ミイラ作り
ミイラになることができたのは多額の費用を負担で来た一部の上流階級だそうです。
中には安い料金で手抜きのミイラも作られて、鹸化したり、腐ったりしたのもあるんでしょうが・・もちが悪いミイラは残ってないので、なんとも。
ということで、リヴィア編の戦闘開始です。
「イシス!」
ボクの呼び声が届く前に猫はしなやかに床の裂け目に姿を消していた。
しばし呆然としたがメネラオスに向き合うと
「彼女の後を追う。入口に連れて行って。」
ボクのきっぱりとした態度に、首を振りながら壁の一角を指さした。
「猫一匹に命をかけることになるよ。」
「わかってる。でも彼女は父が残してくれた大事な友人。こんなことでなくすわけにはいかない。」
「・・・じゃあしかたないか。ほら」
メネラオスは腰に差していた小剣を鞘ごとボクに渡した。
「王家の谷にはミイラ達が蠢いていると思う。スパルタ出身なら身を守るぐらいはできるだろう。」
ボクはその言葉にうなずく。
(あれ?スパルタ出身って言ったっけ?)
「こっちだ。」
メネラオスは壁の一部を横にずらすと現れた階段に踏み込んでいった。
ボクもすぐにその後を追いかける。
この神殿の分厚い壁の中には急角度の幅1m程度の階段が隠されていた。
冷たい湿った風が肌を撫で、汗をかいていた肌が急激に冷たくなっていく。
「ちょっと待って。」
先に行くメネラオスから声がかかった。
前に着ていたマントを手渡され、身に付けさせられる。
その間に、階段の壁の棚から、松明のついた長い棒を取り出した。
松明に火おこしで火をつけると、わずかな硫黄の臭いとともに大きな炎が燃え上がった。
その明かりで棚から予備の松明も取り出している。
「これは?」
「アポロの息吹の応用だよ。」
・・・なんで、極秘の火薬の配合を知ってるかな?
マケドニア人いや、おそらくはアレクサンドル王の間諜か、となるとアカイア人もあり得るのか・・・
戻ったら調査しないと。
松明の揺らめく炎が2mほどの棒の先に灯されていた。
「いくよ。」
そういうとメネラオスは松明が詰め込まれた籠を背負い、真っ暗な階段を進み始めた。
数十mは降りたろうか、階段は終わりになっていた。
「気を付けろ。まだ洞窟は水が残ってるところもある。」
その意味はすぐに分かった。
洞窟は上下が激しく、深いところでは腰まで水につかって前に進むことになった。
「いま地面からどれくらいかな?」
「さっき上り坂を考えると地面から10mぐらい上だと思う。」
「上?」
「丘の高さの分があるからな。」
すでに1時間は歩いていた。
「イシスはこの先にいるのかしら?」
「ほぼ間違いなくいると思う。体の大きさが違うから、俺たちが通れない場所も通れるが、王家の谷につながる洞窟以外は分岐で埋めてある。」
「つまり実質一本道ということね。」
「そういうことだが・・・予想以上に足が速い。早くしないと奴らに会うかもしれない。」
「奴らってミイラ?」
「ああ、ミイラとミイラ作りだ。」
「ミイラ作り?ふーん」
ミイラがいるんだから、その場所にミイラを作る職人がいてもおかしくないだろうと、ボクは納得してしまった。
パトラは知らないが、自分のミイラを作るというのは、自分に永遠の命を与えるのに等しい。
このためミイラを作るのは職人の技量と多額の費用が必要である。
古代エジプトにおいて99%以上の人間はナイル川への水葬で弔われている。
残りの1%未満の上流階級が永遠の命を得るミイラにしてもらうことができたのである。
当然それをつかさどる職人が、このような場所にいるわけがないのだが、エジプト=死体=ミイラの程度の知識しかない東山の知識では間違っても仕方ない判断であった。
「そろそろ王家の谷に入る。急がないとマズイかもしれない。」
「わかるの?」
「洞窟の岩の色が灰色から赤っぽくなってきたろう。」
言われてみれば色が変わっている。
松明の明かりが赤っぽいせいで、言われないと気付かなかった。
「何がマズイの?」
「ミイラが猫を襲うかもしれない。」
「ああ、そうか。」
不思議とその心配は起きなかった。
イシスがミイラごときに後れを取るとも思えないが・・・これまでのことを知らないメネラオスが心配するのも仕方ないか。
「王家の谷に入るぞ。」
一歩踏み入れた瞬間にわかった。
まるで見えない水の壁を潜り抜けたように空気が冷たい。
「ここから先は、壁の穴一つでも注意しろ。そこから何かが飛び出してきても驚かず、切り捨てろ。」
「何が出てくるの?」
メネラオスは無言のまま予備の松明に火を移すと、棒についた松明をまっすぐ前に突き出した。
棒の先が50cm程度の穴の前を通った瞬間に水鉄砲のような噴水が炎に向かって吹きかけられた。
その程度では松明は消えなかったが炎は小さくなった。
すると穴の中からナニカが這いずり出てきた。
弱弱しい炎に照らされたソレはぬめり、ぺたぺたと音を立ててゆっくり姿を現した。
「なに、あれ?」
「ミイラ作りだよ。」
ミイラ作り・・・って職人じゃないのか。
それは濃紫の色をしたオオサンショウウオの体に、水玉のような白目を全身にイボのように生やしていた。
白目は見えるのかクルクルと動いて何かを探していた。
そして全身はべとつく真っ赤な粘液でくるまれている。
「斬れ!」
ボクはメネラオスの声に反射的に飛び込んで剣を振るう。
剣が憑き立った瞬間に青黒い液体が吹き上がる。
ミイラ作りの大きな口が裂けてなんとも言えない声を上げた。
「仲間を呼んだ。来るぞ!」
メネラオスも片手に松明、片手に剣を構えている。
洞窟の奥の方から生臭いにおいが押し寄せてくる。
「さあ、行くぞ!パトラ。」
一声上げるとメネラオスは獰猛な笑みを浮かべて、洞窟の奥に向かって突っ込んでいった。
急いで棒つき松明を拾うと、ボクも無言でその背中を追いかけた。
ミイラ作り=ディープワンズをイメージしてます。




