始まりの谷
リヴィア編スタートです。
クレオパトラ(アーシア)とメネラオス殿下の国盗り物語(予定)になります。
メインが王家の谷なのでダンジョンシーンが増えますが、あと何回か鉱山跡とか鍾乳洞に潜ってくる予定です。
=ピチョーン=
どこかで水滴が落ちる音がした。
視界は一面の霧でまったく見えない。
「アーシア」
自分を優しく呼ぶ声が聞こえる。
「クレイステネス!」
たしかクトゥグアに殺されたはずだが・・・死後の世界なのだろうか?
おかしな話である。自分の正体はイースにより投射された未来記憶・・・生きてもいないはずなのに死後の世界というのは・・・
「アーシア」
今度は師匠の声である。
・・・どうも状況がわからない・・・
「「「アーシア」」」
パンドラ、ピュロス、コリーダ、タルゲリア、・・・ものすごいたくさんの人が呼ぶ声が聞こえる。
(父祖の栄光を・・・ヘレネスの平和を・・・守って)
誰が言っているんだろう?
「・・・父の栄光」
俺が呟くと霧の中に一人の女性が見えた。
(カイレイ!)
東山は知らないがビオスは知っていた。母のカイレイである。
エウリュポン家に連なる姫だったカイレイ。
埃くさくじっとりとした蒸し暑さが全身を包んでいた。
「よう、起きたか」
すぐ横から若い男の声がした。
「なんでこんなところにいるんだ?ヘレネスのようだが逃亡奴隷か?」
目を開け声のした方を見た。
男は日に焼け、浅黒い肌をしていたが、ヘレネスのようだった。
=ニャーン=
キトンからイシスが這い出てきた。
「おいおい、猫連れとは訳アリか?盗人にしては慣れているが?」
答えようとしたが、喉がいがらっぽく咳込んだ。
「猫は高いんだぞ。それもジャコウネコの仔じゃないか。一財産だぞ。」
そうだこの子はジャコウネコの幼体成熟だった。
「それと、お前さんクレオパトラって言ってたが・・・それが名前か?」
クレオパトラ???
あ、クレオパトラって父の栄光のギリシア語だ・・・夢の中で言ってたかも。アーシアに続いて女性名か、つくづく縁があるな・・・
「俺はメネラオス。マケドニアの出身だ。」
「ごめん、俺は・・・」
答えながら立ち上がろうとした。その時に違和感を覚えた。
なんか変、声がいつもより高い、しかも胸がある(推定Cカップ)・・・
え、え・・・ない・・・大事なものがない。
女性になってるぅー
呆然として声の止まったボクを、メネラオスは興味深そうに見ると
「まあ、王家の谷の墓ん中にいたんだから、訳ありはわかるが・・・話してみる気はないか?」
ここが王家の谷―――なんでそうなった。
目に入る限り岩また岩である。
揺らめくたき火の炎で、岩がうごめくように影が動いていた。
ボクの寝ていたところもテーブル状になった岩の上に毛皮が敷いてあった。
「なんで王家の谷に・・・」
疑問は尽きないが、ともあれ前にもビオスになったことがある。
深く考えるのはやめた。
「メネラオス・・・さん?」
「おう、さん付けはいらないぞ。」
たき火に映し出されたのは20くらいか成人したばかりという感じの青年だった。
肩までの黒髪に鳶色の目、鷲鼻に白い肌。誰かを思い出させる。
(アレクサンドロス王に似てないか?)
ボクはいろいろ知っていたはずのことを思い出そうとしたが、ストンと記憶が抜け落ちていた。
というか消え失せたという感じが強い。
岩肌をみてみた。そこには畳の目のような横に連なる細い溝が全面に刻まれていた。
石柱や石筍が通路の両側に見える。
岩の表面は水で濡れ、天井の方にはカーテンによく似た形状の岩が作られていた。
(鍾乳洞だから、たぶん石灰石だよね?)
「メネラオス。助けてくれてありがとう。僕はアー・・・」
(状況もわからないうちは、本名まずいか。)
「・・・クレオパトラ。いくつか尋ねたいことがあるんだけど」
「おお、いいぜ。でも正体を教えてもらうのが先だ。」
「ボクはデルフォイのアポロ神殿の教皇アーシアに使える巫女だった。御子としての名前はレイチェル。同僚にピュロスとコリーダ、タルゲリア・・・パンドラがいた。デルフォイの神殿に尋ねてもらえばわかるはず。」
「デルフォイの巫女か。予言は出来るのか?」
「戻らないとできないし、神様の機嫌しだいだから。」
それをきくとメネラオスはちがいないと笑い出した。
「それで、まず、今はいつ?ペルシア戦争はマケドニア王国はどうなってるの?」
「いつって言われてもなぁ。ナイルの氾濫がちょうど終わったばかりとしか。」
ナイルの氾濫は6月から9月にかけ起こる自然現象である。
「ごめん、ちょっとわかりにくい。そうだ、小麦はもう種をまいた?」
「いや、でももうすぐ秋撒き小麦の季節だからもうすぐだぞ。」
(そうすると9月末から10月というところか・・・後は年だが)
「マケドニア王国はどうなってるかしってる?」
「噂ではアーシア教皇・・・・ってお前の上司か!」
「その辺はあとで説明するから。」
「ああ・・・教皇が防衛設備を作らせて対峙しているらしい・・・まあ夏頃のはなしだな。あとはまだ聞こえてこない。」
(よかった、時間は跳んでないみたいだ。)
ホッとした顔をみたらしい、メネラオスが尋ねてきた?
「なあ、王家の谷がここ2・3日騒がしいのは、その関係なのか?」
・・・
「騒がしいってどういうこと?」
「そのまんまだ、墓の中で戦いの音がするんだ。音の正体を探ったやつがいうにはミイラが動いていたらしいが・・・」
(デマラトスか。でも誰と戦ってるんだ?)
「ボクのしってるかぎりだと、ミイラを動かしてるのはペルシアに与したデマラトス廃王だと思う。もう一方は知らない。」
「デマラトス・・・って元スパルタの王だろ。なんでそんなことができるんだよ?」
「さあ?ボクも操ったのを見たことがあるだけだから。」
「はあ・・・」
「でメネラオス・・・君はなんでここに?盗掘?」
「ああ、盗掘といえば盗掘なんだが・・・」
=ピチャン=
水滴が落ちてきて顔に当たった。
その水滴を拭うと
=ニャー=
イシスが鳴くと暗闇の方に向かって歩き始めた。
「イシス!」
「イシス神??」
「いや、猫の名前」
そういいながらたき火から薪を引き抜くと慌てて後を追った。
すぐにメネラオスも追いかけてきた。
「へー、その猫出口がわかるんだな。」
「そうなの?」
今歩いているのは階段状になった下りの坂だ。結構急で地下に降りてるとしか思えない。
「足元を注意しろ。濡れて滑りやすいからな。転んだら無理せずそのままでいろ。」
たしかに足元は水が流れている・・・幸い、苔も泥もないのでゆっくり降りれば何とかという感じだ。
「もうすぐ左にのぼりがあって山の中腹に出る。」
「右に行くと?」
「地底湖になるな。」
20m下ると左手に分岐路がみえた、たしかにイシスもそっちに向かっている。
少し進むと広めの明るい空間に出た。
天井から光が差し込んでいる、高さは5m程だろうか?
「えーと、どうやって登るの?」
メネラオスは無言で棒を立てた。棒は魚の骨のように両側に足場がつけられていた。
「・・・梯子よね。」
「ああ、梯子だ。」
「先に登ってください。ボクはあとから行く」
「ん、なんで・・・・ああ、了解」
メネラオスは梯子をするすると上がっていった・・・当然目線は上になる。
「いいぞー」
その声を聞くとイシスが胸元に飛び込んできた。
・・・重い・・
「イシスじっとしていてね。」
ボクも梯子をすぐに上った。
問題なく昇るとメネラオスは梯子を倒していた。
入るときにはロープで降りるらしい。
一息入れて周りを見渡すと・・・王家の谷・・・というイメージからは程遠い風景が見えてきた。
「ここ、普通の山に見えるけど?」
「いや、よく見ろ。木は糸杉だけだし、灌木も手入れされている。」
そういわれると、たしかに・・・なんというか・・・自然公園を思い出させるような・・・しかも結構、涼しい。
「ねぇ、ここ、ほんとにリヴィア?」
「ああ、時期的にはこれから一番すごしやすくなるな。あっちだ。」
そういうとメネラオスは足跡を消しながら道を指示してきた。
この青年もなんでここにいるんだろ?
ボク達は昼過ぎの日差しを受けながら,
山の麓の集落に向かっていた。
気づいた人もいると思いますが・・・今アーシアはスキル失ってます。ビオスと東山の能力だけです。
この辺はおいおいw




