タソス島攻略戦 中編
番号旗を使っての連絡って英国の帆船物によく出てきます。
実際に書いていて連絡方法が声しかないのは無理があるなーと感じています。
さて、次回でタソス島編攻略できるのでしょうか・・・
「この辺だよな?」
本来、灯り一つない陸地はほとんど見分けがつかない。
だが今夜はほぼ満月。明るい光が照らしていた。
「右舷前方に点滅光、目標砂浜の両端です。」
今スパルタ水軍が圧倒的に優れているもの、それが通信方法だ。
例えば今、使っているのは遮光器付きのランプで、フードがついているので一方向にのみ光が出せる。
そのおかげでこういう風に誘導に使える。
他にも軍旗の振り方や種類でだいたいの行動指揮はできるし、番号旗による暗号帳を使っての通信も準備させている。
ラムヌースⅡ号は点滅する光のほぼ中央を目指し進んでいく。
「両舷微速前進、測深ロープ降ろせ!」
「測深着きました。深さ11ペーキュス、(約5.5m)」
ラムヌースⅡ強襲揚陸も考え、喫水下、3ペーキュスにしてある。
これは、水、食料を含む船荷を全部陸に揚げてきたせいで、本来よりも2ペーキュス浅い。
おかげで船が軽い。
「水深5ペーキュスで投錨!そのまま前進して乗り上げろ!」
錨は沖に打ったかたちにして、出港の時は錨綱を巻き上げながら沖に出す。
揚陸戦の基本形である。
「5つ!今、投錨、綱フリー、巻き込まれないように注意しろ!」
ドラムに巻いていた綱がどんどん引き出されていく。
それだけの速度で地面に向かってるということか。」
「4つ!全員準備!」
測深者の声に総員が体をこわばらせる。
=ド―――ン=
思ったより派手な音を立ててラムヌースⅡ号は砂浜に突っ込んだ。
「揚陸扉開け!全員突入!」
=ジャボン、ジャボン=
飛び込んだ戦士たちは、浮袋を兼ねた背嚢につかまり、一心に陸地に向かっていく。
「第1、第2、第3、第4縦隊出撃完了。」
「グラチウス、沖出しの準備たのむぞ。」
「お任せください。軍司令官もお気をつけて。」
アーシアは最後にコリーダとタルゲリアと一緒に飛び込む。
3人が着いたとき、スパルタ兵は展開が終わり16人×9列のファランクスが組まれていた。
「順調すぎるな?」
「そうですね。デマラトス廃王にしては上陸時を狙わなかったのは変ですね。」
タルゲリアが同意する。
「まあ、注意して進めばいいじゃない。今回はスパルタ兵もいっぱいいるし。」
「・・・まあコリーダのいう通りだな。行こう。」
背嚢から取り出した盾と脛当のみをつけ、ピュトン軍旗を掲げる。
ファランクスの横で斥候を指揮していたメガクレスを見つけた。
「メガクレス、敵の配置はどうなっている?」
「アーシア軍司令官、それが一人も見ていません。」
「・・・何を考えてるんだ?全員リメナスにいるのか。」
「わかりませんが、その可能性が高いようです。」
あまりにも不審な敵の行動にいらだちすら感じた。
「パンティティス!」
「は!」
「この先は森がある、ファランクスを説いて各縦隊ごとに移動、部隊間隔は1スタディオンは置いて、罠に十分に気を付けろ。」
「了解しました。」
きびきびとパンティティスが指示を出していく。
「行軍開始!」
満月のせいで足元は明るいものの、森の陰は余計に暗く感じる。
アーシアは第3縦隊と第4縦隊の間に挟まれながら進んでいた。
そのすぐ横には女性二人とメガクレス。
メガクレスはアンティキュラ号の20人を使って積極的に偵察させていたが、いまだ敵情報は入っていなかった。
約1時間の行軍のあと、森を抜けるとリメナスが見えてきた。
「さっき船の上で見たのとまったく変わってないな・・・」
アーシアが呟いたように明々と灯を灯され、建物に兵が隠れているらしいリメナスが見えてきた。
「パンティティスを呼んでくれ。あとメガクレス、斥候をギリギリまで近づけてみてくれ。」
指揮官クラスが集まったところで会議が始まった。
「まず、常識的に考えて、デマラトスの対応が変だ。リメナスに何か罠が仕掛けてあると考えるのが普通だと思うが、どう思うパンティティス?」
「軍司令官の言うように罠があるのは間違いないと思います。ありそうなのは火計かと。」
「しかし当艦の斥候は、そのような燃えるものを用意している様子はないとの報告です。アーシア軍司令官」
戦力的には優勢なのだが数的には劣勢・・・全部で170人の攻略部隊である。
罠とかで減らされるのは大きく響く。
「あとは、・・・港には大型船はいませんでしたね。」
「さっき通った時にはいなかった。パンティティスは見つけたか?」
彼も同様に首を振る。
「とすると・・・一体何を考えてるんでしょう?」
3人は顔を見合わせた。
こういう時の決断は司令官の仕事だ。
「わからんが、時間をおいても仕方ない!強襲する。」
「メガクレス、第1陣は火矢でアンティキュラ号の部隊が開戦、こちらは兵の出て来た様子を見てスパルタ兵の投入を決める。パンティティスは第1縦隊に合流。ピュトン旗での指揮に注意しろ。」
「「了解」」
いよいよ戦闘開始だ。敵が何か罠を張っていれば、食い破るしかない。
アーシアはそう考えていた。




