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タソス島沖

ちょい短いですが、きりがいいところでUPです。


主人公補正・・・っていいよねー


ラムヌースⅡ号の舳先近く、満点の夜空を見ながら小声で呟く少女がいた。

「向きはポラリスを目指し、右手にタソス島、北北西で距離10スタディオン程度・・・」

彼女が呟いているのはこの船の位置だ。


私はこの船の船長トリュガイオス、アイギナからの無補給航海を続けてきて、今日は6日目の夜である。


上弦の半月が照らす水面は穏やかで、天が味方したように穏やかな南風が吹いていた。

この航海で帆というものが補助でなく単独で船を動かす力があることに驚かされた。

しかもこの蟹爪型帆クラブクロウセールは真横どころか斜め前からの風でも前進できる、つくづく不思議な帆だ?


ともあれ、アイギナで受けた無茶難題はここまで順調すぎるほど順調にこなしている。

このままいけば明日の昼にはネアポリスに到着できるだろう。

アレティア姫には感謝しなくてはならない。

この6日間一晩も休まず、夜間は舳先に立ち、正確な方向を指示し続けてくれたのだから・・・


それは、あと2時間もすれば夜が明けそうな時間、もっとも闇が深くなる時間であった。


=ドムッ=


櫓に何かが突き刺ささる音を聞きつけた。


私はマカイラを抜きながら

「敵襲ーーー」

叫びながら舳先に向かって走った。


=ド――ン=


私の声に遅れること一拍で右舷から衝突音が響いた。

同時に水夫が騒ぎ出す。


衝角ラム攻撃だー=


側面にぶつかってきたのは衝角を備えた船だったらしい。

同時に水夫らの笑い声が響く・・・「小船がぶつかってもぶっ飛ばされるだけだぞーーー」

だがぶつかってきたのは黒塗20丁櫓の衝角戦専用の船である。

たとえ3層櫂船でも水面下に穴が開いたであろう・・・ラムヌースでなければ。


おそらく全力・・・8ノット程度でぶつかったのであろう。こちらの進路右からぶつかったことも考えると10ノット近い相対速度だ。普通は大穴が開く。


その証拠に衝撃で敵の小舟は中央からへし折れていた。


すべては浅瀬に乗り上げることを前提に設計された、強固に造られた船底と肋財、そして分厚い船材と喫水下に施された銅張装甲が跳ね返したのである。

特に最後の一つは非常識である・・・その装甲だけでもう1隻船が作れるほどの金額がかかったらしい。なんでもフジツボや貝の付着を防止するのが目的らしいが・・・十分に装甲として機能した。


小船が後方に流れていくのを見て、一瞬気が緩んだのだろうか?

いや、そんなことはない。

私はそのまま舳先に向かって走っていたはずだ。

だとすると、あのおとこはどこから?


「アレティアーー!この売女がーーー!」


外套ヒマティオンを着た漢が突然現れ、舳先にいた少女の顔を殴った。

そのミシィという音が聞こえるような一撃で、彼女は吹き飛ばされ、轟音を立てて櫓の基部にぶち当たった。

その衝撃に俯いた彼女の口からは折れた歯がこぼれ落ちた。


「ん?」

漢は殴った右拳を見つめると怪訝な顔をした。


その時ゆっくりと上空からロープが降ってきた。

櫓に突き立ったのはロープを繋いだ銛であり、この男はそのロープを使って飛び移ってきたのだ。



「まだ生きているだと・・・不快な生き物だな・・・お前らは・・・」

アレティア姫は、顔の左半分が赤黒く腫れ上がり、折れた櫓の基材ですり傷だらけになりながら、かすかに呻いていた。

「すぐに潰してやる。エウリュポン家の雌豚。」


「やめろー!」

全力で走り寄り叫ぶ、ヘレネスとしてこいつは許せない。

トリュガイオスは怒りで狭まった視界の中、マカイラで切り付けた。


「フン!」 


=ギン=


「・・・ばかな」


私の刀は、男の胸を切った・・・はずなのだが・・・弾き返された。


「邪魔するな、小僧。これはエウリュポン家内部の話だ。イオニア人に用はない。」


私は無言で全力の一撃を腹に向かい打ち込んだ。


=ギン=

まったく刃が通らない。


「訓練不足だな、それに刀も悪い。強敵はクシボスで突き刺すようにしないと筋肉ではじかれるぞ。」


ならばと、そのまま刀で頭を狙う。


「勢いだけはかおう。」

漢は軽くしゃがんで避けると反撃のボディーブローを叩き込んだ。


「ぐはぁ!」

内臓がひしゃげる衝撃が背骨に伝わる。

胃が潰され血反吐が噴き出る。


「お前は殺すつもりはない、今日はな。」


そういうとアレティア姫の方にゆっくりと歩き始めた。


身動き一つとれない姫の前にたどりつくと、男は高らかに宣言した。


「聞いているのであろう、アレティア。お前たちは我が家の恥の歴史だ。予はお前たちを根絶する。」


後部甲板が騒がしくなり人影が吐き出されてきた。

(スパルタン!いそげ!)

しかし間に合わないのもわかっていた・・・


漢はアレティア姫の左手で髪をつかみ、引きずり、吊るし上げると


「フン!」


全力で顔を殴った・・・


=パ―ン=


思わず目をつむった私に、何かが破裂する音が聞こえた。


・・・


「なに?」


漢の奇妙な声が聞こえた。



私がゆっくりと目を開いたとき、漢の右拳は、突然現れた男の左手に受け止められていた。


(・・・て・い・と・く)


「デ・マ・ラ・ト・ス! テメエだけは許さない!」


冷たい風を纏い、漢の前に現れたアーシアは、髪を逆立てながら叫んだ。


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