向けられた憎悪
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今日4月20日はあの人の誕生日。急な残業で普段よりずいぶんと遅い時間に帰宅する羽目になった美和子は深いため息をつく。もう忘れたつもりでいたのに。首を小さく横に振ってみたところで頭の中を無にできるはずもなく、気分は更に沈んだ。
郵便受けを覗くと中には淡いピンク色の封筒が投函されていた。差出人の名を確認した次の瞬間、得体の知れない不安を感じ明らかに胸の鼓動が早くなる。
どういうことなの…。
その場ですぐさま開封をする。中身は封筒の外見から想像したとおり、結婚式の招待状で間違いなかった。差出人の谷あかりは高校時代のクラスメイトだ。
美和子へ
お久しぶりです
このたび友冶さんと私は結婚式を挙げることになりました。美和子にぜひ出席してもらいたいのだけれど…
美和子に会えること心から楽しみにしています
あかり
添えられている直筆のメッセージからは、あかりが何を考えているのかを読み取ることはできない。一体何を…。
ふと一枚の写真が同封されていることに気づいた。写っているのは見知らぬ花だ。色は黄色で、わりと小振りの花が一面に咲いている。美和子は急かされるように部屋に戻りパソコンの電源を入れ、その花について情報を得ようと試みた。20分程検索を繰り返していると、写真のそれと酷似した花について取り上げているページにようやくたどり着いた。どうやら花の名はミヤコグサというらしい。二、三行読み進めるとそこに現れたのはこのミヤコグサという花の花言葉だった。
先程便りを初めて手に取った時に感じた不安は巨大化し、美和子の全身を駆け巡っていた。鼓動が激しく波打つ。その波に乗り、忌まわしい過去の記憶が押し寄せてくる。美和子の心の奥深くに眠る漆黒の闇に突如姿を見せた禁断の扉が開く。いくら拒絶をしても、その意思とは裏腹に美和子の身体は扉の中へ中へと引きずり込まれてゆくようだった。
ミヤコグサの花言葉の欄には確かにこうある。“恨みを晴らす”と―。