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魔女の釜

強大な敵に出会った時主人公は機体を新型機に乗り換えて出撃というのはパターンですよね!

・・・機体変更・・・まあマイナーチェンジくらいですが・・・髪型、身長、筋肉、そして瞳孔、皮膚の色が変化します・・・ってフルモデルチェンジですね。

アーシアの変化はゆっくり進行していくので・・・まあ理由はそのうちに・・・


この緊急時に料理とは・・・メガクレスの呆れた顔にそう書いてあった。


「メガクレス、豚骨スープといったが、それは隠語だ。」

「隠語ですか?」

「そうだ耳をかせ。」


アーシアはメガクレスの耳元に口を近づけた。


養父クレイステネスが中華より持ち帰った漢方に、アポロ神殿に伝わる秘伝を加えた霊薬だ。これを使えばどんな傷でも全快する。)


呟かれた内容にメガクレスは驚いた顔でこちらを見つめた。


「むろん副作用はあるので通常は用いないが、今回は緊急だ。すぐにレイチェルの指示に従って作ってくれ。」

「かしこまりました。アーシア提督ポレマルク


翌朝、アポロ神殿のすぐ横にどでかい壺が設置され、そこに海水を清水で10倍に薄めた水を並々と注ぐと豚骨スープづくりが始まった。

前準備の立役者メガクレスは一晩中スープ材料と調理器具集めに奔走し、今は船に戻って眠っている。


「じゃあ始めるわよ。コリーダはその木の棒で掻き回すのを止めないで、疲れたらタルゲリアと交代して休憩して。ピュロスと妾は火の管理。沸騰させちゃダメだからね。」


(姫様の話だと白湯スープじゃなくて透明スープらしいけど・・・液温60-70℃キープで半日か)


「材料投入開始。まず一度湯がいてアクと臭みを抜いたゲンコツ(大腿骨)を8kg、臭い消しのポロネギと大蒜を500g、いったん火を強めるから早めに掻き回して温度下げて!」


なんだろう、本当に豚骨スープみたいだ?


「ねぇレイチェル・・・ゲンコツはわかるけど、なんでネギと大蒜?」

「だってナコティカに書いてあったわよ。アリシンを含む野菜で硫黄分を調整しながら殺菌って。」

「・・・硫黄、殺菌ですか・・」


「次はするめと干し栗を入れるから、ゆっくり攪拌して。」

「するめ?栗?」

「リンとカリウムだって・・・まだまだいろんなものはいるわよ。」

「・・・本当にうまそうなスープができそうだな・・・」


「えーと次が朝鮮人参マンドラゴラと・・・」

(もう驚かないぞ!ルビは自動翻訳だからそう聞こえるだけだ。)


「イエローケーキ?なにこれ・・・ああ蛍石で代用可だったのね。この粉を耳かき半分」

(そのイエローケーキって自動翻訳だよね? 劣化ウラン、それとも黄色のケーキ?・・・人体にウランって入ってたっけ?)


その後も耳をふさぎたくなるような材料(多くても小さじ1杯だったが)の投入は続いた。

昼をすぎ、既に甕の水位は7割程度に落ちている。


そこをゆっくりゆっくりとかき混ぜ、材料が底で焦げ付かないように、沸騰しないように混ぜている様は、まさに中世の魔女の釜のようだった。


柄杓で汲んだスープが、馬のしっぽを用いて作った漉し笊で、漉しだされ、黄金色のスープが別の壺に溜められていく。


「味見っと・・・・えっ、おいしい?・・・塩味でいいのかしら?」


レイチェルさん、不安な表現はやめて・・・こわい。


「じゃあ、レッツ実験!」


=ザバッ=


彼女はそう宣言すると止める間もなく、スープを顔をつけるとゴボゴボ言い出した。


「は?」


・・・


「ぷはぁー」


顔を上げた時、彼女の顔は傷跡が綺麗に消えており・・・右目は翠になっていた。


「レイチェル・・・右目が翠になってるけど大丈夫?」

「視力に異常はないわね。左目はどう?」

「赤いまま・・」

「そうか、実験は成功ね。効果範囲を右半分にしてたから・・・本当は全部やる方が楽だけど・・・」

「右半面だけ老化したということ?」

「時間が経過したの!ろ・う・か・じゃありません!」


そういうと彼女は手首で温度をとりながら湯加減を調整していた。

すっかり全快したらしい・・・おそろしい秘薬だ・・・もっとも彼女レイチェルの時間魔術がないと、ただのラーメンスープの気がするが・・・周りの人間もあまりの効果に呆れている。


「そろそろ、いい湯加減ね。アーシアを沈め・・・漬けこみ・・・うーん、入浴?させましょう。」

「レイチェル・・・もう言い直さなくてもいいよ。」

「じゃあ、溺れなさい。このスープに!」

「溺れてどうするんだよ!」

一応、お約束でつっこんだ。


そういうと彼女はかわいそうな子を見る目でこちらを見た。


「だって、あなたは体の中までぼろぼろだから・・・体中に染み渡せるには飲んだり、肺にもスープを入れたりする必要があるのよ。」


・・・


「人はそれを溺死寸前というの・・・」


・・・ヒ、ヒェー・・・


「人工呼吸はいくらでもやってあげるから・・・」


逃げようにも体は動かなかった。


甕の中に、素っ裸にされたアーシアは頭から放り込まれた。


反射的に息をのんだが・・・スープも飲んでしまった・・・

そのまませき込み、目の前が真っ赤になる。

気管を液体が流れ込み、死ぬほど苦しい。


アーシアはその状況であることを思い出した。

(そうだ、液体呼吸だ!)

それはマウスが高圧によって大量に酸素が溶け込んだ生理食塩水中で一生懸命泳いでいた姿だった。


そして、その手を使おうとして・・・大気圧を上げようとした瞬間に・・・引っ張り上げられた。


=ゲエホ、ゴホ、ゴポォ・・・=


「どうかしら?」

「ご主人の外傷は消えはじめましたね・・・後は触診、どうピュロス?」

「骨はまだだな。それよりもここを見てくれ!」

「え、ちゃんと立ってる、曲がってる?」

「曲がってますね・・・。いそいでもう一度。」


=ザボン=


「ゴボゴボゴブァア(曲がってるってどこだよー?)」

何を言われていたのか、気になって大気圧の操作前に放り込まれた。


また同じ状態になる。・・・目の前が真っ赤でかつチカチカしてきた。

(死ぬ・・・ほんとに死ぬ・・・)


=ザバァ=


全身から力が抜け、死体のような状態でアーシアは揚がってきた。

当然、気は失っている。


「まだ平気だと思うけど、一回うつぶせにして肺から水を押し出して!」

レイチェルの指示でアーシアはベンチにうつぶせにさせられ、ピュロスが馬乗りになって背中を押し始めた。


「アーシア様・・・傷がなくなってませんか?少なくても背中にはないですね。」

「骨は大丈夫かな、ピュロス?」

「肋骨は平気ですね。右手はどう、タルゲリア?」

「折れていた骨が・・・つながって・・・肉が盛り上がってます。」

そこまで聞いたところでレイチェルは安堵のため息をついた。


「順調ね。」

「レイチェル様、気になることが?」

「どうしたのコリーダ?」

「甕のスープが・・・透明な感じで・・・ゼラチンになりそうにないんですが?」


「そんなバカな!」

レイチェルは叫ぶなり、スープに指を入れ、味見した。

「ほんとだ・・・うまみ成分がほとんどなくなっている。」


そういうとタルゲリアとコリーダにアーシアをひっくり返させると、胸から腹を舐めはじめた。

「まるでローション・・・味が薄い・・・アーシア・・・一体・・・」


レイチェルはその姿勢のまま考え始めた。

(作ったスープは余裕を見て、二人分のレシピのはず・・・でももう有効成分がない。・・・アーシアが全部使った?どうやって?それとも、魔術の時間経過で分解した・・・いずれにせよ、今回は中止だわ。)


「あの・・・レイチェル様・・・」

・・・

「レイチェル様・・・頭が・・・」

「頭?」


タルゲリアの声に、レイチェルが顔を上げると、そこには*ピー18禁*があった。

「元気ね。」

「そっちではなくアーシア様の頭です・・・」


まったく動じていないレイチェルに呆れながらも、タルゲリアがアーシアの頭を指さした。


「へー初めて見る色。」

「ですね。」

コリーダの呟きにピュロスが同意している。

アーシアの頭の髪の毛が伸び、直毛黒髪だった髪が、カールした銀髪になっていた。

そしてその髪の毛は青みがかっていた。


「普通はもっと金色になるはずなんだけど、なぜかしら?でも綺麗だからいいかな。」

「レイチェル様・・・驚かないのですか?」


タルゲリアの疑問にレイチェルが答えた。

「私の目が緑になったのに比べれば、まだまだ色の変化は少ないわ。」

「そんなものですか?」

「そんなものよ。」


その後は4人がかりの人工呼吸?で、アーシアは息を吹き返した。

自己感覚では右手を除けば体に痛みはないものの、レイチェルからは治療は失敗に終わったと告げられた。


「ん、成功でいいんじゃない?」

治療経緯を聞き終わったアーシアの第一声はこうだった。


「いいのそれで?原因を調査して・・・」

「いいよ、体は充分動くし、思ったより、変形がなかったから治療終わりで。」

(ホンネ:もう二度とあんな治療受けたくない!)


「まあ、あなたがいいなら、それでいいけど・・・」

「よし!今夜半に出港で、明朝、夜明けにラムヌースⅡをタソス島に接岸させる。皆に連絡して一気に決める。」


そういうとアーシアは起き上がるなり、ストレッチを始めた。

そうやって体の痛む場所をひとつひとつ確認していく。


「まってろよ。デマラトス!」


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