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【異世界との邂逅③】

その後は兵糧庫や武器庫などを見て回った。


時々、朝のような人だかりが出来たが、その度テンプレ通りの声明を発表し逃れることができた。


何度かそんなことをしてふと時計を見ると時刻は既に午後の二時。


少し遅いが昼食をとるため適当なレストランに入った。


綺麗な川がアスールの付近を流れているだけあり、店内には魚のモニュメントが至る所に飾られている。川魚がたくさん取れるのだろう。


店内に入ってもちらちらと人の視線を感じたが、それらをやり過ごしウエイトレスに促されたテーブルに座る。


「どれにしますか? ここはどれも美味しいですよ」


 エイディスは嬉々とした表情でメニューを眺めている。


「ふむ、わしはこの……ピチピチ魚のパフパフ焼きをくれ」


「……」


 なんじゃ、今の間は。おいしそうだから頼んだだけじゃぞ。


呼び鈴を鳴らすとエイディスがウエイトレスにオーダーを伝えてくれた。提供された水を含みしばし嘆息。


「街を見たが、翼を生やしているのはエイディスだけなんじゃな」


 外を眺めていたエイディスがわしに向き直る。


「はい、側近として前国王から与えてもらいました。といっても、そんなに長時間飛べないですし、飾りみたいなものです」


 エイディスはテヘヘ、と舌を出し笑う。


まぁ、異世界じゃからな。なんでもアリか。


エイディスは再び外を眺める。釣られてわしも外を眺めると人々がせわしなく行き交かっていて、とても戦争をしているとは思えない。


「わしが国王でアスールを平和に導く……か」


 今のうちに聞ける情報は聞いておくか。


「なぁ、魔人について聞かせてくれるか?」


 エイディスは慌ててコップを置いてわしに向き直る。


「あ、はい。見た目は私たちと同じような普通の人間です。詳しく言うと魔人は七人しかいません。魔人の頂点に立つアンフェールと六人衆です。そしてその魔人たちが魔物を引き連れています。魔物の強さはそこまでなんですが、圧倒的な数を有します。そして魔人にはやっかいなことに知恵があります」


 なるほど。要するに大軍を率いるアンフェールと六人衆を倒すのか。この少人数で……。


 エイディスが眉間に力を入れていると料理が運ばれてきた。


こんがり焼けた白身魚を咀嚼する。ふむ、確かに新鮮だけど、どこがパフパフなんじゃ?


「まぁ、食いながら話そう。で、魔物の数はどれだけいるんじゃ?」


「あくまで推測ですけど、十倍以上いると思われます……」


「じゅ、十倍? ごふごふっ」


 そりゃ無茶じゃ。戦争は兵力と国力の戦い。国土も兵も少ない我々に勝ち目なんてこれっぽちもないじゃろう。


 くー、なんちゅうマゾゲーじゃ。耐えられん。


「私たちも平和を取り戻したいんです! これまで必死に戦ってきました。ですが、万策尽きて万事休すなんです。国王様に期待するしかないのです」


 エイディスの目には涙が溜まっていた。


自分たちの非力さが悔しくて恨めしい、そんな想いがヒシヒシと伝わる。


前言撤回じゃ。こんな可愛い娘を泣かす者たちを許しはせん。


たとえマゾゲーでコンティニュー出来ない一発勝負でもエイディスを泣かせるわけにはいかない。


「ふむ、任された。必ず平和にすると約束はできないが、全力は尽くす」


「は、はい! お願いします!」


 エイディスの表情がぱぁっと明るくなる。そんな顔されたら頑張らない訳にはいかない。


「ハッハッハ、ほら飯を食え。腹が減っては戦は出来ぬぞ」


 わしの口の中はパフパフで満たされた。




 話し込んでいるといつしか日は暮れ始めていた。


 生暖かった風は冷たさを伴い流れる。


 その風を背に受け、わしらも今日の所は町案内を終わりにして空き部屋に戻ることにした。


「じゃあそろそろ本題に入りますか?」


 空き部屋に戻るとエイディスは鞄から資料のようなものを取り出してテーブルに並べ始める。


どうやら就任そうそう作戦会議を始めるらしい、が少し待ってもらいたい。


「それは明日にしてくれんか? 少し……疲れた」


「そ、そうですよね、すいません。じゃあ明日また迎えに上がりますね」


 エイディスはそう言うとペコペコしながらそそくさと扉に手をかける。


「そうじゃ、明日の会議の場にメリアとフィランも呼んでおいてくれ。それとありったけの情報もじゃ。どんな小さな情報でもいい。それっぽいものは全部持ってきてくれ」


「は、はい、分かりました!」


 そういうとエイディスは慌てて部屋から飛び出した。


一度ため息をついて壊れかけたテーブルに腰を掛ける。


 別に疲れてなどおらん。じゃが、考える時間が欲しかった。


 このアスール国の現状はよく分かった。


平和に見えるこの光景も一時のもので今は戦争の最中。


エイディスは一刻も早く作戦を練って平和を取り戻したいんじゃろう。


じゃが、わしにはずっと引っかかることがある。


 それは子供たちが戦地で戦うということ。


わしが生まれたのも大戦末期。戦争の恐怖は知っているつもりじゃ。


平和という大義名分のために未来ある子供たちを行かせていいのだろうか。


 そもそもアスールは人も少なく女が多い。普通に考えたら必敗。他国と同様に滅びの宿命にある。


魔人アンフェール率いる六人衆と魔物を倒すと言っても容易ではないことは火を見るより明らかじゃ。


ただこの国の人々のためにわしの知識が役に立つなら存分に振るって平和にしてやりたい。


異世界に転生、召喚されてキャッキャウフフしている奴らがいれば、こうやって苦しんで明日を生きるのに必死になっている連中もいるんじゃ。


 犠牲を出さずに世界を平和にする方法。そんな夢みたいな話があるのじゃろうか――――。


「異世界に来ても戦争か、本当にどうしようもないのう」


古びた椅子を軋ませながら悶々とした気持ちを抑えられないでいた。


 傾き始めた夕日がやけに眩しかった。




 翌日、太極拳をしているわしの所にエイディスがやって来た。


わしを見つけると胸の前で小さく手を振ってくる。


今日もエイディスは可愛い。エイディス異常なし!


「おはようございます! 国王様」


「ふむ、ちょっと待っておれ」


 太極拳は基本的に緩やかで流れるようにゆったりとした動きで行う。


正しい姿勢や体の運用方法、そして多様な戦闘技術が身に着く。


まぁ、わしは公園でやってる健康目的の太極拳じゃがの。とりあえず決めポーズでも見せておいてやるか。


「はぁ!」


 よし、いい感じに決まった。このルックスでこの決めポーズ。イチコロじゃろ。


「はい、宮殿の会議室で作戦を練るのでそちらに向かいましょう」


「ふむ」


 どうやら不発だったようじゃな。次はもう少し派手にやろう。


 エイディスに連れられ宮殿内へと向かう。昨日見た通り、城の至る所に魔人の襲撃痕が見受けられた。くっ、わしの寝床も壊しおって……。


 城内は思ったより閑散としていた。


使用人が往来するだけで王族らしき人物は見当たらない。


それに、行き交う使用人の表情もどこか暗く感じる。城下町の方がずっと活気に漲っていたじゃろう。


「こちらです」


 エイディスは廊下の突き当たりの部屋で立ち止まる。何の変哲もない扉。エイディスはゆっくりと扉を開けわしを通す。


「おはようございます、国王様」


「よっ……コホン、おはよう写楽」


 着席していたメリアが立ち上がり、それにビックリしたのかフィランも続いて立ち上がった。


「ふむ、おはよう」


 挨拶をするとエイディスの後を歩き、引かれた椅子に腰を掛ける。二人を見ると未だ起立したままなので座るように促す。


 それにこのカーペットすごい柔らかい。ここで寝たい。わしのベッド硬すぎる。


「では、新国王様による第一回作戦会議を始めます」


 エイディスが宣言し、顔をこちらに向ける。何か喋って! みたいな懇願した顔をするので一つ咳払いをして開口する。


「えーっと、なんだ、ハッハッハ!」


「……」


「……」


 く、通じない。笑って誤魔化す作戦が通用しないじゃと? こいつらタカシより賢い。


「あのさ~」


 沈黙した空間に間の抜けた声が響く。


「早く始めようよ、写楽ぅ~」


 声の主はフィランだった。足を組んでふんぞり返っている。こやつ図太い! なんというくそ度胸! いや、その方がわしもやり易いからいいんじゃが……。


「お前国王様に向かって……! 打ち首にしてくれる!」


 隣にいたメリアが椅子をふっ飛ばして立ち上がる。腰に携えているのは真剣なのだろうか、柄を握っている。


「う、うわぁぁ助けて写楽……じゃなくて助けてください写楽~」


 フィランが恐怖に慄いた表情でマジ泣きしている。


「ま、まぁ待てメリア。写楽と呼んでもらって構わん。その、許してあげて……下さい」


 何故か敬語になってしまった。仕方ないじゃろ、本当に怖いんだから。


「失礼しました、お前次そんな態度したら切断するからな」


「は、はぁい。ごめんなさい」


 切断って怖い! メリアはわしも怖い! 誰か助けて!


「ふ、ふむ、じゃあ空気も和んだことだし会議を始めようか」


「はい!」


「……はぁい」


 とりあえずエイディスに目配せすると資料をみんなに渡し始める。わしも初見なのでじっくり眺める。


ふむふむ、大陸地図と魔人の特徴その他諸々、なかなかの情報じゃ。


「ほほう、やるじゃないかエイディス」


「ありがとうございます」


 ちょっと照れたその微笑みがわしの心を癒してくれる。メリアの恐怖をかき消してくれるまさに消しゴムのような存在。


「二人は魔人についてどのくらい知っておるんじゃ?」


 二人に顔を向けるとメリアが立ち上がる。


「はい、私は近接攻撃型なので魔人と対峙する機会は多いのですが、少なくとも奴ら一人一人に知恵はあります。人間と同じように学習能力があると捉えてもらって差し支えないと思います。特に六人衆は我々と引けを取りません」


 メリアはキリッとした表情で言い切る。


「僕は……わかんない」


 フィランは既に興味を失くしている。


「なるほど、して相手の攻撃力は?」


「はい、魔物相手なら一対一でも負けません。ですが、それ以上魔物の数が増えると対抗できるのは限られるでしょう。ましてや六人衆相手だと私でもかなり苦労します」


 一対一なら負けない、じゃが戦争において常に一対一の状況はまずないじゃろう。


それにメリアは六人衆と対峙したことがあるような言い方じゃな。


「僕は……わかんない」


 もうお前には期待しとらん。


まぁ今の話を聞くにメリアは最前線で常に戦っていたのじゃろう。


逆に遠距離攻撃のフィアンはとりあえず指示通りに行動を取る、といったところか。


「そういえばお前この間の防衛戦で私に向かって魔法打ってただろ!」


「違うから! 全然違うから! メリアによーく狙いを定めたりなんてしてないもん!」


「お、お前~!」


 どうやらわしの知らない過去に何かあったらしい。どうでもいいから静かにしてくれ……。


「エイディス、ちょっと止めといてくれんか」


「わ、わかりましたぁ」


 まぁ今のうちに地図を見ておこう。

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