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メネラオス

クルナ村は墓泥棒の一族の住む村として有名です。

実際に洞窟や穴を掘って倉庫や盗掘に用いていたようです。

アーシアの時代はサハラ砂漠の砂漠化は進行中ですが、まだナイル流域には到達していません。

このため、若干気候が現在と異なります。

「ほら、これを履け。」

そういってメネラオスは革のサンダルを手渡してくれた。


「あ、ありがとう。」

礼を述べたボクは行き先らしい集落を目線で指し示しながら、サンダルを着け始めた。

「あそこが目的地?」

「そうだ。クルナ村という。」


村?という割には人口が多そうな感じだが、たしかに建物は少ない。

もっとも一つ一つの建造物は大きく、神殿くらいはありそうである。

もしかしたら見えてないだけで、どこかに小さな農家もあるのかもしれないが、一面に広がる草原の中、周囲に広大な畑もひろがり農村といった感じを受けるのは確かだ。


「あの建物に住んでいるの?」

「いや、あの建物は市場と神殿だ。住居は・・・」

そういうとメネラオスは村の横の小山を指さし

「あの山に穴を掘ってすんでいる。」

「・・・え、穴居人?」

「そういうな、この地では合理的なんだ。」


聞いてみると、まず酷暑・・・普通の構造では屋根から熱波が伝わってくるそうで、屋根に泥を上げたり芝生を張ったりという必要があるそうだ。

そしてナイル川の氾濫。毎年夏に増水するので水位を想定して家を建てる必要がある。

そうなると、平地ではなく高台に建てる必要があり、川沿いでは建てられる箇所が限られる。


結果、山を蟻のように使って、現代高層住宅タワーマンション並みの住居密度を持たせている。


「あの山一つで500世帯はあるんだ。平地にしたら10倍は面積がいる。」

「へー」


「鍾乳洞とつながってるところは一年中気温が一定してるので倉庫としても最高だ。」

「ふーん」


「聞いてるのか?パトラ」

「でも、じめじめしてるんでしょ?カビとかムカデとかコケとか・・・」

「あー、否定はしない。」


まあいいところもあれば悪いところもある。


「ところで、メネラオスも穴に住んでるの?」

「いや、崖の岩棚の下に小屋を組んでる。」


メネラオスは崖の張り出したオーバーハングの下に木の枝で壁を編んだ小屋を建てて住んでいるそうだ。

「木の枝と布で組んだから、風通しもいいし、岩のお陰で夏場も涼しい。」

「最高じゃない。よく、そんな場所空いてたわね。」

「いや、空いてなかったよ。」

「・・・どうやったの」

「勝負して勝った。」


まあ、納得。

「そこを目指してるの?」

「ああ、他にあてもないんだろう?」

「うん、お願いします。」


メネラオスの住居は山の中腹にある岩肌の崖の下にあった。

岩は3mほど張り出していて、テントのように布で周囲を覆い、木の枝で補強してあった。

垂れ幕を持ち上げ入ると、中は絨毯がしいてあり、小奇麗に片づけてあった。


「誰か一緒に住んでいるの?」

ボクは岩肌に飾られた、一輪挿しの花を見ながら尋ねた。

「いや、一人暮らしだが?」

「あの花は自分で飾ったの?」

「ああ、何か変か、マケドニアでもそうしていたが・・・」

「かなり珍しいと思う。」

「そちらとは大分風習が違うからな。花の飾り方は第4夫人から習ったんだが・・・」


たしかにマケドニアは一夫多妻制だが第四夫人・・・王族かな?


「もしかしてメネラオスって王族?」

「ああ、アレクサンドロス王は伯父になる。」

「・・・・王子さま?」

「まあ、それは置いといて、奥の寝床を使ってくれ」


足つきの台座にストローマットに掛け布というかなり上等な寝具だ。

ヘッドレストはついてないが枕がある。

メネラオスは入口近くに毛皮を重ね始めた。


「えーと・・・」


(なんか、待遇良すぎない?)


とりあえず考えをまとめようとベットに腰を下ろした瞬間、心臓がドクンと大きく脈打った。


=その瞬間に世界に拒絶された気がした=


ものすごいめまいと吐き気に、上半身を起こしておくこともできず、倒れた。


熱が出てきたのか、体の芯が熱い。

それでも全身から脂汗がにじみだし、身体の表面を冷たくしていく。

氷の皮を一枚貼り付けられたようだ。


寒くて布をかぶれば、一瞬にして汗だくになるほど熱くなり耐えられない。

布を蹴飛ばし剥がすと、今度は極寒の地へまっしぐらである。


(ボクに何が起きてるの?)


何が起きてるのかわからない恐怖の中で、気持ち悪さに必死に耐える。

そうだ、船酔を10倍ひどくした感じ?


「おい、パトラ・・・?」

真っ青な顔のボクを見かねたらしく、メネラオスが様子を見に来た。

熱や、体の震えをみて症状を確認すると

「熱病だな?こんなに急なのは珍しいが、とりあえず目をつむって休め。手当してやる。」


そういうと肩でキトンを止めている安全ピン(ボルパイ)を外し始めた。

ボルパイを外されたキトンはただの筒の布である。

バナナの皮をむくように簡単に脱がすことができる。


抗おうにもめまいと吐き気に耐えるので力が尽きており、されるがままの状態だった。


ボクの記憶はその辺からとぎれとぎれになっている。


キトンから胸が飛び出しプルンと震えた・・・全身を濡らした布で拭いてもらった・・・・背中から抱きしめられ温められた・・・どれがほんとに起こったのか、夢だったのか、曖昧なままで気づいたときには裸で一人ベットに寝ていた。



「うぅ・・・気持ち悪い・・・」


ベットのすぐ横には水差しと岩塩が盛られた皿が置いてあった。


「これって、メネラオスが介抱してくれたんだよね?」


自分の姿に思わず顔が熱くなってきた。


「全部、見られた?・・・いや男だからいいけど、いや男だからいけないのか!」


真っ赤な顔のままアタフタしていると

「あれ、でもメネラオスってボクに手を出そうとはしなかったんだよね?」


洞窟の中でのことといい、手当の最中といい・・・紳士的すぎるほど紳士だった・・・と思う。


「魅力ないとは思えないけど・・・もしかして、そうなのかなー」

肉体のせいで、思考が女性側に、引きずられているような気がする。

本来ならばありがたいはずなのだが、地味にショックを受けている。


「顔はゆっくり見たことないし・・・鏡はないかな・・・」


幸い手鏡が近くに有ったので、のぞき込む。

漆黒の髪、白い肌、黒い目・・・?


ええぇ、瞳孔も黒。ただ、それを除けば十分すぎる美女がそこに映っていた。


「やっぱり女性になってるのか・・・なんでだろう?」


全身をくまなく触りながら体の異常を確認していた。

これといった異常はないようだと思った瞬間だった。


(Who are you?)


脳の奥底から呼びかけるような言葉を感じた。


ナイルの氾濫の時期はワニやら水生生物の移動、蚊なども大量発生したんでしょうね。

現在で近いのはバングラディッシュが似たような気候だと思います。

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