表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/33

【異世界との邂逅①】

――――ここは遥か昔、全能の神クラルテが統治する世界。


 クラルテは世界の平和と安寧を願い、長らく人間の営みを見守ってきた。


 人間は手を取り合い、つつましいながらも発展を遂げていった。


 だが、全能の神と言えど人間の本質、本性を理解することは出来なかった。


 人間の心には深い闇があった。


 クラルテの想いとは裏腹に人間は争いを始めた。


 国を作り徒党を組み、自国の領土を広めようと略奪や虐殺が繰り返された。


 

 血塗られた世界に勇者もいなければ魔王もいない。


 ただ同族同士の殺し合いだった。


 全能の神クラルテは止まぬ血の雨を見て悲嘆にくれた。


 混沌に呑まれた大地を見つめクラルテは決意する。


 ――――我が全能なる力を人間に賭す。我は邪なる解放者とならん。


 クラルテはその知恵を具現化し魔人へ姿を変えた。


 人間共通の敵の創造により人間同士の争いは収束するだろう。


 クラルテは自らの知恵を賭けて人間に思いを託したが、計画は失敗に終わる。


 人間は争いを続けた。


そして弱体化した人間たちを魔人が従える魔物が襲った。


 クラルテが生み出した魔人は人間の滅亡に拍車をかけただけだった。



人間は全滅したかに思われた。


そう思わせるには十分すぎるほど血が流れていた。


しかし、クラルテの意志を汲み取り、平和を夢見る一つの民がいた。

その民の名はアスール。



七色の輝石は語る。


――――之、七色に光りし時、真の救世主が現れるだろう、と。


そして世界に再び平和が戻りしとき。


――――之、再び七色に光りし時、真の救世主は帰還を果たすだろう、と。




 目が覚めると見慣れない天井と照明が目に入った。


古ぼけた天板はところどころ腐っていて、よく見ると隅の方には蜘蛛の巣がある。ちんけな間接照明には埃が被っていた。


仄暗い部屋はお世辞にも綺麗とは呼べない。


「よっこらせっと……」


 身体を起こしてまず気付く。服が変わっていた。


 愛用していた超防寒ウィンドブレイカーではなく、代わりに袴だか胴服だか素襖だかを着ていて、濃紺の生地に群青の模様が入っている。


ちなみにホッカイロはない。


だが、カイロが必要ないくらい暖かい。


 次いで周囲を見渡す。


 薄汚い田舎の小部屋を思わせる内装は生活感があまりない。


中央に申し訳程度の木製テーブルとイスが一組置いてあるだけで、あとは今わしが座っている木製ベッドと扉と窓があるだけという簡素な造り。


 その前にわしはなぜこんなところに……く、思い出せん!


 何が脳トレじゃ。何がアンチエイジングじゃ。


 旅行? リフォーム? それとも――――。


 あれこれ思考を巡らせていると突然バタンと音を立てて扉が開く。


そこには青みがかった髪の少女が立っていた。妙な既視感があるのう。


「お、おはようございます後継者様。体調はどうですか……ってそうじゃなくて、ごめんなさい。後継者様の住居がこの間の魔物の襲撃で全壊してしまいまして……今急いで復旧作業をしているのでしばらくこの空き部屋を使ってください」


「ふむ、さっぱりわからん」


 魔物、襲撃、後継者……わしは頭でも打ったのか?


「ごめんなさい申し遅れました。私はエイディスと申します。国王様の側近を任されております」


「ふむ、全然わからん」


エイディス、国王、側近……ファッファッファ、わかったぞ!


これはあれか、リアルが辛くなって現実逃避の為に妄想を働かせすぎていたら境界線が分からなくなってしまったパターンか。


こんなに可愛ければ人生イージーモードだろうにニートなのだろうか? ネットしながら「はいはい、ワロタワロタ。っと」みたいことしてるんじゃろうか。


わしが養ってあげても、否! 養ってあげる、否! わしに養わせてください。


「あの、昨日手を握ったの……覚えてないですか?」


 わしの妄想を余所にエイディスとやらが尋ねてきた。


「ふむ、わしは全く覚えて……思い出したぞ!」


 そうじゃ、昨日タカシと探検をして、そのあと頂上で光る石を見つけて、気付いたら真っ白い空間に閉じ込められて、そしたらこのお嬢ちゃんが迎えに来てくれたんじゃ。いやー、アハ体験。


 そうだ、あとギャルゲーを忘れていた。


「ファッファッファ、思い出したぞ。で、ここは天国なのか? 天国にして結構汚れているようじゃが……」


 エイディスが静かに首を横に振る。


「いいえ、ここは天国ではありません。そうですね、ちょっと外をお散歩しながら話しましょうか」


 そう言ってエイディスは窓を見る。薄汚れたぼろぼろの窓を通しても今日の天気が快晴なのが分かる。


きっと外に出たら気持ちいいだろう。


わしは承諾して扉を開ける。


扉を開くと朝の燦々とした太陽が出迎えてくれた。正月の冷たく厳しい寒さはどこえやら、生暖かい風が頬を撫でる。


「おおぉ……」


思わず感嘆の声が出る。


辺りを見渡すと城壁に囲まれた城内町が広がっていた。城の外に町が広がる日本の城とは違い、城壁の中に町が収まっている。


城壁の外には青く澄み切った川。その川は城への侵入を防ぐ濠にしてはあまりにも清澄でコバルトブルーに輝いている。


そして黄緑色に化粧された平原が地平線まで伸びる。


だが、その鮮やかな風景とは逆に、後ろを振り返ると不釣り合いな景観が横たわる。


城は西洋風で、シンデレラ城だかノイスバンシュタイン城だかを思わせる立派な造りだが、ところどころ崩壊している。


さっきエイディスが言っていた襲撃と関係があるんだろうか。

そもそも今の時代になぜ人が城に住んでいるんじゃ?


 どこか異世界じみている光景に違和感を抱く。


「ふむ、これは夢じゃろうか」


 無意識に出た言葉をエイディスが拾う。


「いいえ、夢ではありませんよ。あなたにはこちらの世界、アスール国に召喚されました」


 あすーる国?


ファッファッファ、もしやこれは異世界? これが最近噂の異世界か。


まぁ最近は異世界に召喚やら転生やらする人も増えていると聞く。


これもトレンドってやつじゃな。このビックウェーブにわしも乗るとするか。


「ふむ、じゃあこの世界の説明をしてもらおうか」


「は、はい……ってあまり驚かないんですね」


エイディスは苦笑いで言う。


おじいちゃんを舐めてもらっちゃ困る。


最近の若者は異世界に召喚されるとすぐにテンパって右往左往してしまう。


そういうのはよくない。常に冷静沈着、静かなること林の如く、そして同時にフレッキシブルな対応が異世界では求められる。これは豆知識。まぁ初めて来たんだけど。


「こんなおじいちゃんになれば多少のことで今更驚いたりはせん」


「じゃあ最初に驚いてもらいましょうか」


エイディスはそう言うとおもむろに手鏡を取り出す。


「お顔をご覧になってください」


ニコッと笑いながら手鏡を俺に向ける。汚いツラを自分で確かめろってことか? 可愛い顔してえげつない事するな。


「どれどれ、わしを驚かすことはでき……ほほほほげー!!」


 鏡を覗くとそこにはわしの顔はなかった。


 あったのはハンサムでワイルドな二十歳くらいのイケメンのフェイス。


 こんな格好いい男そうそういないじゃろ。なぜこんな美男子になってるんじゃ。


「どどど、どうして若返ってるんだ!」


「それは私にもわかりません。お迎えに行ったときはおじいちゃんでしたけど、こちらの世界に来たら青年姿になっていたのでビックリしました」


いやー、ビックリしない。全然ビックリしなかったー。わしは常に冷静だから良かったものの、常人なら腰を抜かしてるところじゃ。あー、全然全くこれっぽっちもビックリしなかった。ふぅ……。


冷静になって全身を見ると確かに筋肉は勝手に復活を果たし、しわやシミは消滅していた。


髪の毛も見事に復活。キレイな黒い髪が短く整えられている。推察するに恐らく高校生くらいの時の雰囲気を感じる。それにしてもイケメン過ぎる。


「ま、まぁ、エイディスはまだ子供だからビックリするのもしょうがない。わしクラスになるとこれぐらいでは動揺せん。まだまだ詰めが甘い、精進するんじゃ」


「は、はい。精進します」


 わしらは石畳の階段を下っていく。エイディスが見せたいものがると言うので、とりあえず城内町を目指して散歩を開始する。


「じゃあ改めて説明してもらおうか」


異世界にはそれぞれ設定というものがある。


最初のチュートリアルをスキップすると戦い方が分からなくていきなりパーティが全滅したり、非常事態への対処が遅れるから注意が必要。これも豆知識。もちろん初めて来たんだけど。


わしが言うとエイディスは一つ咳払いをして語り始める。


「ここはアスール国と言います。人口は五千にも満たない小さな国です。以前はもっとたくさんの人たちが住んでいましたが、長きにわたる戦争でその数は減少の一途をたどっています」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ