アミルタイエスⅡ世
イナロス王子ですが、アミルタイエスⅡ世とおくり名をしていますが第28王朝のアミルタイオスから設定を一部借りてきています。
まあ、そういうことで
おそらくクレオパトラのどっちかが次の王朝の開祖になると思います。
(イナロスが何をしたの・・・)
消え入りそうな声でメネラオスは尋ねてきた。
「イナロスはしたんじゃない、為したんだ。」
ようやく彼女は俺の方を向いてくれた。
「あの時のことを思い出してくれ、君は投槍に貫かれ、兵士は蹴散らされていた。」
かすかに彼女がうなずく。
「俺は君から王錫を奪ったあと、そのまま敵を殲滅させた・・・自分の右腕を黒焦げにしたが。」
彼女の目が見開かれた、閃光で見えてないだろうとは思っていたが、やはり見えなかったらしい。
「大きな力が振るえたのは、剣、鏡、王錫3つの宝具をもっていたからだ。だが俺はそれを破壊のための力として用いた。じゃあ誰が君の傷を治し、俺の右腕を癒したのか?」
「私ではないわ。もしそれができるならイナロスを助けない訳がないもの。」
ようやく彼女の声が聞けた。意識が外にむかってきている、いい傾向だ。
「そうだ、君ではない。やったのはイナロスだ。」
メネラオスの顔に逡巡が浮かんだ。」
「でも彼はすでに倒れて宝具は一つももっていなかったのに・・・」
「手ではな、でも彼はすべての宝具と血でつながっていた。」
あの直前、俺はワジに突き飛ばされて投槍を転び避けた、そのせいで全身、泥と血にまみれていた。当然短剣と鏡も血まみれである。
王錫そのものは持っていたところを投槍で貫かれたんだ、血がついてないわけがない。
「彼が俺と同じ風景を見たとすると、魔術の対象が視界に浮き出ていたと思う。彼の場合は治癒魔術の対象だ。」
この辺は想像が入るが、彼はムト神官、大地の神の神官であることと無関係ではあるまい。
「彼はその対象に向かい治癒魔術を発動させ、代償として自分の身体を失った。」
その言葉を聞いたメネラオスは後悔に押しつぶされそうだった。
「じゃあ、私が怪我しなければ・・・」
「いや、君が怪我しなくてもイナロスは死に、骸が残っただけだと思う。」
余計な罪悪感は取り除かなくてはならない。
「でも、どうして骸が消えたの?」
その言葉を聞いて、まだアーシアでマケドニアの地で戦っていたころを思い出した。
(レイチェル達どこまで来てるんだろう?)
「前に治癒魔術をかけてもらったことがあるけど、その時には体の素になるスープが必要だった。」
「体の素のスープ?」
「ああ、肉とか骨とか血なんかをつくる材料のスープだ。」
今回はそんなものはない・・・つまり。
「彼はスープの代わりに自分の身体を材料にしたんだと思う。」
ヒッと小さな声をあげてメネラオスは息をのんだ。
「治癒魔術は時間を早めて、傷の治りを極端に速くする魔術だ。そのための栄養を何らかの形で同時に与えないと・・・傷はなおっても、やせ細って死んでしまう。」
メネラオスは背中を撫でながら俺の右手を注視していた。
「メネラオス、君が思っている通りだ。俺の右手や、君の背中・・・もしかしたら肺や心臓もかもしれないが・・・イナロス王子の血肉でできている。」
(・・・なんで、いつも私のために・・・)
呟くような声がメネラオスから零れた。
「君を助けたかった。たぶんそれだけだ。俺はおまけだと思う。」
(彼にはメネラオスをファラオにしてすまない、という負い目はあったのかもしれないが?)
イナロスの内心を推測するが、口から出たのは綺麗事だった。
嘘だろうと何だろうとメネラオスに立ち直ってもらわないといけない。
「彼がくれた体と命だ、君が好きなように使えばいい。ただイナロス王子の想いだけは伝えたかった。」
俺の話はこれだけだ・・・あとはゆっくり休んでくれと伝えると、彼女から鏡と王錫を預かった。
彼女はそのままベットにへたりこんだ。
主殿に戻った俺はワジに二つのことを神殿に伝えるように依頼した。
一つはメネラオスにイナロスをよく知っていた神官をつけて世話させること。
もう一つがペルシア軍の動向を教えてもらうことである。
タニスに終結したペルシア軍は10万人。
やはり、属領の反乱には本気でくるようだ、マラトンより桁が一桁多い。
王の親征というのも大きいだろうが・・・
現在はメンフィスに向かって移動中だ。
ルクソール近辺で徴兵してもいいところ2000人。
ナイル川を下りつつ、どれだけ兵が集められるかが勝負のカギになる。
次に大規模な募兵が見込めるのはアマルナ近辺、そして最大の人口を持つのがメンフィス近郊だ。
何とか敵より先について募兵を行わないといけない。
「ナイル川そのものは歩く距離の倍は移動できますが・・・季節風が吹くと船足が極端に落ちます。」
ナイルは増水期を過ぎたせいで時速は2kmもない・・・帆を使えば上流へ向かうことすらできる。
つまり、舟に当たる風でも十分に速度が落ちる。
「それはシーアンカーで対応しよう。」
簡単に言えば水中に縄で張った帆を沈めて、川の流れの影響を強くさせる。
本来は暴風用の抵抗材なんだが・・・
これでだいたい一日60kmぐらいは移動できる。
メンフィスまでは・・・約1週間
途中で募兵することも考えると10日か・・・綱渡りになりそうだな。
ここまで順調に行ったとしても、最後に兵力の問題がある。
期間が短すぎて、最大に集められても2万がいいところらしい。
「せめて、洪水期ならな」
川舟の喫水は30cmもない。
浅瀬をすすみ、敵がぬかるんだ地面を相手に苦戦しているところを小船で叩くという方法がとれるのだが・・・
この攻撃方法を聞いたワジが提案してきた。
「ヘリオポリスの近くにアテナイ人の湿地と、呼ばれる場所があるのですが?」
「アテナイ人の湿地?」
「ええ、今から10年近く前にアテナイ人がそこに湿地を作ったそうです。そのアテナイ人はカタローニアの方に向かったようですが。」
「なんでアテナイ人が湿地を作るんだ?」
「何かを作っていたようですが…気候が合わないとかで?でも湿地そのものは数kmに渡ってますので戦場になる大きさは十分あります。」
気候があわない、湿地、アテナイ人、カタローニア…あああ!
父上また、助けられたかもしれません。




