ヘレネ島上陸戦
ヘレネ島はスニヨン岬のすぐ横のメイクロニソス島の古名です。
スパルタ海軍の船16隻(1隻解体)の名前と船長は決まってるのですが、ずらずら書くのもなんですし、だんだん出していきます。
アーシアが地図をかけないのは描画系の技能を持ってないからで、布に書くのは裁縫の捺染を使ってます。
声を聞きつけたらしいキモンが駆けつけてきた。
「父上、何がありました!」
「わからん、すぐ動かせる船はなんだ?」
アーシアの問いにキモンは、少し考えると
「一番艦イオニア、九番艦アリステラ、一三番艦メッセニアの三艦です。」
「船長は?」
「サンチョ、エウテュキデス、カリアスになります。」
「よし、三隻にサルピズマを分乗させろ。三隻の船長はイオニアに集合。」
アーシアは矢継ぎ早に命令を出すと、港の見張りに問いかけた。
「見張り、アテナイ海軍に動きは?」
「・・・10隻ほどが抜錨中、今、動き始めました。」
(まずい、懸念が当たったか?)
「方向は?」
「スニヨン岬の方向です。」
(・・・まずいな。)
「3隻の出港準備を最優先!アテナイ海軍を追いかける。」
30分後、イオニアの船内レストラン「イオニアの恋人」に船長たちが集まっていた。
二番艦アカイアの旗艦艦長兼船団長キモン、一番艦艦長兼サルピズマ総隊長サンチョ、九番艦船長エウテュキデス、一三番艦艦長カリアス、それに加え、一番艦副長ソバネス、旗艦副長オリュンピアドスが出席している。
「まずはこれを見てくれ。」
「へレネ島だ。この赤い部分のみが上陸可能な砂浜になる。」
木綿の布に染料で絵付けを行った俯瞰図をテーブルの上に広げる。
・・・布に筆で描くのはできるのに、羊皮紙にペンで書くと変な形になる・・・理不尽だ・・・
「司令官・・・これは・・・」
エウテュキデスが呻く。
「ああ、よほどうまく奇襲しないと血河屍山ってことになる。」
「作戦を説明する。」
アテナイ海軍はほぼ間違いなく南の砂浜からの上陸作戦を行うと考えられる。
その数は出港した船の数から300人と推定される。
対するペルシア軍はアテナイ残党が100人未満+αだと思われるが・・
「このプラスαがスパルタのデマラトスと近衛兵の可能性がある・・・その場合は上陸部隊は全滅する可能性が高い。」
!!!
「ただの考えすぎならいいのだが・・・嫌な予感がぬぐいきれないんだ。」
アーシアの発言に全員がしっかりうなずく。
「では殿、確認のため見学に行きますか。」
サンチョがわざと軽い口調で場を和ます。
「そういうことだ。みんな頼むぞ。」
各員が手を尽くして出港できたのはそれから1時間後だった。
艦隊は、二番艦副長オリュンピアドスとコリーダ以外の女性陣に任せ、修理を急がせることにした。
三隻の分遣隊が出港したとき埠頭の先に時代違いな女性が見えた。
白のワンピースとロングソックス、つばの大きな帽子に飾りのリボン、肘上の手袋に、サングラス・・・胸には白猫を片手抱きしている・・・言うまでもない姫様だ。
こっちに向かって手を振っている。
「いいもんだな。見送ってくれる人がいるってことは。」
「そうなのですか、父上」
今回キモンは船団長の資格で強引についてきた。
「ああ、帰れる場所があるって気がする。」
「なるほど。」
アテナイ海軍はすべてが三層櫂船である。このためスパルタ海軍は船足だけはかなわない。
どうやってもむこうの方が先につくだろう。
アーシアは櫓に上がると戦列を確認した。
先頭を進むのがイオニア号、カッターを四隻備え、サルピズマを乗せた今回の主力だ。
漕ぎ手も一〇〇名でスパルタ海軍では一番の優速である。
次に進むのはアリステラ号、二層櫂船の輸送船型で戦闘員は二〇名、漕ぎ手は八〇名である。
船長のエウテュキデスは旗艦副官のオリュンピアドスの父親である。
殿はメッセニア号、ラムヌースで建造された輸送船一号艦で大きさはアリステラと同じである。
木材の質が良いので若干耐久性が高い。
船長はカリアス、元ヘイロイタイの船長である。
これらに乗った戦闘員約一〇〇名と漕ぎ手二六〇名が今回の分遣隊の全兵力である。
「このままいくとつく頃には夕方になりますが・・・」
「潮はどうなっている?」
「つく頃は満ち潮ですね。大潮ですので結構な水位で寄せられていると思います。」
「・・・メッセニア・・・を使うか。」
分遣隊は急いだがおそらく二時間以上アテナイ海軍より遅れてヘレネ島に到着した。
「アテナイ海軍の戦闘確認、南の砂浜が真っ赤です。」
そこには酸鼻を極める風景が出現していた。
人間の死体を土嚢代わりに積み上げ、流れ出した死体と血が海を赤く染めていた。
アテナイ海軍の軍船のうち四隻は燃え上がり六隻は姿が見えない。
「戦闘員が三〇〇名、漕ぎ手が三〇〇〇名・・・まさか全滅したのか!!」
副長のソバネスが声を張り上げる。
「間違いなくいるな!」
アーシアはそう叫ぶと櫓に上がるピュトン旗を見ながら指示を出した。
「作戦決行、本艦は左手の岩礁地帯を目指す。座礁にだけ気を付けろ。」
「両舷半速、見張り厳重にしろ。」ソバネスの声が響く。
「アリステラ続きます!その後ろにメッセニア。」
「砂浜まで3スタディオン!」
櫓の見張りが声を張り上げる。
「舵左一杯、左舷全速。」
=グォオーーーン=
船が大きく回頭する。
「両舷全速!喚声上げろー!」
「おーーーー!」
船の歓声につられて砂浜の後ろの茂みから人間が出てきた。
「アリステラ回頭しました。続いてきます。」
「メッセニア、舵そのまま・・・あと1スタディオン、このままだと砂浜に乗り上げます。!」
「サンチョ準備はいいか。」
「はいキモン殿、サルピズマ全員武装済みです。」
「全員漕ぎ方やめ、衝撃に備えろ。」
腹の底から響くズォーーンという音とともにメッセニアは砂浜に乗り上げた。
「セーノ」
バコーーン
大音響とともに船腹の一部が吹き飛び、人が出入りできる大きさの穴が開く。
「神兵サルピズマ吶喊」
その穴から飛び出したのはサルピズマだ。水は股下までしかないので、全力で走り始める。
同時に漕ぎ手をしていた戦士も甲板へ駆けあがり、投げ槍や弓矢で出てきた敵を撃ち殺していく。
「りゃあ!」
サルピズマの先頭を走っていたサンチョと敵の指揮官がぶつかる。
敵の指揮官は十分に鋭い剣撃を送ってきたが、衝撃が抜け切れていなかったのだろう。サンチョの矛に胸を突き刺される。
そのあとは、ほぼ一方的な展開になった。
「深追いするな!追い払ったら、周囲の生存者を捜索!」
キモンが船の上から命令を出す。
サンチョがその声を聴いたときにほほに鋭い痛みを覚えた。
(最初の敵か・・・)
捜索を部下に任せると、最初に出会った指揮官らしい死体に向かった。
指揮官の剣は見事なダマスカス模様が浮き出た剣であり、柄頭にエウリュポン家の文様が入っていた。
(・・・殿、想像が当たっていたようです。)
あたりの死体を数えると四十名程度、ドーリア人らしいのは指揮官一人だった。
(デマラトス達は撤退したか。)
暗くなり始めたので松明を使いながらアテナイ人の生存者を探索する部下をみて思う。
(よかった、こんなのが四十人もいたら全滅していた。)
「おーい、無事かー!」
アーシアがカッターを率いて近づいてくるのが見えた。
「殿、こちらです!」
報告すべき内容を頭の中でまとめながら、サンチョは大きく返答した。