俺の疑問に律儀にレネスが返答してくれた。
「そう考えるのが妥当かと思います。」
「問題はまだいるかどうかだな。」
二人の会話を聞きながら俺の中で、ものすごく嫌な予感が膨らんでいくのを感じた。
(なんだろう?ものすごく、ヤバい気がする。)
すぐに一つ目の部屋の入り口が見えた。
入り口の両サイドに分かれ、中を伺い見る。
そこにあった光景に全員が、嘔吐き、通路に胃の中身をぶちまけた。
あまりにも衝撃的な光景だった。
奇妙なレリーフが一面に施された壁の下の方、マジックブリックのための壁竈から、黒曜石のような光沢の捻じれた触手が無数に這い出て蠢いている。
その触手は干からび、骨に皮が張り付いたようなインスマウス人達の体内に食い込み蠢いていた。
恐るべきことにそのような状態になってもインスマウス人は殺してもらえず、触手が動くたびに体内で起きる激痛に声も出せず痙攣するのだ。
我々は、理性も何もすっ飛ばして墓の外に逃げ出した。
墓の外に出て谷の入り口まで戻ったあたりで、レオスが気を失った。
それをきっかけに俺とワジも足を止め墓の入り口をじっと観察した。
「あの岩盤は入れないためじゃなくて、出さないためのものみたいですよね。」
「そうだな、ワジ。あれって何だと思う?」
「触手の先が丸かったらアトン神に見えなくもないですが・・・」
あの光景は忘れたいがしっかり脳裏に刻まれてしまった。
嫌なほど細部まで思い出せる。
床で倒れていたインスマウス人は5体だった・・・そして壁竈からだらりと山羊の足がぶら下がっていた。まるで骨のない皮と肉だけの足のように見えた。
たぶんシェブ=ニグラス、ニャルラトホテプに敵対するハスターの妻、大地母神にして豊穣の女神・・・名状できない姿の女神っていうのも不思議な気がするが?
どう考えればいいんだろう?
ファラオはニャルラトホテプの力を借りていたはずだが、アクエンアテンのみ別の神を信奉したということか?
それともあれが出たからアマルナは放棄されたのか・・・?
「いずれにせよデマラトスはここでの力の奪取には失敗したとみるべきだな。」
「そうですね・・・あれで成功しているとは思えません。」
とりあえず集まってきた軍勢であそこの入り口を埋めよう。
まず出てこないとは思うが、奥までガッツリ岩や石を詰めておかないとメンタルがいかれそうだ。
ともあれレオスを背負って、舟に戻ることにした。




