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金蝉脱殻の計

最近、資料とギリシャ文学ばっか読んでて、ラノベが読めてない・・・

本末転倒になってる気がします。(ノД`)・゜・。

贔屓のなろう作家の皆さん、更新待ってます。


ヘレネ島は南北に10km、東西は最大でも2km、ほとんどが1km程度の細長い島である。

地形はまるでウナギの開きのようで、背骨状にが緩やかに盛り上がった山々が連なり、そこから両側に谷や山が伸びている。

特産物があるわけでもないこの島は、今まで放置されていた。

その理由の一つが水がないということだ。


ピレウス港沖海戦の翌日、酒場でアーシア達と船長達のみが集まって軍議を行っていた。


「水場は中央に一か所・・・幅20m程度の池か。」

「それよりも上陸地点がない方が困ります、父上。周囲のほとんどは岩場です。上陸に適した砂浜は島の南端に50m程度、中央東の30m程度の2か所しかありません。」

「当然敵もそこを警戒してるわよね。なにこれ、まるで砦みたいじゃない。」


地図を見ながらキモンと姫様が意見を述べる。


「加えて上陸できても、見通しのきかない凹凸の激しい地形。中央の山脈に兵を配置されれば圧倒的にむこうが有利。これは厳しいですな、殿。」


サンチョが地図に指を這わせながら言った。


「スニヨン岬から見える場所しまで、ここまで籠城に適した場所か。戦略眼が確かな人間だと思う。問題は率いている兵の質と数なんだが・・・予想通りなら最悪だ。」

「アーシア様、誰だと思っておられますか?」

俺の態度に疑問を覚えたらしくピュロスが尋ねてきた。


「スパルタの追放王デマラトスだと思っている。」

弛緩しかかった空気が一気に張り詰める。


「父上、根拠は?」

キモンが確認を求める。

「ない。勘だ。しいて言うなら・・・残った人間がヘレネスが主体というのが気にかかる。」


「勘なのね・・・予言巫女の勘となると・・・神託に等しいわね。」

笑いをこらえるような表情で、パンドラがまとめる。


「では、船長は物資の補給を済ませ、船の応急修理を急いでくれ。敵はデマラトスとその側近を想定する。父上これでよろしいですか?」

「うむ。あとは脱走した船乗りがいないか確認。いたら処罰してくれ。まだ戦いは終結できていない。」

「わかりました。以上だ、次の定時伝達は日没前、解散。」

キモンが仕切り、お開きとなる。


船長たちが消え身内だけになったところでアーシアがぼやく。

「・・・しかしまいったな。デマラトスが相手だとすると、近衛兵のラケダイモンがついてくるぞ。」

「ご主人さま、ラケダイモンの近衛兵ってどれくらい強いんですか?」

興味本位でコリーダが聞いてきた。


「うちだとサンチョが互角、コリーダだと長期戦になって負ける程度かな・・・」

「私と互角というと、千人将並みですか。」

室内の空気が凍り付く。


「それが40人だ・・・考えたくないな。」

「アーシア、そうはいっても何とかしなければならんのだろう。妾が魔術をつかえれば・・・」

赤い瞳の姫様が悔しそうにつぶやく。


「レイチェル、そんな不毛なことは考えないの。アーシアのことだから考えはあるんでしょう。」

「アーシア様、パンドラ様の言ってることはほんとですか?」

「まあな。」


その場にいる人間の目が一気にアーシアに集まる。


「まず、第一に重要なのはデマラトスがいるかどうか。この点だが・・・確認の方法が上陸して戦闘しかないのだから、いたとわかったときには甚大な被害を受けている。」

周囲を見回すと全員がうなずいた。


「だから、確認しなくても済むような作戦にする。」

キモンとパンドラはすぐに理解したようだ。

サンチョも一呼吸遅れて気づいた顔になる。


上陸地点すなはまを海上封鎖する。」


・・・


「上陸はしない。戦闘もできればしない。」


他の面々が驚く顔になる。


「敵が自由に動けないようにだけすれば、スパルタの援軍が到着した後、反逆したラケダイモンの始末をレオニダス王子にでも頼めばいい。」


クククとパンドラが笑いをこらえながら話しかける。

「悪辣ねぇ、アーシア。援軍到着前に敵が動き出したときは?」

「海戦になればスパルタ海軍の方が圧倒的に有利になる。その時は押し潰す。」


「父上、一つだけ疑念が・・・スパルタは確実に動くでしょうか?」

「それに関しては到着を神託で見ている。彼らは来るし、軍司令官ボレマルクの要請があれば間違いなく動く。忘れるな。アーシアをボレマルクにしたのはスパルタだぞ。」


全員が納得顔になった。


「もっとも、デマラトスが相手なら、金蝉脱殻の計だと思うがな。」

「金蝉脱殻の計ですか・・・」

「kinnsendakkaku?なにそれ」


ああ、久し振りに自動翻訳が効かないな。


「金蝉脱殻の計っていうのは、蝉が抜け殻を残して飛び去るように、あたかも現在地に留まっているように見せかけておいて主力を撤退させる戦法だよ。 」

「つまり、デマラトスはペルシア軍を退却させるためにヘレネ島にいるふりをしているということですか?」

キモンは理解が早い。有能すぎるくらい有能だ。


だから鍛えられるだけ鍛えたくなる。


「キモン、問題はそこだ。デマラトスが相手なら、その可能性が高いが、単にアテナイの残党の場合は実際に集結している可能性が高い。見逃せば100人程度でも本土を荒らすことぐらいはできるだろう。」

「めんどうですね・・・」


「だからどっちでもいいように島に蓋をする。今の段階でいなくなっていれば、スニヨン岬に連合軍がいる以上、反対側のエウボイア島か小アジアに逃げたと思う。空の島を見張ることになるかもしれないが危険を冒す必要はない。」

「わかりました。船の配置とローテーションを考えます。」

「漕ぎ手の疲労に気を付けて計画してくれ。キモン。」



全員を部屋にもどし一人になった。

心に引っかかっていた懸念が浮かんでくる。


・・・気になるのはアテナイの要請がまだ来てないことだ。


下手に独断で上陸作戦をやられると、デマラトスに功名をなさせ、かつ逃げられるという結果になるかもしれない。


テミストクレスも執政官だが10人のうちの一人にすぎない。

海軍だとミルティアデスの影響もまだ少ない。

スパルタ海軍への対抗心から、暴走しないといいが・・・


「ニャア」

「やあ、ホルス。遊んでほしいのかい?」

テーブルに頬杖をついて考え事をしていたらホルスが声をかけてくれた。

そのまま膝に飛び乗ってくる。


撫でながら、ふと、映画のマフィアのボスを思い出した。

つい口元がにやける。


すると不思議なもので気分もわずかに切り替わった。

・・・アテナイ海軍はアテナイ、スパルタ海軍はスパルタ、もともと要請は受けても、命令は受けないか・・・


「キモン、サンチョ、出港準備、急いで出られる船を選べ!」

声を張り上げると、ホルスを抱いたまま、部屋の外に出る。


「コリーダ、イオニア号にピュトン旗を掲げてくれ!旗艦を変更するぞ。」


待っていても要請がくるかどうかわからないなら・・・自分で決めて動くだけだ。


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