KV62
KV62はツタンカーメンの墓です。入り口はKV9ラムセス6世の墓のすぐ下にあります。
新王朝期の墓不足は深刻でKV9自体がラムセス5世の墓を6世が奪って拡張したものだったりします。
ミイラは他の王の墓に合葬したようです。
KV62に関しては、壁画や彫刻にネタが仕込んであるという点で、他の王墓とは一線を画しています。
(こっそりアトン神を壁画に埋め込んだり、神々の彫刻の中央が人間になってたりとか・・・)
このため、もともとは王の墓ではなくて、移転先とも考えられます。
本来の王の墓はWV23ではないか(ツタンカーメンの家臣だった、次の王アイの墓)ともいわれています。
そっちの方が立派ですし・・・盗掘されてますが・・・
「ところで、君のことはなんて呼んだらいいの?」
ボクは、メネラオスorアグネス?に尋ねた。
「メネラオスで。ここにいたのが女性ということは知られたくない。」
声が低く、男声になっている。もっとも女性とわかった今では、作った声とわかってしまうが。
「了解。じゃあメネラオス、君の目的は王錫をイナロスに渡してリヴィアを独立させること、でいいのかな?」
「ああ、リヴィアを独立させてテアーミリに戻すのが彼の夢だ。」
「テアーミリ?」
「ファラオが治める上下ナイル地域の総称だ。」
(うーん、だいたいエジプトって意味かな?)
それにしてもメネラオスはイナロスのことを口にするとき嬉しそうに頬を上気させている。
これは・・・あれだろうか。
「メネラオスってイナロスが好きなの?」
ド直球で===
「イ、イナロス王子はス・好きだよ!当たり前じゃないか。命の恩人なんだから。」
顔が真っ赤で、テンプレの回答・・・ごちそうさまです。
もうちょっとつっついてみようかな。
「妃になりたいとか、子供をうみたいって意味?」
「ヴァ、ナ、ナニヲ・・・・」
あ、やっぱり。
「そうなのか。じゃあボクも協力してあげないといけないな。」
「別にそんなんじゃないし、身分っていうものもあるから・・・」
「身分て・・・あなた、トラキアの王女でしょ?」
「新ファラオの妃は前のファラオの家系から娶るのが一般的なんだよ。」
「いないときは?」
「・・・わからない、その時による。」
それであんなに血族婚になってたのか・・・遺伝学とかないしな。
「前のファラオの娘を含めてペルシアで奴隷になったと聞いたし、今リヴィアにはファラオの家系は彼しか残っていない。実際、彼では民衆には反乱の首謀者に認めてもらえない知名度だしね。」
なるほど。
「そんな彼に他の亡国の王女がくっついたって何も変わらない。まだしも有力貴族の娘の方が力になれると思う。」
・・・その辺は正直、判断難しいが・・・
「わかった。」
そこまで言ったところでボクは本題に入ることにした。
「昨日見たサンショウウオと人間足したような奴、覚えている?」
その言葉を聞いた瞬間、メネラオスの目から焦点が失われた。
・・・
・・・
「大丈夫。思い出したくないが覚えてる。」
フリーズが5秒か・・・また見たら・・・アウトかもしれないな。
そ知らぬふりをして言葉をつづける。
「ああいう奴がいるっていう噂、聞いたことがある?」
「絶体ない!」
まあそうだろうと思ってはいたが。
ボクも思い出してみると、まず気になるのが左右の腕の大きさと色が違っていたことだ。
小さい左腕の方がまるでミイラ作りのような肌合いだったのに、右腕は人間に近かった。
たぶん変化の途中だったんだと思う。
・・・うろ覚えだが・・・確かインスマウス人は最終的にはディープワンズに、進化するんだったはず、その途中ってことかな?
・・・えーと・・・だとすると、ディープワンズはなんとでも交配可能のはずだから・・・ミイラ作りと交配したってことなのかな?
いまいち、なんかピンとこないんだけど。
まだデマラトスが血液注入して、ミイラ作りを進化させたって方がピンとくる・・・ってピンと来てほしくないけど・・・
ともあれボクはメネラオスに向かって確認を続けることにした。
「その真の王錫って持つだけでその人の威光があがるの?」
その問いにメネラオスはほっとした表情で答えた。
(よっぽどインスマウス人の話が嫌だったんだな。)
「ああ、それは間違いない。王錫を手に入れたということは、その人がラーが選んだ代理人と認められるからだ。」
「一本の杖で?」
「ああ、すくなくとも神官に対しては、アメン・ラーに対抗してアトン・ラーを主神にするぐらいの主張が通せる程度の権威が与えられる。」
イクナートンの宗教改革は・・・考えてみるとものすごい話ではある。
その裏付けが王錫ネウスト=ジュト=ティアーミリってことか。
だとすると、逆に当時のアメン神官が王墓に埋めて、この世から消した可能性もある。
そうなると神官と和解した代のツタンカーメンの王墓は絶対要チェックか。
「失われたファラオの墓は妃の墓の下にあるっていう可能性が・・・」
「それはない。」
ボクの意見は即座に却下された。あれ?
「王妃の谷は王家の谷と別の場所。ファラオが埋められる可能性はないよ。」
あら、そうだっけ。
「だとすると、他のファラオの墓の下にあると思うんだけど」
「あの込み入った谷の中で、墓の下に掘れる可能性は低い。」
そうなのか?
「足りないから、新王国期以降は他のファラオの墓を奪って、自分の墓にするのが一般的だ。」
いつでも墓問題は深刻のようだ。
「だから、失われたファラオの墓も誰かの墓で再利用されていると思う。」
でもなあー、ツタンカーメンの墓は残ってたしなー。
「じゃあ大きい墓で作った時の残砂が捨ててあるような場所は?」
「うーん・・・作業小屋の近辺くらいかな?」
・・・それだ!
「近くに墓はある?」
「谷のちょっと高めのところにラムセス6世の墓があるけど・・・美しい壁画はあるけど失われたファラオよりはるかに後の時代だ。」
「そこだ。その入り口の下の砂捨て場に入り口が埋まってる!あ・・・埋まってるのか。」
そうだ、埋まってたんだ・・・発掘用の人手が必要だ・・・
「ちょっと待って、パトラはなんでそんなこと知ってるの?」
「・・・(えーと)・・・実は前にデルフォイ神殿で予言した巫女に聞いたことがある。」
「本当か!」
メネラオスも半信半疑のだったようだが肯定的のようだ。
まあ、その話の予言がほしくてアーシア教皇に依頼しようとしてたくらいだから・・・
「でも、掘り返す人手が・・・」
「そこに埋まってるとわかれば人手はなんとでもなる。」
メネラオスに、なにか伝手があるのだろうか?あってもおかしくはないが・・・
「墓の財宝を分けてやるといえば、喜んで掘る奴らがいるだろう。」
「ああ!」
「クルナ村だ。」
作業小屋跡はKV63になります。




