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メロエ王国

エジプト第25王朝はエジプト放棄後クシュ王国を建国、そのクシュ王国がメロエに遷都して以降はメロエ王国とされています。

メロエ王国はアッシリアからの製鉄技術を受け継いだ国で、紅海からインド洋にいたる貿易拠点として発展しました。

AC4世紀半ばにエチオピアに興隆したアクスム王国に滅ぼされるまで、独自の文化(文字)を発展させたようです。・・・女王もいたようだし

胸を凝視するイナロス王子、これってセクハラじゃないかな?

(ねぇ、メネラオス。王子がボクの胸ばっか見てるんだけど?)

(ああ理由は後で説明する。今は気にしないように。)

(気にしないでっていってもねぇ・・・)

イナロス王子のほかにも数人神官がいるようだが、彼らもボクの胸を凝視している。

ここまでくると疑問の方が強くなってきた。

別に巨乳というわけではないんだけど・・・


「イナロス王子、ご所望の王錫(ネウスト=ジェト=テァーミリ)を入手しました。」

その間に彼女はボクから王錫を受け取り、布をほどき進み出て王子に手渡そうとしていた。


日のあかりの中で見ると王錫はさらに不思議な色合いを示している。

玉虫色がかった薄い金色というのが一番近いイメージなのだが、まったく色が一定していない。

地色の金色ですら濃くなったり薄くなったりしている。

まるで虹色の蛇が手の中で動いているようだ。


(蛇の杖・・・どっかできいたような・・・)

ボクは蛇の杖について何がひっかかるのか思い悩んでいた。


その間にもイナロス王子が王錫を受け取り、細かく観察していた。

しかし、メネラオスが手にした時のような発光現象は起きていない。


(パトラ様、やっぱりあの王錫はメネラオス様を選んだんじゃ?)

小声でワジが呟いてきた。


(ワジ、蛇の杖で何を思い出す?)

(へ?)

予想外の質問でビックリしたのであろうワジが一瞬固まった。


(・・・そうですね、アスクレピオスの杖かヘルメスのケイリュケイオンだと思いますが?)

「ケイリュケイオン!」

その言葉で納得がいった。

ケイリュケイオンは神々の伝令を証明する二匹の蛇の巻き付いた杖、ヘルメスの持ち物だ。


突然、叫んだボクの声に周囲がビクッとなった。


「クレオパトラ、ケイリュケイオンとはどういう意味だ?」

メネラオスがこちらを怖い目で見ている。


「その王錫が神々の伝令を示すケイリュケイオンの杖と重なって見えたの。」


その言葉をメネラオスが、おそらくはコプト語であろう言葉に翻訳して神官たちに伝えている。

神官たちにもざわめきが広がっている。

歓喜しているんだと思う。


「先の言葉、アポロ神の巫女からの預言と受け止めていいかな?」

「とっさに出てきたので、判断しかねるけど、問題はないと思います。」


メネラオスがボクの正体を明かしたらしい。

預言に取られても、特に問題はないだろう。

実際、古き神々の叡智が詰まってそうだし・・・


神官団の相談の声が聞こえてくるが・・・全然わからない。

コプト語だとは思うんだけど?


しばらくすると話し合いが終わったようだ。

メネラオスが通訳してくれる。


「王錫を手に入れた情況を聞きたいそうなので、呼び出しがあるまで宿で休むようにとのご命令だ。」

「命令なんだ・・・」

「おさえろ、パトラ。相手は王族だぞ。」


不満げなボクの顔をみて、慌ててメネラオスが割って入ってきた。

そのまま、外に連れ出され、巡礼用の宿に入れられた。

宿は泥煉瓦でできた一般的な家で、開口部は入り口以外ない。

そして、その入り口には神殿からきた見張りが貼りついていた


部屋に入るなりメネラオスが謝ってきた。

「すまない。不愉快とは思うが許してくれ。」

「王家の秘宝を持ってきた人間に、礼のひとつも言わずに軟禁するのが礼儀なの。」

「そういわないでくれ、あの場には神官たちがいたんだ。イナロス殿下が礼を言えば、民草に弱腰の人間で、ファラオにふさわしくないと判断される。」

「・・・はい?」

「それぐらい気位が高いんだ。自分たちを治めるのは、神もしくはその子供しかできないと断言する連中だ。」


選民意識もここまでくれば呆れるしかないが、1000年単位で神の子が支配していた地域なのだからしかたがないのか。


さて、補足説明です。

クレオパトラがいる時代は末期王朝期、そのなかの第26王朝終焉直後です。

ペルシアの侵攻により国内はボロボロ。

第26王朝最後のファラオのプサメティコス3世がペルシアのカンピュセス2世に殺されてから35年が過ぎています。

カンピュセス2世没後はダレイオス1世が支配していました。

エジプト王家は断絶中です。

このためペルシアへの反乱も、統一性がなく独立運動のような形にはなっていません。

そんななかダレイオス1世がリヴィア鎮圧の際に死亡するという事故が無ければ、ペルシア戦争も史実から大きく形が変わったであろうことは間違いないでしょう。


「でもイナロス王子ってボクの胸を見てただけだよね・・・」

「それも理由があるんだ。」

メネラオスは訥々と話し始めた。

もし王子がボクの顔を凝視したり話しかけたりすれば、花嫁候補に入れられる。

(なんと本人イナロスの意志関係なし・・・)

下半身、特に尻を見るのは恥ずかしくて失礼なことだそうだ。

これは、ヌビア人の脂肪を蓄える場所が腹ではなく尻という生物学的な理由で、太っている、やせているをジロジロとみられるのは女性側が恥ずかしくてたまらない・・・ということらしい。


「それで、胸なのか。」

「ああ、消去法的にそこしかないんだ。」

「ヌビア人の慣習って・・・」

「イナロス王子の母上がそうだ。」

ここまで聞いて疑問に思ったのだが、なぜにヌビア人がファラオに嫁いだんだろう?


「ナイルの上流、ベルベル人の領域を超えて、青ナイルと白ナイルの合流点の少し下流にメロエ王国という国がある。」


青ナイルと白ナイルの合流点って・・・スーダンじゃないか。地図で行ったら紅海の横あたりだ。


「彼女はそこの王女で、エジプト第25王朝の末裔でもある。メロエ王国は製鉄と貿易で栄えている豊かな国だ。」

このメロエ王国、昔ペルシアのカンピュセス2世の遠征軍を撃退したことがあるらしい。

今に至るも地理的な優位を活かし、独立したままとのこと。

プサメティコス3世の血縁がすべて死罪になったあとも、イナロス王子が生きていられたのは、このメロエ王国との関係もあったらしい。


「というわけで、血筋的には問題ないんだが・・・どうしても民衆がな・・・」


まてよ、第25王朝はヌビア人の作った王朝だとしたら、肌の色は?とおもってメネラオスに聞いてみると、いろいろ苦労してた。


第25王朝開祖ビアンキの時は、まだアメンの聖妻ヘメト・ネチェル・ネト・アメンにシュプエンウェプト1世がいた。

そこで彼女の養女に自分の妹を押し込み、アメンイルディス1世として、その妹と結婚することで、神の子の父親という形で統治した。

そのアメンの聖妻も第25王朝の断絶と共に断絶したから、その手は使えない。

はー、うまくいかない。


・・・


あれ?


もしかしたら・・・太陽神の聖妻の養女なら・・・用意できるかも・・・

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