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スニヨン岬沖海戦

マラトンの戦いの後半戦です。

マラトンの戦いでの戦死者はヘレネス側81名(史実192名)ペルシア側8600名(史実6400名)

それに加えてアーシア達も知ることになるのですがアテナイの元僭主ヒッピアスが戦死しています。(史実は生存)

このため、ペルシア戦争後半戦に向けてスパルタ出身のデマラトスの影響が大きくなるのですが・・・お楽しみに。

スニヨン岬のポセイドン神殿はアテナイの青髭の神殿、アイギナのアフィア神殿とならんで、サロニコス湾を進む船には目印として親しみ深い。

マラトンの戦いから離脱したラムヌース勢を中核とするスパルタ海軍は軍司令官ボレマリオアーシアに率いられスニヨン岬の沖を航海していた。


「思ったより足が早いな。」

「父上、敵は三層櫂船ですから、全力で逃げると10ノットは出ます。こればかりは」

海流、風向きすべてを読み込んでもこちらの船足は8ノット(これでも従来型の1.3倍なのだが)が限界である。

それに対しペルシア軍の船は10ノットがスタンダードである。

これは漕ぎ手の数がスパルタ軍船は100人、ペルシア軍船は300人の結果である。

まだできて間もないスパルタ海軍としては、隻数をそろえるのが第1のため、漕ぎ手の少ない2層櫂船を採用している。


本来ならば、舷側の高い三層櫂船にかなうわけはないのだが、前後に櫓を備え、その部分から梯子カラスをかけることで敵の舷側を超えられるようにしたイオニア型は、速度以外の要素はすべて三層櫂船と互角以上の性能を持っていた。

さらに火矢とアポロンの息吹(別名グリークファイア)を装備させることで、圧倒的な攻撃力を持たせることに成功させた。

ここ半年、船籍がペルシアの船を襲う武装商船として、スパルタ海軍は名を響かせ始めていた。


「キモン、コリーダ、見張りを頼む。」

「はい、父上」

「了解、ご主人様。」

二人が前後の櫓に分かれて登っていく。


「ほかの連中も見張れ!一番乗りにはリュディア金貨一枚だ。」

その声に歓声を上げ、漕ぎ手以外の全員が水平線をのぞき込む。


曇り空の合間から薄日が差してきた。もうそろそろ日没が近い。時間は少ない。


「前方、右一つ、マストが見えます。」

発見一番乗りはキモンだった。


「よーし、両舷増速一つ!キモン、金貨で部下全員に酒をおごってやれ!」

その声に船を震わす歓声が上がった。


=ドンドンドン=

今までより速いピッチで太鼓が鳴らされた。

それに合わせて櫂が動き、速度がみるみる上がっていく。


「火矢の準備いいな!コリーダ、旗上げろ。」

バランという音を立ててピュトン旗が翻る。


「のりのりだねー、ご主人。」

旗を揚げて戻ってきたコリーダの第一声がこれだった。

これ以上言われる前に、キスで口をふさぐ。


「父さん・・・戦闘前なんですけど・・・」

同じく櫓から戻ってきたキモンが困り顔で声をかけてきた。


アーシアはコリーダに口づけたまま金貨を指ではじいてキモンに受け取らせた。


「はーぁ、舵左一つ、海流に乗れ!」

ため息をつきながらも船に指示を出すキモン。


甲板の船乗りは笑いながら指示に従う。


「よし、キモンなるべく早く接敵してくれ!」

ようやく口を離したアーシアは後ろの五隻の様子を確認しながらキモンに無茶を言う。


「わかってます。でも夕闇が近いんで見失いそうですが。」

「ペルシア軍の技量では夜になったら、アイギナの灯台にまっすぐ進むしかないはずだ。そのルートを予想して交差させろ。」

「わかりました。」


夕闇が薄く東の空を覆い始め、宵の明星が輝き始める頃にスパルタ海軍はペルシャ海軍に接敵した。

もっとも、こちらの攻撃は高速で接近した船に向かって火矢を放ち、そのまま次の船に向かう。

まるでひったくりのような攻撃である。


これを六隻が一列になって行う。

運が良ければ船の構造体のロープが燃えて大規模修繕が必要なる。

少なくとも燃えた木が完全に消えたのを確認するため、とんでもない労力が必要になる。


木造船の水面より上の部分は一般にカラカラに乾いている。

常に太陽の照り返しと海風を受けているせいだ。

そのため、ものすごく燃えやすい。

火が燃え移ったときには、水をかけて消して、その焦げ部分を削り壊して、内部からの再燃するのを防ぐのが一般的だ。


それを夜にやればどうなるか・・・当然、船員は疲労困憊になる。


完全に嫌がらせに近いが、マラトンの部隊がアテナイに移動展開する時間を稼ぐには好適な方法である。


「何隻ぐらいいる?」

「少なくても200隻ですね。」

夜空を火矢が青い輝線を描きながら飛んでいく中、アーシアとキモンは周辺を確認していた。

「多くても300、半分か、残りは港かな?」

「それも考えにくいですね。港の入口はアテナイとの戦争の時の障害物が沈めたままのはずです。」

「夜行けば座礁か・・・じゃあ、どこだ?」

頭をひねっていると櫓の見張りが叫んだ。


「左3つ、交戦中の船、確認!」

その方向を確認すると、確かに火矢を打ちながら、こちらに向かってくる船の一団が見える。


「火矢青、スパルタ軍船です。」


火矢が青い炎を出すのは、デルフォイの原油を蒸留して作り出した灯油、これをしみこませた火矢を作れるスパルタ海軍のみである。


「ということは、」

「姉さんたちですね。」

「舵、左3つ合流するぞ。」


キモンはレイチェルたちを姉さん達と呼ぶ・・・この辺りは実姉のエルピニケを正妻に迎えることになっているためだと思う。

エルピニケはアーシアに嫁入りが決まってはいるが、まだ婚礼は終わっておらずピレウス港のキモン家にいる。

マラトンの戦いが終われば、式を上げることになるだろう。


逆に、キモンは俺との養子縁組を終わらせ、メガクレスの孫であり養女のイソディケとの結婚が発表された。

一刻も早く、アルクメオン家の世継を作るための工作の結果である。


「アーシア、ご苦労さま。」

疲労を浮かべた顔をして船に乗り移ってきたのはホルスを抱いた姫様レイチェルだった。

「どうしたんだ、レイチェル?」

「予定外のことがあって、可能な限りの捕虜を乗せて逃げてきたの。」

「予定外?」

「アーシア様、その先は私が説明しますので、レイチェル様はお休みください。」

「ありがと、ピュロス。」

そういうと姫様は甲板の下に降りて行った。


=ニャア=

彼女に抱かれるホルスの毛は夜目にも明らかに白くなっていた。


ピュロスは姫様に付き添って降りて行ったが、すぐに戻ってきた。


「マラトンで戦士の損害が予想以上に多かったようなのです。」

たしかに史実でも6000人以上の戦死者を出しているはずである。

ましてや今回はラムヌース勢が助力している。史実以下ということはないだろう。


「このため、戦士を乗せてない船が200隻以上できてしまい、その船を急きょエルトリアの捕虜に漕がせてペルシアに送ろうという計画が起きました。」

「なに!」

「レイチェル様は、神託で反対を告げましたが・・・ペルシア軍が聞くことはなく・・・捕虜が7隻の船に乗せられ、送り出されました。」


漕ぎ手なら一隻300人・・・2000人か。


「ですが、障害帯を抜けた瞬間、その船の戦士全員にゾロアース神の神託が降り、船から降りて陸に戻りました。その船をサルピズマが強奪、指揮してやっと逃げて来られました。」


(姫様200人以上に幻聴を起こさせたのか・・・無茶な)


「こちらで預かった船は、パンドラ様が指揮なさって、島の南方に避難しています。」

「わかった。ピュロスもゆっくり休んでくれ。キモン、指揮をたのむ。」


アーシアはそのまま甲板を降り、姫様の部屋に向かった。

部屋に入ったとき姫様はベットで静かに寝ていた。

窓から差し込む月光は彼女を透き通らせ、白くなった髪も、抜けるような肌も、生気を感じさせず、わずかに上下する胸の動きが生を感じるすべてだった。


「無茶しすぎですよ・・・姫様」

彼女の枕元ではホルスが白猫になって体を丸めて寝ていた。

「ごくろうさま、騎士ホルス。」

撫でてやると煩そうに首を振る。

でも、すぐに姫様に寄り添って、静かに眠り込んだ。


姫様の額に汗が浮かんでいたのに気付いたアーシアが、指でふき取ると、ひどく冷たかった。


(まさか?)


アーシアは躊躇なく姫様の留具ボルパイを外し、キトンを脱がせ裸にすると、自分も服を脱ぎ、肌を合わせて温め始めた。

かつて自分が迷い込んだ空間の迷路に、彼女が迷い込んでいないことを願いながら・・・


姫様の魔術はアーシアの改革を参考にしてね(宣伝)

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