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【異世界との邂逅②】

「なるほど戦争か……」


 そんな言葉を異世界に来てまで聞くと話思わなかった。少し呼吸が浅くなるのを感じる。


「そうです。ここから見ている分には平和に見えるでしょうが、ここでは魔人と人間が戦争をしています」


「魔人とはなんじゃ?」


 そう言えばさっきも魔人じゃの襲撃じゃの言っておったのう。


「少し昔話になりますが、昔この世界にはクラルテという神がいました。神は人間を大切に見守っていましたが、我々人間が争いを止めないことを大変哀しんでいました。そして、クラルテは自らの知恵を人間の敵、魔人に変化させたのです」


 さっきまでのにこやかな表情は消え、少し神妙な面持ちでエイディスは続ける。


「敵を創れば人間同士が結束すると考えたそうです。ですが、人間は争いを止めなかった。そしてそこに魔人も介入し人間はほとんど死んでしまいました。ここにいるのは唯一生き残った国の最後の人間です」


 エイディスは俯く。


 その表情は複雑で正確に読み取ることは出来ないが辛いのは理解できた。


「なるほどな、国同士で争って弱っている所を魔人にとどめを刺されてしまったということじゃな」


「そうです、アスールは兵糧や武器なども十分確保できていたのでなんとか防衛はできました。しかし犠牲者はたくさんでました。国王様も……亡くなりました」


「わしのことを後継者と呼ぶのは国王の後継者という意味なのか?」


「はい、実はこの間、王室の整理をした際にこの石が出てきたのです」


 そこには七色に光る石が握られていた。


「こ、これは」


 わしはポケットをガサガサと漁ると祠で見つけた石を取り出す。


 見ると石は光を失い、そこらへんの石となんら変わらないものになっていた。


「はい同じものです。文献によると、この石にはクラルテの意志が宿っているらしいのです」


 石に意志が宿る。ふむ、ここはスルーじゃ。


「石は私たちに呼びかけました。この石が七色に光るとき真の国王が現れると。そして現れたのがあなたです」


 なるほどな。要するにわしがここの国王になって魔人を倒しアスールの民を平和に導く、ということか。異世界ファンタジーにしてはえらいシリアスじゃのう。


「ところで、わしは死んでないんじゃろ? なら元の世界に戻れるんじゃろうか。可及的に戻らねばならんのじゃが……」


「もちろんです、クラルテの意志が告げていました。世界に再び平和が戻る時、真の国王は還るだろうと」


「そうか、なら良かった」


帰れるなら何も問題はない。ギャルゲーの処分もできる。


「わしが国王か。こんなおじいちゃんじゃ役不足じゃろうに」


「もうおじいちゃんじゃありませんよ。立派な若き国王様です」


 あぁそうか、頭ん中はおじいちゃんでも姿形は若造なんだったた。ついつい忘れてしまう。


 まぁどちらにしろ、この世界を平和にしなければ元の世界に戻れない。


 平和にするには魔人を倒す。


元に戻れなければギャルゲーが露見されるのは必至。


 どうやらやるしかないようじゃな。


「あの、喋り方はそのままでいいのですか?」


 エイディスがちょっと苦笑いで言う。ふむ、一番戸惑ってるのは何と言ってもわしじゃ。いきなり異世界で若返っても沁み付いた話法はそうそう変わらん。


「もう長いこと俺とか、マジで超ヤバいとか言っとらんからこのままでいいじゃろ」


「ふふっ、分かりました。じゃあ城下町を案内しますね」


 そう言ってエイディスはなおも続く石畳を下っていく。


やっと階段の終点が目視出来るところまで来ると、人々で賑わう商店や露店を見つける。人っ子一人いなかったさっきまでと違い人の往来も増していく。


 人とすれ違うたびに「あ、国王様だぁ」と子供につっつかれたり「まぁ、素敵な国王様ね」とプリティマダムに声を掛けられた。


慣れない待遇にドギマギしつつも片手をあげて対応するが、いつしかわしの周りには人だかりができていた。なにこのVIP待遇。


「え、エイディス、どうすればいい! ちょっと人が多すぎ……って誰じゃ! 今わしのお尻をフェザータッチした奴は!」


 周囲はすでにごった返していた。新年の初売りセールが如く、わしに向かって猪突猛進してくる。


「み、みなさん、静かにして下さーい」


 エイディスがわしを取り巻きを一人一人剥がしていく。


すると徐々に喧騒は収まり、一定の距離を空けて群衆はわしを見つめる。


なにこれ、なんか喋れよみたいな雰囲気。


「ど、どうしたものか……」


「そうですね、いい機会ですし新国王の自己紹介でもすれば……いいと思います」


 エイディスも戸惑っているのか言葉が弱弱しい。


というか、国王の即位声明とかは大観衆の前で「皆の衆よく聞け!」みたいな感じじゃないのか? ちょっとした大通りで簡単に済ませちゃっていいのだろうか。


「まぁ、そうじゃな。それでいくか」


 まぁこの人だかりを解消するにはそれが一番手っ取り早いじゃろう。


 わしは諦めて開口する。


「ゴホン! えー、アスール国の新国王に即位した安西写楽じゃ。まぁ、気軽に写楽とでも呼んでくれ。以上! 速やかに持ち場に戻り作業を続けてくれ」


 頼むから……という言葉を飲み込み声明を終える。するとドッと大きな拍手と歓声が沸き起こった。


しばし愛想笑いで対応。


盛り上がりに満足すると人々は三々五々散らばっていった。


 ため息をつくわしに横から声が掛かる。


「良かったですよ、国王様」


 エイディスは胸の前で小さく拍手しながら笑顔で言う。


「ふむ、でもいいのか? 国王がこんなところを歩いていて」


「アスール国内部は平和そのものです。あってもちょっとしたケンカくらいですよ。それに国王の立ち居振る舞いにルールなんてないと私は思っています」


「ハッハッハ、そうじゃな。気張った国王よりずっとマシじゃ」


 それにエイディスの笑顔が……く、眩しすぎる。


 わしらはそのまま大通りとゆっくりと進む。するとエイディスが体育館のような建物の前で立ち止まった。


「これから剣術道場を見てもらいます。きっとこれからの作戦の参考になると思うので」


なるほど、アスールの戦力を間近で見て、作戦を練ろってことか。剣術道場の中からは活気のある声が聞こえる。


「わしも剣道はそれなりに嗜んでおる。どれちょいと拝見……」


実はわしも学生時代は剣術を習っておった。少々腕には自信がある。


大きい扉を横にスライドする。道場内では数十人ほどの少年少女が竹刀を振ったり、組み手をしていた。


しかし、ここで一つ疑問が浮かぶ。


「剣術道場……ここの人たちは鉄砲を使ったりはせんのか?」


「てっぽう? とは何でしょう?」


 どうやら鉄砲を知らないらしい。


エイディスはこいつ何言ってんの? みたいな表情を浮かべている。心臓がキューってなるから止めてくれ……。


「簡単に言えば遠距離の相手を狙撃する武器じゃ」


「えっと、遠距離攻撃でしたら基本的には魔法を使いますよ?」


「ま、魔法……」


 なるほど、魔法が存在しちゃう世界なわけか。


実にファンタジー。わしの好物。


 街の様子を見ても恐らく近代兵器とかはないんじゃろう。


基本的には剣で戦い、銃の代わりに魔法が使える、そんなところか。


 それともう一つ気になることがある。


「少年、特に少女が多いが彼女たちも戦地へ赴くのか?」


「はい、もともとアスールは女性が多い国ですので……ですが」


 エイディスはそこで止めると道場の奥を見つめる。


「彼女はだけは違います。名前はメリア。剣術では国一番の力を誇っています」


エイディスの見つめる先には一人の女性がいた。彼女――――メリアは黒光りする防具を身に着け、凛とした佇まいで立っていた。


組み手の最中らしく向かって来た者を右手に握られた竹刀でことごとく一蹴する。


その都度背中まで垂らされた淡い桜色のポニーテールがふわりと揺れる。


その美しい姿に思わず目が惹きつけられてしまった。


ふむ、確かに強い。どこかオーラのようなものまで見えそうだ。


「メリアを呼びますか?」


「い、いや、強いのは十分わかった。で、魔法が使えちゃう子たちはどこにおるんじゃ?」


「はい、魔法道場はこの奥にあります」


 エイディスに連れられて奥に隣接された魔法道場へと足を向ける。


 それにしてもあれじゃな、さっきのメリアとやらは表情を見てもちょっと怖そうじゃな。


 結論、メリアは強気なお姉さんタイプ。ただし物理的にも強い。


 まぁそんなことはいい、今は魔法じゃ! 早く魔法が見たい! 


「はい、こちらが魔法道場になります」


 わしの心中を察したのかエイディスが告げる。


 中を覗くと先ほどの剣術道場と同じような体育館だった。


だが、圧倒的に違うのは道場の奥に巨大なコンクリートの壁のようなものがあり、そこに向かってみんながみんな魔法をぶっ放していた。


「こりゃまた激しいなぁ……」


 魔法が壁に衝突するたびに巨大な爆発音が絶え間なく道場を満たす。


わしがぼけーっと立ち尽くしていると一人の少年が、いや、少女? がトコトコやって来た。


 真っ白に染め上げられ髪。


それと対照的に真っ黒なパーカー。サイズが大きすぎるのだろうか、袖は指先が少し見えるだけで表情も分かりにくい。


身長はエイディスよりも低く、たとえるならタカシと同じくらいじゃろうか。


「よっ、エイディス。もしかしてこの人が新しい国王?」


 フードを取るとどうやら少年のようじゃ。


白く透き通った肌は中性的な印象を与えるが、このわんぱく顔はタカシとそっくり。ちょっと生意気そうじゃが、大目に見てやろう。


「あぁそうじゃ。安西写楽、よろしくな」


 わしはエイディスより先に答える。


極めて明るい声で言ったつもりじゃが、少年の顔は少し引き攣っている。


「しゃらく……こっちこそよろしく」


 少年は一言い残すとササっと元いた場所に逃げて行ってしまった。


「あの子は?」


「彼はフィラン。魔法道場きっての秀才です。見てもらえばわかると思います」


 フィランとやらはつまらなそうに魔法を詠唱すると、コンクリートの壁に向かって魔法を放つ。


その魔法は他の子たちの数倍は大きく、巨大な音を立てて爆発した。


「こりゃ、たまげたな」


 何発か魔法を放つとフィランはふわぁ、と欠伸をしてかったるそうに首を回す。


 肩が凝ってるのか? 見かけによらずおっさんくさいなぁ。成長したらいい酒が飲めそう。


「ですが、あの……フィランは思ったことをすぐ口に出してしまうので、その、大目に見てあげてください」


 エイディスは申し訳なさそうな顔をする。大丈夫、あの手の子供の相手は得意じゃ。


「ハッハッハ、そんくらい分かってる」


結論、フィランはおっさん系少年。ただし取扱注意。

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