凱旋式BC486 4月7日
凱旋式を行う前提は絶対指揮権を持っていることなんですが、デマラトスは初期も初期のローマ共和国なんでそこまで職責と権能を明記してなかったためにできたと考えてください。
ローマ最初の十二表法すらできる前なので慣習法しかない時代です。
=BC486年4月7日 フォロ・ロマーノ デマトラス=
プロクルス執政官から提言された俺の凱旋式はスプリウス・カッシウス執政官のよる絶体指揮権の所在により反対されたが、元老院が従来の戦績からプロコンスルとしてのインぺリウムを認めたため無事に行われることになった。
年齢は20歳ということにはなっているため成人ではあるが、公職に就くには年齢が10歳以上足りない俺に対しては最大限の敬意といっていい。
ローマをエトルリアの戦火から引き離したというのは、それほど大きな功績なのだ。
史実では最年少はポンペイウスの25歳(シチリア・アフリカ制覇)であることを考えるとその厚遇はハッキリとしている。
この時代の凱旋式というのは、比較的簡単なものでフォロ・ロマーノからカピトリーヌスの丘のゼウス神殿まで4頭立ての馬車で行進するだけである。俺の後にトラキアーノ軍団、その後ろに獲得した奴隷の列や略奪品を詰んだ荷馬車が続く。
戦闘に軍団旗を立てることが許されたので、トラキアの人食い馬とヘラクレスを殺したネッソスにちなみ「槍を持つケンタウロス」の図柄にした。
神々の嫉妬を押さえるためカピトリーヌスの丘に向かう道中では軍団員が軍団長を馬鹿にする唄を歌うのが有名だが、軍団員はその歌を考えるのに四苦八苦していたようである。
結局、デイアネイラにフラれた男という内容の唄を作り出したらしい・・・確かに最近姿を見ないが恋仲というわけでもなかったんだが・・・それぐらいしか馬鹿にできる内容が少なかったということなのだろう。
スパルタ時代の俺を知っている奴はすべてナイルで死んでいる・・・あの頃の俺は狂気に襲われていたとしか思えない。・・・いうなれば狂気をもう一人に押し付けて、まともになったのが今の俺だ。
旧き神々の力というのは狂気を伴う・・・知識としては知っていたが、実感したのは今の身体になってからだ。どうしてアーシアが平気でいられるのか理解できない。
街道で歓声を上げる人々へ手を振りながら、次はターチナ・ウエルチを落として、南に戻る方法を懸命に考えていた。
=BC486 4月5日 コリントス・アリキポス商会 アーシア=
「それで、お師匠様、ムーサイについてなんですが?」
「そっちは専門外だな。パンドラか巫女長に聞いた方がいいぞ。」
「そこまで専門的なことでもないんで、意見だけいただければ」
アリキポス商会の会頭室でボクは師匠に意見を求めていた。
「なぜアローアダイは3柱なのにへーシオドスは9柱をムーサイに定めたのでしょうか?」
「いきなり、へーシオドスにでも聞かなきゃわからんことを聞くな!・・・といいたいところだが、その辺は昔クレイステネスと話したことがある」
「義父がですか・・・」
「そうだ。あいつは何故ムーサイに地理を司る女神がいないのかで悩んでいた。」
最初に定めたといわれるアローアダイは学習、習得、歌唱
の3柱をムーサイに定めた。しかし神統記の中で神意を受けたへーシオドスは叙事詩、歴史、抒情詩、喜劇、悲劇、合唱、独唱歌、賛歌、天文の9柱に定めている。
全体的に専門化して対応範囲が狭くなった感じだ。
「当時の結論としては人間の劇の細分化に伴いそれぞれの演目に当てはまる女神を作り出した。ということだったな。天文があって地理がないのは天文は神話と密接して演目に関わってくるが、地理はヘレネスとバルバロイの区分でバルバロイの部分はひとまとめにされているため、という結論になった。」
師匠の物言いはちょっと気になる部分があった。
「当時の結論としては・・・ですか?」
「そうだ。今はそう簡単ではないと思っている。」
どういうことだろう。
疑問を顔に浮かべ、先へ促す。
「確率は低いが、女神が増えたという可能性も捨てがたい。」
女神が増える・・・そんなことあり得るのか?
「お前はもう気づいてると思うんだが、我々の魔術は人類共通の記憶に干渉することで非論理的な事象を生み出す手法だ。では我々が魔術を行使したあとの共通記憶はどうなるか考えたことはあるよな?」
それは、たしかにある。魔術を行使した後共通記憶に妙な引きつりというか歪みが残っていたのがいつのまにか消えていることが多い。
「あくまでも仮定だが共通記憶は魔術で発生した歪みを自分を変形することで解消しているような気がする。」
それは同意する。というか自分の感じたことと一緒だ。
「その結果、未来におこる事象を引き寄せたり、あるいは違う現象が正しいことになったりする可能性がある。」
「未来に起こることを引き寄せるというのは?」
「100年後に起こるはずのことを2年後に起こしたりするといえばいいか?」
・・・思い当たる節が多すぎる。
「違う事象が正しいというのは?」
「過去には違う法則が正しいとされていたのだが、調べてみると別の法則が過去から正しかったと証明されることだ。」
「それって普通では?」
「過去に同じ方法で検証されていても違う結果が出ていて、否定されていたようなことが観測間違いで済まされて新たな法則になってしまうんだ」
そこまで行くとさすがに怖い。
「一番近いのでは暦かな。昔は一年が360日だったと思われる。それがいつ頃か365日になった。
誰かが暦に歪を見つけて補正式を組んだが・・・それが今の暦だ。8年で一回りするようになった。
いずれは4年に一回りになるかもしれない。」
どこに真実があるのかよくわからない話になってきた。最後の話はオリンピック暦と太陽暦の話にそっくりだし?
「とまあ、共通記憶に大規模改変を加えるような魔術を使うと法則が変わったり時間が進んだりする可能性が否定できない。だからへーシオドスが神意を受けて共通記憶に介入した場合、女神の数が増えたとしても不思議はないと考んがえている」
・・・ということはボクらが魔術を使うと現実が不安定になるということなのかな?
「まあ個人の影響なんてたかが知れていると思うし、神々が影響してこなければ大規模改変は無理だとは思うんで、魔術の行使で影響が出るとは思えないんだがな?」
現に共通記憶の状態は感じ取れないし
そういった師匠の言葉に違和感を感じた。
ボクは共通記憶の引きつりや歪みを感じますが・・・
そういえばボクの能力って学習、習得に起因してるような気が・・・一度ナイルで失ったから実感できるけど、知識が異常に覚えやすい。
歌唱(アオイデ―)は歌ったことがないからわからないけど・・・
まさか、ヘーロドトスの干渉で弾き飛ばされた女神の能力がこっちに飛んできた?
無いとは思うが・・・否定できない。
ともあれ、まずはヘリコン山のムーサイ関連の二つの泉を調べてからだ。
「あ、そういえば師匠? デイアネイラって名前に心当たりはありませんか?」
師匠は呆れたような怪訝そうな顔をした。
「あるに決まってるだろう。ヘラクレスの妻の名前だぞ。」
・・・まさかヘラクレスの妻本人?だとしたら一体何年生きているんだ?




