アブデラ会戦
少しの間、週1に更新ペース落とします。
事実は小説より奇なりという事態が、実生活におきているので・・・何が起きるか予想して動いてたんですが・・・斜め上の事態が起きて、対応を考え中です。
タソス島の戦闘では死亡者0・・・スパルタンのぶっ壊れぶりがわかるが・・・だったが、骨折を含む重傷を負ったものが10名ほど出た。
雲南白葯や血止草の力も借りているので、命は落とすことはないだろうが、アンティキュラ号でネアポリスに移送中である。
敵の損害は不明である・・・確認前に港を出てきてしまった。
次の目的地アブデラはタソス島からみて、海を挟んでネストス河の河口の北向こう、汽水湖のヴィストニダ湖の手前だ。
海路で20kmくらい・・・三層櫂船だと最速一時間強、通常は二時間から三時間でいく距離だ。
アブデラはトラキア地方に位置するが、イオニア人のポリスである。
もともと小アジアでペルシアの占領された街から逃げてきた人たちが、50年程前に作ったポリスだが・・・ダレイオス王の東征によって2年ほど前(BC492)にペルシアに占領された。
史実だと、のちにデロス同盟に加わりペルシアと戦いながら、貿易ポリスとして発展したんだが、何度も富を狙われ、いろんな部族に略奪にあっている不幸なポリスである。
リメナスの港をラムヌースⅡ号が出港し、少したつと港の奥、山手から喚声が聞こえてきた。
「たぶんヘレネス兵1000人の奇襲ですね。挟み撃ちが狙いだったのでしょうか?アーシア様」
「いや不意打ち狙いだろう。リメナスの市民兵がそこまで持つとは考えてないと思う。」
「他国の市民兵を捨て駒に、消耗狙いですか・・・汚いですね。」
タルゲリアは不満そうだが、現状、数で優位なのはあっちだ。
こっちは海軍の船、1隻しか運用許可が出ていない。
これもばれていると思っていいだろう。
ラムヌースⅡ号があったから何とかできたが、動員兵力も敵はつかんでいると考えるべきだ。
「攻略部隊は短期間で消耗させ、撤退に持ち込み、タソス島を要塞化する。」
デマラトスの戦略はすがすがしいまでに分かりやすい。
彼の戦略が順調に行く中、ただ一つのイレギュラーがアーシアの復帰だ。
あの傷からその日に復活するとは読んでなかったはずである。
そして、それに伴う兵の士気の高揚が現状を生んでいる。
彼の計略、タソス島の配置もアーシア抜きを想定していることを示している。
「ご主人様・・・デマラトスはアブデラにいるんですか?」
護衛役としては不安なのかコリーダの声が若干弱い。
「いてほしいというか、いないと変なんだが・・・確実ではない。」
アーシアも正直に答える。
「いればこちらの読み勝ち、いなければむこうの計り勝ちになる。」
「いた方がいいんですね!」
「そういうことだ。」
その言葉を聞いたコリーダの顔から悩みが消えた。
アブデラの手前には九十九里浜のように砂浜が続いている。
ラムヌースⅡ号はどこでも揚陸可能ということだ。
アプデラの手前5kmの地点で静かに上陸を果たしたスパルタ海軍は、迅速に移動していた。
(夜明けまであと2時間というところかな?)
街道からアプデラが見える位置まで来たときでも、まだ夜明けは遠かった。
「街の近くで一息入れて、夜明けに襲撃がよさそうですね。」
パンティテスが献策してきた。
「そうだな。北から第1第2縦隊、西から第3第4縦隊で襲撃しよう。」
「南を開けるんですか・・・今、南側にいるんですが?」
アブデラは東が海に面しているので攻め込むのは南北西から可能だ。
「たぶん、デマラトスが親衛隊を厚く配置するのは南側だと思うんだ。念のために程度だろうけど」
「わかりました北は私が、西は軍司令官にお任せしていいですか。」
「そうしよう。では日の出に。」
パンティティスは72名を引き連れ街を大きく迂回するルートに入った。
殆ど声を立てない・・・静かな移動である。
我々も70名を引き連れ西に迂回を始める。
この時代、夜明け前に街の外に出ることは大きな危険を伴う。
すっかり忘れていたが、移動の途中で逃げていくライオンを見て、しっかり思い出させてもらった。
当然、街も不寝番がいて周りを見張っているはずだ。
逃げていく獣を見て、敵の伏兵を見破るとか・・・ありそうな話ではあるが・・・
それでも西300mの地点に夜明け30分程前に到着し、休息に入った。
もうばれていようが、なかろうが関係なく攻め込むしかない。
水平線に太陽が昇るのを待った。
最初の一条の光が水平線から差し込んだ。
「吶喊!」
アーシアはピュトン旗を立てると同時に命令を叫んだ。
同時に北の方からも喚声が聞こえる。
どうやら、襲撃はばれていたようだ・・・前方に30名ほどの筋骨たくましい偉丈夫がいる・・・
「敵親衛隊はこちらにいるぞー!喜べ!叫べ!打ち倒せ!」
=マリスタ、キーリエ!=
アーシアの声に第3・第4縦隊のラケダイモンが歓喜の声を上げる。
戦意は最高潮になった。
兵の陣形を横20人3列に変更し5人を左右に前に出し凹の形で30人に向かう。
・・・ファランクスの密集隊形ではない、完全に乱戦の陣形だ。
ローマ軍の散開戦術は今後訓練していく予定だったが・・・未訓練だ。
今回は乱戦で数の多さに任せて押し切るしかない。
そして敵味方が街から50mの地点で激突した。
前方で激しい戦闘が繰り広げられている。
アーシアは中央の戦線から20m程離れた位置に立っていた。
おおむねスパルタ海軍が優勢だが・・・犠牲も多い。
既に10人は倒れている。
敵も同じ程度は倒れているが・・・一度だけ、戦列を突っ切って突っ込んできた敵がいた。
その敵は、なぜか立ち止まった瞬間に、コリーダとタルゲリアが迎撃に入り、さらに後ろから誰かの槍で突かれて死んだ。
おおむね、ピュトン旗を目標に突っ込んできたが、アーシアがいないので戸惑ったところをつかれた、というところだろう。
こんな形で自分の外観が変わったことを実感するとは思わなかった。
陽が昇って30分たった。
西の戦闘は20人対60人になっている。
街の方から角笛の音がなった。
その瞬間に敵の動きが急変した。
半分は街に逃げ出し、残りの半分は狂戦士と化して中央突破をはかってきた。
「デマラトス!逃がすか!」
明らかに撤退の手順である。
「第3、全力で迎撃、第4、全力で追撃!かまわん敵に中央突破させろ!」
その指示に従い第4縦隊が街に向かう部隊を、後ろも振り向かずに追いかけ始める。
第3は薄くなった中央を突破されながらも3人を倒す。
「くるぞ!」
敵との距離は15mを切った。敵の笑みがはっきりわかる。
「投擲!」
そう言いながら、アーシアと護衛は次々と小さなテラコッタの壺を投げ始めた。
敵がアーシアから10mで壺が地面にぶつかり、轟音を立てる。
=アポロン・ヴェロス(アポロンの矢)=
アポロンの矢は受けると急死するという・・・陶器製の手榴弾である。
マラトンの戦いで使った小天雷の小型品である。
ただし、殺傷能力は低く、有効半径5m程で、しかも即死することはほぼない。
まだ結構重いので全力で投げても15m程度が限界である。
狙えば、射程10m位がいいところ・・・まだまだ改良が必要であるが・・・
もっとも、初見の武器に衝撃と傷を受けた7人が、たちまちのうちに討ち取られたのは言うまでもない。
間をおかず追撃したおかげで、第4縦隊も敵を順調に削りながら街に突入していた。
彼らに合流すべく、アーシア達も兵をまとめ、街に向かった。
そして地獄絵図が待っていた。




