ファラオの遺品
投槍器は新石器時代には一般的だったんですが・・・近世ではなぜか中南米のみ伝わっています。
投槍で130m先の1mの的に当てる祭りがあるほどに性能がぶっ飛んでます。
素手のやり投げの記録だと1984年に104.8mがあります。
オリンピックはその後、飛ばないように槍の重心のルールを変更したので90m台になってます。
絹を裂くような悲鳴が上がった。
ボクは現実感もないままに見張り台からイナロス王子を見下ろしていた。
何が起こったかと周りを見回していると、突然に後ろからタックルで押し倒された。
=ヒュン=
今まで頭のあった位置を、投槍が通り抜けていった。
「大丈夫ですか?パトラ様。」
「ワジ!?」
ボクを押し倒してくれたのはワジだった。
「きました!」
また一本飛んできた。今度は床を横に転がって避ける。
そのまま見張り台の階段を転げ降りると建物の影に隠れる。
いま飛んできた投げ槍は100m以上離れたナイル川岸から放たれていた。
それで人間を狙うとか・・・オリンピック選手でも無理だと思うが・・・
「蛇神の尾ですね。」
物陰に入り、一息ついたところで、ワジが教えてくれた。
どうも投槍器のことらしい。
ワジがいうには射程は倍に伸び、威力は4倍とか、犀やキリンを狙うためにエチオピアの戦士が使っていたそうだ。
「なんで、そんなことを知ってるんだ?」
「井戸掘りの仕事はナイルよりあっちの方が多いですよ。」
考えてなくても、ナイル川岸よりはサハラ砂漠の方が井戸掘りの要請は多いだろう。納得した。
イナロス王子が心配で覗きこもうとすると、すぐに川岸から槍が飛んでくる。
(・・・目がいいのかな?蛙はどうだっけ?)
蛙は動体視力に特化している・・・動かなければ見えないはず。
つまり覗き込んだ動きで気が付く・・・厄介な奴である。
「パトラ様、これがご希望の品です。ご確認ください。」
こんな中、ワジが懐から出してきたのは直径15cmほどの黄金の円鏡だった。
この黄金鏡、よくよく見ると手が込んでいる。
ベースは銅、その上に1mmにも満たない金板が貼り付けてあり、さらにその上に錫の縁取り、その内側に針先で書いたような線文字Bがびっしり刻みこんである。
刻みのある部分からは下地の銅が見えていた。
観察も早々に、可能な限りゆっくりと物陰から鏡を出し、イナロス王子を探す。
間違っても反射光が川に届かないよう手前から映していく。
イナロス王子はさっき槍が刺さった場所で倒れていた。
そのあたりは一面、血の海である。
真っ赤な景色の中、メネラオスは王子に覆いかぶさり泣き崩れていた。
何人か守備隊が迎撃に向かっていたが、半分もいかないうちに槍で打ち斃された。
(どうすればいいんだ。こんな状況!)
弓矢は効かないのはわかっている、むこうの投げ槍は必殺。
近接戦闘は向こうの無双状態・・・手も足も出ないまま、状況を必死に整理していた。
ひとつ、ふたつ、みっつ、深呼吸をして心を落ち着ける。
・・・落ち着け・・・ここにいる間は槍は飛んでこない・・・??・・・なぜ見張り台では飛んできた?
そういえば、まず奴らが槍で狙ったのは王子とボク?
「ワジ、おまえも槍で狙われたか?」
「ええ、つく前に何度か飛んできましたが?」
兵士は迎撃に向かわない限りは狙われてない。
狙いはファラオの遺品か!!
それで襲撃の理由も分かった。
もっとも、この鏡が何なのかは予想もつかないが。
影から影を縫うようにして、イナロス王子のもとに向かうルートを考える。
たぶん槍を投げている奴以外は、すぐそばの水路に潜んでいると思う。
急がないと。
「ワジ、これの発見した状況を教えてくれ。」
「はい、アルカイオスは王家の谷の作業小屋跡で黄金鏡を発掘したそうです。発掘時、鏡一面に乾燥した血が付着していたことから、拷問用、もしくは処刑用の道具だったのではないか、ということでした。」
「拷問?処刑?どうやって・・・?」
どう見ても平滑な皿、周囲は錫の縁取で盛り上がっているが?
「その縁取りが見えなくなるまで出血させ続けるとかではないですか?アルカイオスは苦痛よりも精神的に追い詰めることを想定したようです。」
うーん、よくわからない?
ともあれ王子のところに行って王笏を手に入れないと、蛙が来た時に対応策がなくなってしまう。
親衛隊に来られたら、それでも勝てる気はしないのだが・・・ないよりはましだ。
ボクらがコソコソと移動を始めるとすぐに反応があった。
神殿近くを流れる運河の川底が巻き上がったかと思うと、泥で底が見えなくなった。
「動いたのは3つです。」
ワジが水面を観察していたらしく教えてくれた。
「アグネス、蛙が来る。王笏で王子の敵をとれ!!」
メネラオスに向かって叫ぶ。
その声を聴いたのか、メネラオスはのろのろと顔を上げた。
そしてゆっくりと王笏に手を伸ばす。
水面から3人の蛙が飛び出すのと彼女が王笏に触れるのは同時だった。
彼女に向かって殺到するインスマウスが、まるで見えないドームにでもぶつかったように空中を滑り落ちる。
しかし落ちながら投げた剣はメネラオスの腕をかすめ床に突き立つ。
「ワジ、投げ槍が来たら突飛ばせ!」
ボクはそういうと物陰から飛び出し、メネラオスのもとに突っ込んだ。
おまけ
=ナイル流域図=
=ファラオの王笏=
おまけは次回以降の行動範囲の説明のためつけてあります。
王笏は外観のせるの忘れてました。orz




