インスマウス人
先日、都心の某大型書店で
「お、クトゥルフの呼び声、第4版見っけ・・・げ、所持金が足りません。」
来月行ったら買ってこようと思います。
しかし、古代ギリシャと平安人って、実は似たような文化センスしてたんではないかと思うこの頃です。
ゴラングワン
音を立ててバリケードだった宝物が石棺にぶつかる音がしている。
ボクらは息をひそめ、耳をそばたたせてナニカの動きを聴き取ろうとする。
(ここは石棺の中、音を立てなければやり過ごせるかも・・・)
こっちの臭いは没薬で消えているはずだし
=ドゴーン=
淡い期待は石棺を叩く轟音に、すぐに消えた。
(パトラ、たいまつ、たいまつ。)
ああ、松明の光が開口部から漏れてたか・・・見つかるよな、そりゃ。
見つかった後なのになぜ、メネラオスは小声で注意してくるのか。不思議だ?
思わずそんなことで現実逃避したくなった。
「蓋を持ち上げて!」
現実逃避もできずに蓋を落としてぶつけようと考える。
後ろにずり下がり、四つん這いになり背中で蓋を持ち上げようとした。
「ヴッ!」
激痛が胸をはしった。
・・・乳首が擦れた・・・
こんなことで、女性化を実感するとは思わなかった・・・
胸帯無しだとこうなるのか、思っても見なかった。
「どうした、パトラ?」
「胸が・・・擦れて痛い。」
なぜ?メネラオスの方から静かな怒りを感じる・・・あ、まな板か!
「バカ言ってないで、急がないと!」
ワジが素早く体を移動させると、蓋を持ち上げ始めた。
石蓋は3人で力を合わせると僅かに持ち上がった。
その瞬間、ドゴンと音がして石棺全体が揺らいだ。
蓋はその衝撃を受け、跳ねるように上下し、バランスを崩すと前面に滑り落ちて行った。
石蓋が落ちるグワーンという音にプチという音がまぎれて聞えた。
そのあとに「VARYUUGZANN」という絶叫とのたうち回る音が聞こえる。
その音を聞くなり、俊敏に行動を起こし、松明を拾って下を確認したのはメネラオスだった。
「やったか!」
だめだ、メネラオス、そのセリフはフラグ・・・
「えぇーくぁwせdfrtgyふじこlp;」
メネラオスが奇妙な声と共に硬直する。
ん?
続いてワジが覗き込み、そのまま硬直している。
「・・・気色悪・・・」
その声に慌ててボクも下を除く。
松明の明かりに浮かんで見えたのは、蓋が腰のあたりに当たったらしく、上半身と下半身が生き別れになった蛙人間だった。
何が気持ち悪いって・・・胴体両方とも激しく動いてる。
上半身は千切れた部分から、コードのように赤黒いひものようなものを引きずりつつ、壁をよじ登ろうとしてる。
下半身は全力疾走で走るときのようにバタバタと動いている。
上半身はおろか下半身も動きやむ気配がない。
「あー、インスマウス人て赤い血だったんだねー」
「何言ってんですか、緑ですよ。ものすごい新鮮な緑です」
ワジが突っ込んできた。
すげーな、お前。まだつっこめるのか。
=閑話休題=
ここでワジが突っ込んでくる理由だが、古代ギリシャの人々にとって色は視覚よりも状態を表す意味が強い。日本人にとって新緑を青葉というように緑=新鮮なものを表す色なのである。つまり死んでしばらくしていれば赤と認めてくれたろうが・・・全然死んでねーよ!元気じゃねーか!とワジは突っ込んでいるのです。
見ているうちに上半身は指先の吸盤を使って石棺を登り始めた。
「パトラ様、登ってきてます。」
顔を真っ青にしてワジが報告してくる。
「だね。」
「どうしましょう?」
「こうしましょう。」
ボクはそういうと刃の欠けた剣で指を一本一本切り落とし始めた。
その作業に納得したらしくワジも反対の手の指を落とした。
妙に鈍い音を立てて上半身が落下していく。
「パトラ様、殺す方法はないんですか?」
落ちても元気な蛙人間にワジが涙目で聞いてくる。
「焼けば何とかなるとは思うけど・・・ここではやりたくないな。」
密室でたき火は危険すぎる。
「はー」ワジは大きくため息をついた。
「さっさとお宝もらって逃げましょう。」
「ほっといていいんですか?」
「別に退治に来たわけじゃないでしょ。」
あくまで目的は王錫である。
メネラオスは役に立たないので・・・ワジと二人、順々に石棺を暴いていった。
「黄金の棺ですよ・・・・すごい。」
「これ含めてあと3層だったと思う。サクサクいきましょう。」
そうして最後の黄金の仮面にたどりついたとき、ボクは失望した。
「ダメだ。この王錫も黄金製だ。」
ミイラがもっていたのは孔雀石と黄金で作られた見事な王錫だったが、黄金の鉄という謎の物質ではない。
ミイラの脇にないか山のような副葬品をかき分けて王錫を探す。
「なんだろこれ?」
ワジが様々な副葬品の中から黄金の柄と鞘のナイフらしいものを取り出した。
「ナイフですかね?」
彼は何気なくそれを鞘から抜いた。
R15にしといてよかった。