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ピレウス港沖海戦

マラトンの戦いから続く一連の海戦です。

・・・書くのは楽しいのですが・・・艦隊戦になったら書ききれるか・・・恐い。

塩野七見さんのレパントの海戦読み直さないと・・・もっとも次の海戦まで相当あるのですが・・・

夜通しの戦闘の中、キモンは何回かアーシアの指示を仰ぎに来たが、大きな変更は起きなかった。

夜が明けるころ、レイチェルはアーシアとコリーダに挟まれたような状態で目を覚ました。

(アーシアとコリーダ・・・あちゃー、まずったなー)

目を覚ましたことを感じ取ったのか、ゆっくり目を開けたアーシアの瞳は非難げである。

レイチェルは身をすくめるとホルスの毛を撫でた。

ホルスの毛も真っ白で、瞳は赤い。

おそらく自分の瞳も赤であろう。

(こりゃ2.3週間は部屋に閉じこもらないと。)

強い日差しをまともに受ければ、色素のない今の瞳はたやすく失明するであろう。

ホルスも同様だが・・・瞳孔を細められる分だけマシではある。


そのまま、ホルスを撫でているとアーシアはベットを離れ服を着ると部屋を出て行った。

(怒らせたかな・・・)

「怒ってはいませんよ。レイチェル様。」

よこから裸のコリーダが声をかけてきた。

「たぶん無事でうれしいけど、そのまま喜ぶとレイチェル様が反省しないから、感情を持て余した、っていうところだと思います。」

「よくわかってるわね、コリーダ。」

「そりゃご主人様ですから。」


「キモン、被害はどうだ。」

アーシアは甲板に上るとキモンに尋ねた。

「父上、本船は被害なしです。スパルタ海軍全体は夜間の見張りで落ちた3名を含めても、損害15名で済みました。」


その15名に対しては心が痛むが、

「損害は軽微か、今日はピレウス突入を阻止するぞ。船員は交代で休憩を取らせておけ。」

「了解です、父上!」


そのまま漕ぎ手の様子を見に行く。

「今日が正念場だ。みんな頼むぞ!」

櫂に身を持たれ、疲れ果て休んでいた男たちがピクリと動くと、歓声を上げ始めた。

(みんな、すまない。)

決して口に出せない言葉が心に浮かんでくる。


「櫓の見張り、敵船団の様子はどうだ?」

軍司令官ボレマルクへ、大きな動きありません。櫂も動いていません。」


これは・・・うまくいったか?


「アテナイ兵は布陣したか?」

「わかりません。」


史実だと・・・ポセイドンの聖域に展開したはず。

「スニヨン岬はどうだ?」

「動きありません。」


・・・仕方ない


「ピレウス港への侵入を阻止するぞ。舵右二つ、両舷半速」

ドン・ドン・ドン

ゆっくりとしたペースで櫂が動き、ピレウス港に向かう。

漕ぎ手の疲労は限界に達している。

正午(メセンブリアまでは持たないだろう・・・


「左一つ、敵艦20隻、接近中。」

「父上!」

キモンが目線で開戦を求めてくる。

潮の流れは左から右、敵に有利、しかし見逃せばピレウス港に突入される。


「両舷全速、武器制限解除ウェポンフリー!繰り返す、武器制限解除ウェポンフリー

櫓の旗が変えられ、武器制限の解除を知らせる。

太鼓の間隔が短くなるとそれにつれて速度が上がっていく。

この指示でアポロの息吹を含む火力の使用制限がなくなった。

秘密武器はサラミスの海戦まで取っておきたかったが、出し惜しみで負けるわけにはいかない。

号令を聞いたコリーダがクロースアーマーを身に着け剣を佩き、護衛の定位置についた。


(全力だともって15分・・・)

「敵先頭艦に照準。突っ込め、キモン!」

「マリスタ キーリエ!(YES SIR) 」


船はみるみる近づいていく。

相対速度は15ノット(約30km/h)みるみる迫ってくる。

アカイア号はまっすぐ、先頭への衝突コースに乗った。


「キモン、下に行って指揮を執ってくれ、合図に合わせて、左舷の漕ぎ手は櫂を止め、次の合図で右舷の櫂を引き入れろ!」

「こんな速度で櫂を止めたら折れますよ!」

「徹夜明けだ。体力が持たない!行け!」


キモンが甲板から降りるとすぐに先頭艦が迫ってきた。


「舵左いっぱい!左舷、櫂とめーー!」

船はありえない急旋回に大きく右に傾く。


「揺れ戻しの上限でアポロの息吹噴射!右舷、櫂入れ!」

傾いた船は振り子のように戻ってきた。そして反対舷に傾くと・・・


=ドゴゥー=


櫓の上部に取り付けたアポロの息吹(火炎放射器)が天に向け火を放つ。

それは弧を描き先頭艦に降り注いだ。たちまちのうちに火災が起きる。


敵艦に挟まれた側の(右舷)の櫂が一斉に引っ込んだ。

それと同時にアカイア号も旋回の勢いで横滑りし、右船腹を敵の右舷にたたきつける。


=バキベキィグォーン=


轟音とともに先頭艦の右舷の櫂が次々とアカイア号の船腹でへし折られていく。


「右舷、櫂で敵艦を押せー!」


したから、ヨーイヤサーという声とともに櫂が押し出され、敵艦を押して引きはがそうとする。


一瞬、影が横切る。

三層櫂船の敵艦舷側はこちらより2mほど上だ、息もつかず斬り込み隊が降ってきた。


アーシアのちかくに落ちてきた敵を、体勢を立て直す暇も与えず、コリーダが斬りとばす。


「戦士は迎撃、コリーダに続け!」

「ご主人は中央に!」

次の敵と切り結びながらコリーダが指示する。


アーシアが中央に移動しながら確認すると、落ちてきたのは10人程度だった。

「敵は10人、こっちの4分の1だ。慌てず押し包め。」


しばしの膠着の後、右舷の努力の結果ゆっくりと船が離れ始めた。

すでに敵の船はものすごい火柱を上げている。


生き残っていた敵も次々海に飛び込んで逃げ始めた。


「まず1隻。」

ほとんど無傷で1隻をしとめることができた。でも同じ手は使えないだろう。


「漕ぎ手、つぎだー!両舷全速!」


(すまない、すまない)

思い浮かぶ謝罪は心の中で押しつぶし、強い口調で命令する。


「どうした、それでもヘレネスか!それともヘロットのままかー!」

罵声を浴びせ焚き付ける。


短くなる太鼓の間隔に合わせ、櫂が力強く動き始める。船が速度を上げ始めた。


「あ!」


「ボレマルク!スニヨン岬に狼煙でーす!味方が来ましたー」


櫓の見張りの声が響く。

慌てて後ろに見えるスニヨン岬を探した。


・・・狼煙が3本上がっている。


味方の到着だ。


敵の船も回頭を始めている。


「漕ぎ方やめー」


掛け声をかけるや否や櫂が動きを止め垂れる。


「コリーダ、ピュトン旗とアポロ旗を並べてあげてくれ。」


わざと一拍置いた。


「我々の勝利だ!」


=イアヤッホーーー=


旗艦から上がった歓声は、旗を見た船に次々と伝播していき、明るい太陽の下、怒号のように鳴り響いた。


そして、疲れ果てた漕ぎ手とともに、ヨタヨタと進んだ艦隊が、ピレウス港についたのはその日の日没寸前だった。


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