ネウスト=ジェト=テアーミリ
ニイニイゼミですがアフリカ原産でこれが欧州、アジアに移動したようです。
ただ発生時期は日本では6-9月なんですが、朝鮮毛長ニイニイゼミは10-11月ですし、深く気にしないでください。
あとハーブの配合はペネロピ・オディ著ホームハーブ 出版社、法研から引用してます。(ストレス緩和用の薬用ハーブ配合です。) わかりやすい絵本に近く症例別病名別のハーブの記載があるので興味ある方は参考にどうぞ。でも古いかなー?(初版2007年)
四方を壁で囲まれたアメン・ラー神殿を出ると、うるさい程の蝉の声が響いていた。
=ヴィーーーーピーーーービーーー=
うん、ニイニイゼミだね。
そう言えば、この蝉の鳴き声?
日本でも聞いた。
ギリシャでも聞いた。
うーん・・・ワールドワイドなやつ。
なんとなく季節が変な気もするが・・・熱帯だしいいか。
バステトの神殿は見えていたので迷うことなくつけたが、ここで一つ問題が起きた。
ギリシャ語が通じない。
・・・蝉に負けた・・・
考えてみれば当たり前なのだが、基本リヴィアの言葉しか通じないようだ。
幸い神官の一人が片言のギリシャ語を話せたので、身振り手振りを交えながら、何とか薬をもらうことはできた。
戦争後の心身症の薬らしいのでたぶん大丈夫だと思う。
べトニーの葉、カモミールの花、つぼ草の葉、リンデンの花を乾燥させたものを2:1:1:1で混合したハーブティーみたいなもので、使い方も、まんまハーブティーである。
恐怖と緊張を解いてリラックスさせる目的みたいだが大丈夫だろうか?
とはいっても他に手はないし、間違っても害にはなりそうもない薬なので、彼女の家に戻ってお茶を入れることにした。
「アグネス、お茶にしようね。」
「うん、ママ」
彼女も洞窟よりは外の方が安心できるようで、先を進むイシスを何とか捕まえようと悪戦苦闘している。
イシスの方は、素早く避けているので、ボクがイシスを捕まえると、抱きかかえた。
「おうちに着くまではママが連れていくわよ。」
「えー、ずるいー」
「さあ早く帰ってお茶にしましょう。」
ここでイシスに山の中に逃げられたら・・・そう思っての行動だったが、幸いメネラオスは素直に後をついてくるだけで、無理にせがんではこなかった。
ほどなくメネラオスの家に着いたが、予想通り竈は外にあった。
竈には炭火が残っていたので、それで火を起こすとお湯を沸かし始めた。
適当な土器にお湯を分けると、そこにもらってきた薬を入れてしばし待つ。
やがて酸味と甘みの混じったようなカモミールの香りがしてきた。
・・・ほんとにハーブティーにしか見えない・・・
「アグネス、お茶が入ったわよ。」
「はーい。」
よこにちょこんと座って待っていたメネラオスは、ゆっくりとお茶をすすると幸せそうな溜息をついた。
「ママ、おいしい。」
「よかった。あとは、また明日ね。」
「もっとほしい。」
「神官さんが言ってたの。1回1杯だって。」
「ブー」
不満そうではあるが、薬の処方なので量は変えられない。
家の中を調べると、干し肉や玉ねぎが出てきた。
パンもあったので、刻んで挟んでサンドイッチにする。
メネラオスは夢中で食べていたが、お腹が一杯になると眠気が襲ってきたらしく、舟をこぎ始めた。
「アグネスはもう寝なさい。」
「ママと一緒にねるーー。」
しかたがないので寝かしつけるつもりで、一緒に横になったら自分も寝てしまった。
・・・考えてみれば病み上がり?のハードな一日だったし、疲れてたんだろう。
というわけで瞼を閉じた次の瞬間には夜が明けていた。
(いけない、寝ちゃった。)
(Hello ASIA. What's up?)
「あれ、レイチェルどうしたの?」
(We are traveling to pick up you. And boarding Now)
「船でくるんだ。どれくらいかかるの?」
(Our arrival will take may be a month.)
「1か月か・・・早いような遅いような・・・」
(Wait Pandora call me now. ASIA Don't leave there.)
「わかってるって、じゃあね。」
(See you Darling.♡)
・・・ハートマークは言語を超えるのか。次はAAか絵文字でも考えながら答えてみるか。
そんなバカな考察をしていたら、もじもじとメネラオスが動いた。
「おはよう、アグネス。」
「おはよう ママって、パトラぁ!?」
あ、一晩で戻ったみたい。薬も効いたのかな?
「昨日は大変だったよ。」
「あー、大変に世話になった。」
うつむき加減に、顔を見せないようにして喋るメネラオス。
どうも昨日のことは記憶にあるらしい。
「で、まあだいたいわかったんだけど、君ってトラキアの王女なの?」
「・・・まあそう・・・トラキアはもうないんだけどね。」
トラキアはマラトンの戦いに先立つこと半年、侵攻してきたペルシアによって占領され、属領になっている。その際にトラキア王家も全滅したと聞いていた。
元々はトラキアもマケドニアと同じようなペルシアの属国だった。
その関係からトラキア王はアレクサンドル王の妹を迎えマケドニアとの婚姻政策も進めていたが、ペルシアにヘレネスを攻め込むにはトラキアは直轄領にする必要があると判断された。
そしてメネラオス、いやアイゲイオ姫は、小さいときから人質としてペルシアに送られていた。
トラキア滅亡の時にはテーベにいて処刑を待つばかりになっていたそうだ。
そんな彼女を救ったのはファラオの末裔イナロス王子だった。
彼は彼女を密かにクルナ村に脱出させてくれた。
イナロスは最後のファラオ、プサメディク3世の庶子であり、ファラオがペルシアへの反乱中に生まれた子供であることから認知はされていなかった。
このため反乱が失敗し、ファラオが処刑されても生き延びることが許された。
ただしそのせいで、テーベで反乱が起きた時も、主導権をとることはできなかった。
彼を正当なファラオと認めるものが少なく、神官たちから指揮権を奪うことができなかったのだ。
マラトンの戦いの結果は諸外国に雷鳴のように轟いた。
そのおかげで、ペルシアの統治に亀裂が入り、多くの属領で反乱が発生した。
その中で最大のものがリヴィアの反乱である。
30年前にペルシアに服属させられて日も浅く、征服したのは暴君カンビュセス2世である。
聖牛アピスにきりつけたり、ファラオのミイラを掘り出して嬲って焼いた等、リヴィア人にとっては許せない暴行の嵐である。
普段の生活でも賄賂を受けた判事の皮をはいで作った判事用の椅子に息子を判事に任命して座らせたとか苛烈すぎる性格で後に狂死(事故死)している。
その王国の後継者が部下であったダレイオス王なのだが・・・リヴィア人はもはや生理的にペルシア王を嫌っているといっていい。
「それで、君は王家の墓から王錫を探そうとしてたのか。」
「ええ、ファラオの正当なる象徴さえあれば・・・」
そこまで聞いたところでちょっと疑問に思うことがあった。
王錫って何本もあったんじゃなかったっけ?
たしか、ツタンカーメンの墓にも何本も入っていた記憶がある。
「ねえ、王錫って何本もあるんじゃないの?そんなので大丈夫?」
「真の王錫は失われたファラオと共に失われています。」
え?、そんな話聞いたことがないが・・・
「私が探しているのはそれ」
「失われたファラオって?」
「どうも、アメンではなくアトンを信奉したファラオがいたらしいのですが・・・」
アメンホテプ4世こと(イクナーアトン)ね。世界史でならった。
「そこから数代にわたってファラオの名前が失われているのです。」
・・・ずばりツタンカーメンじゃないか。
「真の王錫はその時代に失われたようで・・・たぶん墓の中に・・・」
あれ・・・でも・・・ちょっと真面目に考えてみよう。
王錫って普通は1本だよな。
なんでツタンカーメンの墓に黄金の王錫が何本もあったのか?
・・・答え・・・1本が本物で他が偽物!
「真の王錫って黄金製なの?」
「いいえ、王錫はネスウト=ジェト=テアーミリ(エジプトの永遠の王権)といいますが、金色に輝く鉄でできていると伝えられています。」
「金色の鉄?」
「はい、錆びずに鉄のように硬くてしなやかな金属であると伝えられています。」
・・・え、アダマンタイトとかウーツ鋼とか?
まあ、いいや。そういうことはわからない。
ただそういうことなら金でフェイクを作るのも有りか。
墓の場所は知らないけど・・・確か女王だったか妃だったかの墓の下にあったんだよな。
王錫か・・・あ、その前にインスマウス人なんとかしないと、出て来たら大事になりそうだ。
錆びない鉄としてはデリーの鉄柱が有名ですが・・・金色ではないですね。




