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【異世界との邂逅④】

地図を手元に手繰り寄せぺらっとめくる。


きっと何度も手を加えたのであろう、決して綺麗ではないが大まかな地形がそこには載っていた。


 アスール国を手前にしてまず目の前に川、これはわしの空き部屋からも見えた比較的大きな川じゃな。


 そして川の少し先に第一の敵の城がある。この辺一帯は平原。


その先には敵の城が左右に一つずつ。すぐ後ろには山があり、それを超えると第四の敵城。


そしてまたしばらく平原があって、その先にアンフェールがいるとされるアンフェール城。


それを挟むようにして左右に第五、第六の城がある。


 険しい道や敵の戦力分布など詳しいことは不明だが、大体は理解できる。


「鎮圧完了です。はぁ」


「おぉ、ごくろうじゃった」


 混乱を鎮めるのに苦労したのかエイディスの表情は一気に老け込んでいた。お前ら絶対に許さん! わしの可愛いエイディスを……ってわしのではない。


 全体を見渡すとピリピリした雰囲気は残っていたが、二人とも一応着席している。


「それじゃあ、次は大陸地図を見てくれるか。敵の情報もメリアのおかげで分かったからこれから本格的に作戦を練っていくぞ」


そこまで言って思い出す、そうじゃ先に言っておくか。


「その前に魔人制圧に向けて一つだけルールを定めた」


 わしが話し始めると二人が向き直る。


「この戦争においてこれから一人も犠牲者は出さない。約束する」


 正直かなり難しいのは分かっている。


しかし、昨日徹夜で考えてやっぱり未来ある命を戦争で失って欲しくないという結論に至った。戦争で人が死ぬのはわしの世界だけで十分だし、この世界でも既にたくさんの命が無くなった。


戦争は今回で終わりじゃ。


「国王様、それはさすがに……先ほど申し上げたように魔人は非常に強力です。それに兵の数も国力も――――」


「黙れ。俺は絶対に死人を出さない。そうするように指揮を執るし、俺も戦う。何か異論はあるか」


 わしはメリアの主張を遮る。口調を変えると二人はおろかエイディスもポカンと口を開けていた。


 こういうのは兵法と同じ。


いつもと違うことをすれば敵は動揺するし、可笑しいことも続けていれば当たり前のことのように思えて油断してしまう。


「ハッハッハ、じゃあ本題に入るとするかの」


「は、はい!」


「う、うん……」


 二人はそそくさと地図を開き始める。


 まぁ、今のわしの見た目は爽やかハンサムでワイルドピチピチボーイじゃからな。さっきみたいなドスの利いた口調も悪くない。


それにしても俺なんて久しぶりに言ってワクワクしたぁ……。


「大まかな地図は見ての通りじゃ。まずは間近に迫っている一番手前の敵城を落とす」


「そんなことできるの? 写楽」


 フィランが興味深そうに首をかしげる。


「ふむ、今回の作戦名は調虎離山じゃ。そうじゃな、フィラン。わしらが山にいる虎を狩りたいとしてフィランならどうやって狩る?」


「えー、分かんない」


 いや、少しは考えろよ。まぁ子供には少し難しいか。


「ハッハッハ、まぁフィランらしくていい。虎を狩るときにわしらが山に登る必要はない。山は虎にとっては庭のようなもんじゃ。きっと食べられてしまう」


「えー、じゃあどうすんの?」


「虎を山から離すんじゃ。敵の本拠地で戦うのではなく、敵を自分たちの有利な場所に誘い込む。そうすれば比較的安全に狩ることが出来るじゃろ。エサを使っても罠を張ってもいい」


「話は分かりますが、それをどうやって今回の作戦に応用するんですか?」


静かに聞いていたメリアが口を開く。的を得た質問じゃ。


「今回は陽動を使ってこちらの有利な場所まで誘い込む。まず、アスール国の前には少し大きい川が流れているだろ? これを生かさない手はない」


 二人は食い入るように見つめてくる。ちょっと照れるな……。


「決行は夜じゃ。まず陽動部隊に敵本陣を攻めてもらう。正しくは攻めるように見せかけるのじゃ。そして、この陽動部隊の中の何人かだけに松明を持たせて少人数で攻めて来たと思わせるのが肝心。すると相手はこう思うだろう。なんだあんな少人数で攻めて来たのかと。魔法をぶっ放したり、近接部隊が出てくるじゃろうから陽動部隊は川まで全力で逃げるのじゃ」


「え、逃げちゃうの?」


「そうじゃ、どうせそんな大人数は出てこないだろうが、全力で川まで逃げる。そして川で反撃する。川の反対側、つまりアスール国側にありったけの魔法部隊を配置しての」


「私はその陽動部隊に配置されるのでしょうか?」


 陽動部隊には危険が伴う。


今回は誘導を目的としているが、何かハプニングが起これば戦うこともあるかもしれん。


魔法部隊だと、もし敵との距離が近かったら対処できない。


ここはメリアを含む近接部隊にお願いするのが最善じゃろう。


「そうじゃな、あとは統制のとれていない、慌てて出てきた援軍を排除する。」


「わかりました、私が陽動部隊を守ります」


「まぁわしも陽動部隊に入るから状況を見て指揮する。そしてエイディス」


「は、はい」


 いきなり名前を呼ばれたからか、エイディスは一瞬ビクッとして身体を縮こませる。


「エイディスは空を飛べるから基本的に伝達係じゃ。最初は陽動部隊にいてもう」


「わ、わかりました」


「以上じゃ、決行は明日の夜十時。メリアは近接部隊の中から新たに新鋭部隊を編成しておいてくれ。フィランはエイディスと一緒に魔法部隊のみんなに今伝えたことを教えてあげる、できるか?」


「任せといて……多分」


 最後の方は話を聞いていたようで、自信がなさそうだが首肯する。まぁエイディスも一緒なら大丈夫じゃろう。


「じゃあ解散じゃ、質問はあるか?」


 最後に周囲を見渡す。メリアは作戦の内容を反芻し資料を再度確認し、フィランも自分がここにいる責任を感じたのかじっと地図を眺める。


二人の顔には気概を感じる。


 エイディスがトコトコとやって来る。


そして資料を片付けながらそっと呟いた。


「信じています。国王様」


雲間から太陽の光が差し込む。


防衛抗戦だったアスールが平和に向けて動き始める。




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