太陽の舟
えーとたぶん・・・知ってる限り・・・ラノベ初タイプの主人公に(爆)
後は本文で
やっと舞台は9月8日・・・次回で追いつけます。
「ボツ」
アーシア具体的な飛行案について姫様に説明した瞬間に却下された。
「アーシア、あなた正気なの?疲れてるのはわかるけど・・・丸一日休み取ったら?」
憐れみをこめた目でレイチェルは、アーシアに休暇を勧めた。
「どこかおかしいのかな?時間がない。空を飛んでいく。空を飛ぶのに布の羽を使う。・・・どこもおかしくないけど・・・」
「そこまではいいんだけど、どうやって飛ぶかがおかしいの!」
レイチェルは呆れた顔で言った。
「まずそのpara-guridaっていうやつ。出発して着くまでどれくらいかかるの?」
対気速度で40-60km/hだから・・・400kmだと・・・8時間くらいか?
「8時間。」
「でどれくらい魔法を使うの・・・?」
1回で500m上昇するとして、滑空比4~5はあるから(楕円翼は設計できないので方形翼)、1回2km進むとすると200回ですむ計算だが・・・
「200回ぐらい?」
「あたしが200人に魔法をかけた状態、覚えてるわよね・・・できるの?」
あ、そうだった。あの海戦の時、レイチェルですら全力使い果たしてたんだ。
「まだあるわよ。途中で布が破けたら脱出できる?」
高度1000m飛んでいたとすると・・・自由落下でも10秒あるのか。意外に長いな。
「一回の術の発生にかかる時間は?」
「まだ試してないけど・・・そうか10秒以内でないといけないのか。」
「最後に、あなた魔法の細かい制御・・・たぶん1000分の1単位の制御できる?」
「なんで?」
「あなたが全力で空気を圧縮するとどうなるか知ってる?」
「熱くなる。」
レイチェルは顔を下に向けると「ダメだこりゃ」という感じで頭を横に振った。
「何倍に熱くなるか計算してみなさい。」
懐かしいなシャルルの法則だ。断熱指数kは空気=1.4として
魔法だから放熱はなしでいいな、楽。
圧縮比は1000として・・・
T2/T1=(P2/P1)^(k-1)・・・面倒だからT1=300K(27℃)で計算して・・・あれ、あれあれ?
「何倍になった?」
「600倍(約十八万度 )」
「熱い?」
「熱くなる前に蒸発します・・・・」
水素の完全プラズマだと10eVだから十二万度弱換算・・・まじでまずい。
下手すると核融合が始まる。
太陽の表面(6400度)とか比じゃない・・・試したことなくてよかった・・・使ったら死んでた。
アーシアの背筋に冷たい汗が流れた。
「わかった?」
「・・・わかりました。」
レイチェルは大きくため息をつくと木の板に炭で何か書き始めた。
「そもそも最低3人で移動で、そのうち一人がトイレで腰を浮かしたら、墜落しそうなもので、長時間移動できるわけないでしょ。これを作らせなさい。」
「え・・・太陽の舟(Σκάφος του ήλιου)?」
「ええ、ナコティカにのってたの、ナイルのファラオが移動に使った舟らしいわ。」
アーシアの記憶からクフ王のピラミッドで発見された船が思い浮かんだ。
形が違うが・・・復元者も原型がまさか飛行艇とは思わないよな。
「これなら丸木舟を改造すれば何とかなるでしょ。羽根はタールをしみこませた綿布を亜麻布でサンドイッチして作って・・・すぐ工房に行く!」
「でもどうやって飛ばすの?」
「あなたが発動させて作った熱を、私が時間制御でゆっくり取り出して横の筒で噴射するわ。今回はイシスに協力してもらうしかないわね。」
「イシス・・・そうか、となると。」
「タルゲリアも同行。コリーダだけ残す意味もないから、みんなで移動ね。」
アーシアはイシスが白猫になるのを思うと、僅かに気が咎めたが、アリキポス商会に特急で太陽の舟の発注をかけた。
舟の改造は3日で終わり、各部の強度テストは師匠が直々に1日かけてチェック、補強してくれた。
強度的には10G(重さ10倍といわれた)までといわれたが・・・まあ大丈夫だろう・・・たぶん。
この間、毎晩航路指示をアレティア姫にしていたのは言うまでもない。
9月7日は一日かけて食料や衣類を調整(衣類は全員、革のつなぎに保温下着である。)
一行は昼はゆっくりとヘレネの湯で英気を養い、夜は一緒の部屋で・・・(秘密)・・・
(答えはラムヌースⅡに航路指示でした。)
そして出発の日9月8日の朝を迎えた。
船はまず海に浮かべ、沖に曳航してもらった。
そこで女性陣は全員船の中央の小部屋に入る。
アーシアはフードをかぶって毛糸の目出し帽で完全防備。
一人、屋外で命綱をつけて舵をとる。
「アーシア、私が魔法を発動したら合図するから、右の横筒からゆっくり空気を圧縮して。」
「了解!」
とはいうものの、ゆっくりの感覚がわからない・・・某白髪少年のイメージで圧縮すればゆっくりになるだろうか?
「開始」
掛け声と共に空気を圧縮し始める。大きなボールがピンポン玉ぐらいになるイメージで・・・
「左」
声と同時に左の筒に同じボールをイメージする。
「3・2・1・発射」
レイチェルの掛け声とともにものすごい速度で加速していく。
「えええ!!」
舟は5秒後には離水していた。
そのままどんどん加速してロケットのように上昇していく。
「とりあえず成功ね。」
小屋からレイチェルが声がした。
「念のため高度30スタディオン(6000m)まで上げるわ。」
・・・高山病が怖いんですけど。
「小屋の中は、さっきの魔法の余波であったかいし、空気も十分だから・・・・あなたは自力でがんばりなさい。」
・・・はい。
標高6000mって0.5気圧位なんだけど・・・体感で50m/Sくらいの風が来てるせいか前を向いていれば、そこまで苦しくはない・・・ただ寒い。
出てきたときが20℃くらいだったから・・・40℃下がって―20℃おまけに強風・・・体感温度は―40℃・・・一時間いたら死ねそう・・・
=ニャ―ン=
アーシアのつなぎの中にいるホルスが鳴いた。うん頑張る。
懐炉がいなかったら・・・まじめに死んだかもしれない・・・
30分も飛んだろうか、舟は高度を落とし始めた。
今までは真北に向かっていたはずだが、左が陸地で埋まり、右前方に3本指の半島が見えた。
ハルキディキ半島だ・・・マケドニア?
「高度を上げると早く飛べるって書いてあったけど本当みたいね。」
小屋の中からレイチェルの声が聞こえた。
たしかに時速400kmぐらいで飛んでる・・・1時間でつきそうだ。
「もう一回お願い。準備いい?・・・3・2・1・右」
歯の音もガチガチいう中、右の空気を圧縮する。
「左」
フードかぶって目出し帽でもまつ毛が凍って重たい、もう余裕は0だ。
すごい魔力を無駄に消耗した気がするが、2回目も成功させる。
「発射」
爆発的に加速する・・・そっか空気抵抗4分の1だもんな・・・
前に小屋なかったら風の寒さで死んでるな・・・前が見えないくらいは・・・・
「アーシア、舵!」
レイチェルの叱咤が響く!
そうだ。
ここからちょっと東寄りになるから・・・右に・・・自転車のハンドルそっくりの舵をゆっくり動か・・・動かす・・・・う・ご・か・す!・・・う・ご・けーー
全力で舵を切る・・・ものすごい重い・・・寒さですぐに指の感覚がなくなった。
しかし、そのかいあって進路が少し東寄りになる。
ハルキディキ半島を超えたあたりで推進力がなくなり、滑空になった。
「お疲れ、アーシア。あとはタソス島と本土の間の水路目指して滑空して。」
速度も落ち、高度も下がってきたおかげで大分楽になってきた。
=フギャー=
懐炉の方もだいぶ我慢の限界のようだ・・・
このとき速度はたぶん80kmくらい、高度は3000m弱。
それから10分もしないでタソス島とマケドニア本土の間の水路に着水する。
着水は補助ロープを操って、うまく舳先を上げられたので、静かに着水できた。
着水すると、アーシアは翼の強度保持のロープを緩め舳先の穴に中央マストを差し込む。
簡易型ヨットである。・・・・あとはロープ操作と舵でネアポリスの港に向かうだけだ。
気温は20℃ある、目出し帽を脱いで、革つなぎの上半身を脱ぐとホルスを出して小屋に入れる。
「おつかれ、ホルス!」
小屋の扉を開け猫を放した。
「「「ええええ・・・」」」
「やっぱりね。」
その瞬間に部屋の中から女性陣の悲鳴が聞こえた。
???
やっぱりねは、レイチェルだが・・・あ・・・
アーシアは自分の頭を撫でた・・・良かった毛はある・・・ん?
「ポニーテールと三つ編み、どっちがいい・・・?」
レイチェルの冷静な声が身に染みる。
アーシアの天頂部には直径5cm程度の円形脱毛症が発症していた。
「・・・ポニーテールで」
「リボンは赤にするわね。・・・くっくくうーーーーは・はgむgぇ・・・」
「レイチェル様、さすがにそれは・・・」
コリーダがレイチェルの口を押えていた。
「大丈夫、ご主人様、あとで私の髪でカツラを作りましょう。ご主人なら作れます!」
・・・あれって装身具なのかな・・・・なぜか造れそうだが・・・全然うれしくね―――。
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