木乃伊之海
一面を埋め尽くす巨大芋虫の集団・・・自分なら絶対火を放つと思いますが。
実際にはミイラを燃料にしたりしてた時代もあったんで、有毒ガスは発生しないとは思うんですけど、動く木乃伊にに使う薬品にそういうのがある、ということで理解お願いします。
市場の土台は地面から2m近い高さがある。
階段もあるのだが、メネラオスの伸ばした手にまっすぐ走り寄り、掴んだ。
彼は軽々とボクを引き上げてみせた。
「鼻と口は布で覆っておけ、ミイラの粉を吸うとまずい。」
「あ・あれ全部、ミイラ?」
思わず噛んでしまったが、それぐらい衝撃的な光景だった。
市場の前の広場(小学校の校庭くらいはある)が、一面。巨大なウジ虫に似た蠢くもので埋めて尽くされていた。
動き方も、尺取り虫のようにキビキビとはしておらずノテノテという感じで動いている。
ただ確実にこっちに前進してきて、土台の前に積みあがっていた。
男たちは熊手や箒で土台の前のミイラ?を履き散らし、山を低くしようと奮闘していた。
「なに、これがミイラ?」
ボクの質問にメネラオスは矢(といっても木の先をとがらせただけで、羽根もついてない簡易品だ)
を放ち、ミイラを地面に縫いとめながら答えてくれた。
「ああ、主に魚と子わにのミイラだ。」
そういうとまた矢を放った。
気づくと、土台の防衛(掃除?)をしてる人以外は、みな矢を放ちミイラを地面に縫いとめようといている。
「あれって危険なの?」
ボクの疑問はもっともだと思う・・・どう見ても気味が悪く、生理的に受け付けないが・・・脅威はかんじない。
「あいつらは無害なんだが・・・体を包む布の薬品やら埃やらが人に有害でな。」
ああ、納得。
「今日はいないみたいだが、ミイラの操り手がいると、ミイラに火をかけてあたりを毒ガスで満たされることもある。」
「ミイラの操り手?」
「エジプトの神々のお面を被った連中だ。王家の墓を守っているつもりだと思う。」
「それって、王家の墓守では・・・」
なんとなく、背景がわかった。
でも、正義は向こうにあり、のような気がする。
「今、むこうに掘っていた穴の蓋を外しているから、そこにミイラを全部落とす。その時まで足止めだ。弓で少しでも地面に縫い付けてくれ。」
「了解。」
ボクも弓矢を受け取った、的は地面全面だ、絶対に当たる。
みんなの様子を見ると、市場から15m程離れたあたりに縫いとめていた。
ボクをそれを真似してひたすら弓を撃つ。
時折、弦が胸を叩くこともあったが、分厚いマントのおかげで痛い程度で済んだ。
(まだ、この体に慣れてないんだ?)
以前のアーシアかビオスの弓の引き方では微妙にあってない気がした。
とはいえ数十人がかりでひっきりなしに矢を浴びせた結果、15mの地点に1m程の高さの土塁のようなミイラの山ができていた。
「蓋があいたぞー」
市場の右手の方から大きな声が響いた。
そこには想像を超えた穴が開いていた。
(直径3mはある大穴・・・蓋あけるの手間取るわけね。」
おまけにこの穴どうやら鍾乳洞につながっているらしく、底が見えない。
ミイラの土塁に沿って左側から男たちが盾で追い込んでいく。
ものすごい埃だ。
「パトラ、このマスクを口に巻いておけ。」
そういうとメネラオス自分がつけていた、絹を何重かに巻き込んだマスクを手渡してくれた。
「多少吸い込んでも普通は平気だが、熱病上がりだしな・・・」
その言葉に顔に血が上るが、急いでマスクをつけてごまかす。
「ラオス、ミイラって頻繁に押し寄せてくるの?」
「ん、こんなに大規模なのは数年に1回だな。普通は多くて数匹だから、捕まえてナイルに流す。」
まるで、毛虫に対するような返答にちょっと引く。
「えーとミイラの操り手は?」
「年1回は来る。その時はこんな悠長にはできない。ミイラの山を作ったら火をつけられるんで少しずつ廃棄しながら、操り手殺しかな。」
「今回、操り手がいない対応をしたのはなんで?」
「あいつらがいるとミイラの動きが違うんだ。なんとなく組織的になるらしい。まあ地元民しかわからないが。」
「ふーん」
色々納得しているうちにミイラの半分以上は穴に落ちて行った。
「このままいけば、終わりだな。何にしろ建物を壊されなくてよかった。戻るか、パトラ」
「あ、村に大きな石造りの建物しかないのって!」
「ああ、木造の高床式にするとミイラがぶつかって壊れるからだよ。」
「・・・どんだけミイラいるのよ。ラオス」
その問いにちょっとメネラオスは考え込んだ。
「たぶんだが、魚やワニならまだ作れるんだと思う。毎年の乾季の行事だしな。」
「つまり、それ以上は?」
「たぶん、連中には作れない・・・君の話だとデマラトスはミイラを作るのか?」
「ええ、自分の兵士の死体でつくっていたわ。」
(人型、失われた魔術の復活か。)
メネラオスは衝撃を抑えるように、手で口を押さえると、小さく呟いていた。
「今ここでその話はまずいな。戻ったら話してくれ。」
「わかったわ。」
そういうとメネラオスは、市場から果物数個と干物の魚をとると、銅貨を数枚置いた。
「パトラ家に戻って食事にしよう。話はそれからで。」
「わかったわ。」
山の方に向かって歩きはじめると、登り口の部分にセクメト神(頭がライオン、医療の神)の石像が置いてあった。
対になるように反対にはハトホル神(癒しの女神)の石像があった。
(覚えてないや。そうとう焦って走ったんだ。フードで見えなかったのかな?)
石像をまじまじと見ているボクにメネラオスが話しかけてきた。
「石像が珍しいのかい?パトラ」
「いや、降りてくるとき、見てなかったみたいだから」
ふむ、という感じでメネラオスは考え込むと、
「もしかして神殿も見てなかった?」
山の方を指さした。
「え?」
その場で山頂の方を仰ぎ見ると、木々の間からあるわ、あるわ、小さいが10以上の神殿が見える。
「ここは住む人の砦でもあるんだよ。ついでだから、ゆっくり説明しながら登っていくね。」
「え、ええ」
ちょっと予想外の風景にどぎまぎしながら返答した。
かなり視野狭窄した状態でメネラオスを追いかけていたらしい・・・反省。
「まずは一番近いアヌビス神の神殿からだね。」
そういうとメネラオスはのボクの手をとり、左手の細道に入っていった。
次回、パトラとラオスの初デート?wになるのかな。




