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【趁火打劫②】

 隊はその後も順調に進軍し気が付けば敵城第四まであと一歩のところまで来た。


八重の小言に付き合っていたらあっという間だったから八重には感謝したいが、エイディスとのスイートタイムを邪魔されたからイーブンじゃ。イーブイではない。


 既に日は傾き始め、その姿を夕日へと変化させていた。


歩いていても昼間のように汗は出てこない。


むしろ歩いていてちょうどいいくらいの気温になっていた。


 一度エイディスにフィランたちの様子を見に行ってもらったが、奇襲など異常はないとのこと。


 ここまで来るとちらほらと岩の残骸が転がっている。


それらを軽快に飛び越えてすぐそこに迫る敵城を目指す。


「あ! あったー!」


「ば、ばか!」


 八重は宝物を見つけた子供みたいにはしゃぎ始めるが、どうにか口を押える。


後でたらふく飯を食っていいという契約を即座にかわし、八重を黙らせる。本当に連れてきて良かったのだろうか。


 前方には敵城第四がある。


あるが岩石が城にクリーンヒットしていて、城壁はぼろぼろ。中まで被害が見受けられる。


 確認できるのはそこまでで詳しい様子は分からない。


「エイディス、ひとっ飛びして敵の様子を見てきてくれ。くれぐれも見つからないように頼む」


「分かりました、国王様」


 命を受けたエイディスは翼を広げて滑空する。


まぁあれだけの被害があれば取り囲んで殲滅するのは難しくない。


こっちにはメリアとエイディスがいる。


しっかり魔物を撃退すれば魔人一人に対して数的有利な状況を作ることは可能。


 それに今回はオプションとして八重もいる。


もし話が分かる魔人であれば談合で解決したいところだが、八重の情報にそこまでの信用性がないのも事実。不確定要素が多いが出来れば戦わないでここはクリアしたい。


一回頭の中をリセットして作戦を綿密に組み直すと、マイリトルエンジェルの姿が見えた。


近づいてくるとゆっくり着地する。はい、百点!


「どうだった」


「えっと、魔人と思われる人物が一人で城壁を修繕してます……」


「魔物は?」


「詳しくは見れなかったですが……いなかったです」


 魔物がいなくて魔人が一人。なるほど、どう考えてもトラップとしか思えない。


もしや全ての魔物が山を登って進軍しているのか。可能性としては十分あり得る。


「エイディス、悪いが次は山の中を確認してくれ。猛スピードで頼む」


「は、はい」


 さっきの偵察とは違い、今度は猛スピードで飛び出す。


もし敵が進軍しているのであればかなり危険。敵城第三にいるのはフィランと一平卒しかいない。


全魔物で攻められたら三十分も持たないじゃろう。


もしそうだった場合はわしらも超特急で山に入り、挟撃するしかない。


 焦らしい気持ちを押さえて待機していると、やがてエイディスが戻ってくる。


息を切らしながら状況説明を開始する。


「えっと、あの魔物はどこにもいませんでしたぁ。はぁ」


「ど、どういうことじゃ」


 魔物がいない? もっと高尚なトラップを仕掛けているのか。


いや、大量の魔物の姿を隠すことなんてさすがに無理がある。


それにルートとしてはこの迂回ルートと山を突っ切るルートの二つしかないはず。となるとさっぱりわからん。 


 いや、今は考えるより行動じゃ! とりあえず今できる最善の行動は。


「魔人に話を聞かせてもらうしかないな」


「八重の出番だぜー」


 八重が意気揚々と言う。これが今とれるベストの策。


正直何がどうなっているのか分からない。本人を問いただす他ない。


 我々は急ぎ軍を進める。はっきり見える位置まで来ると、確かに魔人が一人で城壁の修繕活動をしていた。エイディスの言う通り、魔物らしき姿はないし気配もない。


 修繕活動中の魔人を目視した瞬間、八重が走り出す。


「竹蔵じゃ―ん!」


「ちょ、待て!」


 わしの静止を振り切り八重が猪突猛進する。


わしらも追随するが早すぎて追いつけない。見ると、武蔵と呼ばれた男が飛び込む八重を抱擁していた。


 身長はわしと同じくらいじゃろうか。


髪はミディアムに整えられ、眩しい金髪に染められている。


時折見える耳にはピアスが装着されていて、服装は八重と同様黒いローブに包まれていた。


もちろん尻から生えるは魔人の尻尾。


 一見チャラそうに見えるがすごいチャラい。いかにも最近のリア充チャラ男って感じがして生理的に受け付けない。が、今はそんなことを言ってる場合じゃない。


「おぉ! 八重じゃん! 超久しぶり!」


「武蔵じゃ―ん、八重会いたかったじゃん!」


 なるほど感動の再開ってやつじゃな。悪いが邪魔をさせてもらおうか。


「お前がここの城の魔人か?」


 軍の神出鬼没に驚いたのか、武蔵とやらは目を丸くしている。


わしの全身を舐めるように見渡すと破顔する。


「イェス! 俺は武蔵。ここの城をめっちゃ任されてる魔人だ」


 言葉遣いもチャラい。


しかし、普段チャラそうに見えて、やる時はやる、そしてしっかり結果を出す男と言うのは総じてモテる。フェイスの問題はいくらかあるが、男の本気の姿に女心はときめくと相場は決まっている。ふん、いけ好かない野郎だ。


 さて、これからどうしたものか思案していると、後方にいたメリアが剣を抜いてわしの前に現れた。


「武蔵、貴様……」


「おぉ、メリアちゃん! ガチで久しぶりじゃん!」


 武蔵とやらはメリアを見つけると、八重を剥がして両手を広げてメリアに近づく。


むむ、どういうことじゃ。メリアも知り合いなのか? 


わしの訝る視線に気づいたメリアが小さい声で呟く。


「私が唯一対峙したことのある魔人です」


 なるほど、なんかそんな話を聞いたような聞いてないような。そう言えば武蔵と言っていたような言ってないような。


 まぁそんなことはどうでもいい。とりあえず今は敵の情報を知りたい。


どこから聞こうか悩んでいるのをよそに、武蔵はメリアと抱擁を交わそうとする。


 その刹那。


 おちゃらけた武蔵とは逆に、真剣そのものだったメリアの手が動く。


 そして次の瞬間、無防備に近づいてきた武蔵の腹を容赦なく突き刺した。


剣は確実に腹を貫通し、場は一気に静まり返る。だが。


「メリアちゃん元気だった? マジで会いたかったわー」


「くっ……!」


 突き刺されたはずの武蔵はピンピンした様子でメリアと熱い抱擁(一方的)を交わす。


回り込んで見てみると剣は武蔵の横っ腹と肘に挟まれているだけで刺さっていなかった。


 メリアは剣を引き抜こうを腕を動かすが抜ける気配はなく、武蔵はそんなこと意に介さない様子で雑談しようとする。


「えー、メリアちゃん超顔怖いよ? つか、今日くらいは戦うのやめようぜー。魔物もいないし、俺負けちゃうぅ」


 武蔵はグスンとわざとらしい泣き真似を見せる。そもそも今の武蔵には戦う意思が感じられない。


それにしても、魔物がいない?


「魔物がいないとはどういうことじゃ」


 メリアはようやく剣を抜かせてもらい一歩離れる。


額の汗が何を意味しているか、さすがのわしにも分かった。


「つか、あんた誰よ? ガチで分かんないんだけど」


「アスールの国王だよ。八重にご飯くれた人じゃん」


 問いに八重が答える。武蔵は意図的なのか恣意的なのか魔物がいない理由を語らない。


「そっかぁ、八重が世話になったな。つか、なんで八重捕まったのに生きてんの? 超スゲェじゃん!」


「うん、国王がどうしても仲間になって欲しいって言うから仲間になってやった」


 いや、お前……まぁそれでいいや。なおも談笑を続けてる二人を遮る。


「で、なんで魔物がいないんじゃ」


 武蔵は八重の相手をしながら顔だけこちらに向ける。いい加減わしの話を聞けよ……。


 その願いが届いたのか武蔵は白々しく語り始めた。

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