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【ダンジョン攻略①】

「ねぇ、おじいちゃん!また昔の話してー」


そう言って駆け寄ってくるのはもうすぐ小学校三年生になるわしの孫。名前は……はて、なんじゃったかな。


「そうかそうか、話をしてやろう……孫よ」


「隆志よ、た・か・し。もうお父さんったら」


娘が呆れた表情で言う。そうじゃった、タカシじゃ。テヘペロ。


「そんなことわかっとる、ほら、タカシって……何の話じゃったかの? ファッファッファ、おじいちゃん忘れてしまったようじゃ」


 本当は覚えている。そんな数秒前に話した内容を忘れるほどボケておらん。


だが、おじいちゃんの昔話はもう五回も聞かせているからさすがにネタ切れじゃ。


それに小学生の孫というのは元気溌剌で非常にパワフル。まぁ相手にとって不足はない。むしろ不足してるのは完全にわしの体力。


しかし、こちらの様子を顧みず、おじいちゃんを連れまわす孫は脅威にもなる。


疲れてしまった時はとぼけるのが一番、これはおじいちゃんの特権じゃ。


「もう、おじいちゃんったら。だからむかしの……」


「ファッファッファ、早く食べないとおせちがなくなってしまうぞタカシ」


「え? あっ! 栗きんとんもう少ないじゃん!」


どうやら計略は成功のようじゃな。タカシは炬燵に足を突っ込んで、せっせと栗きんとんを口いっぱいに頬張る。

 

いやはや正月というのはいいもんじゃ。飯は美味いし酒も美味い。一人娘が旦那と孫を連れて来て徹夜で麻雀が出来る。旦那の名前は……まぁいい。


そして何より可愛い孫の顔が見れる。幸せなことじゃ。


「どれタカシ、食べ終わったらまた探検に行くかの?」


 言ってから気づく自分の失態。「ファッファッファ、今のは冗談じゃ」とでも言ってまた誤魔化そうかと思ったが、時すでに遅し。タカシは栗きんとんをお茶で流し込むと前のめりになって答える。


「やったー! でも、おじいちゃんと二人パーティだと回復役はどうしよう。そうだ、おばあちゃんも一緒に行こ!」


 若者の反応速度にはわしのシナプスも降参のようじゃ。


「そうかそうか、じゃがおばあちゃんはお片付けをしなけりゃならん。今日は二人でダンジョンを攻略するか」


 するとタカシは、うんうんと考え込みながら頷く。


探検は疲れるから出来れば近所の散歩程度にしたいが、自分が提案してしまったし仕方ない。


タカシの笑顔には敵わん。海内無双の強さを誇る。ただしわしにだけ適用。


「そうだね! 俺も早く一人立ちしなきゃだし、今日は二人でダンジョンを攻略しよ! おじいちゃん!」


 快活にそう言うとタカシは黙々とおせちを口へ運ぶ。


 ファッファッファ。久しぶりに会った孫じゃ、今日くらいは少し無茶するかの。



 わしとタカシは出かける準備をすると玄関を飛び出した。おっといけない、腰をやるところじゃった。


歩き始めるとタカシはワクワクを抑えきれないのか饒舌に話し始める。


「冬のダンジョンは初めてだよね! どんな魔物がいるのかなぁ。あとさ、今日は最深部まで行ってみない? そうすればあそこはステージクリアだよ!」


 白い息を吐きながらタカシは手袋を擦り合わせる。


なに、ダンジョンと言っても家の近くの小高い山じゃ。


だがタカシにとってそこはロマンの宝庫であり、ゲームの主人公になれる場所であり、さながらダンジョンにも見えるのだろう。


ちなみに魔物などおらん、ただの昆虫じゃ。


「ファッファッファ、冬に魔物はおらん。奴らは夏に備えて力を蓄えているのじゃ。ほれ、思い出せ、真夏の大軍を」


 わしが言うとタカシも昆虫たちの大行進を思い出したのか、苦虫を噛み潰したような表情をする。あれにはわしも腰を抜かしそうだった。いや、この年で腰を抜かすと本気で危ない。


「そ、そうなんだぁ、だから夏はあんなに凶暴になるんだね。俺のレベルじゃあいつらに太刀打ちなんて……できない」


「そんなことないぞタカシ。今日は最深部まで行くんじゃろ? それにタカシはわしの目から見てもグングン成長しておる。パラメータカンストまであと半分といったところじゃろ」


「ほ、ほんとに?」


 わしがそう言うとタカシはダンジョンに懸ける情熱を取り戻す。加減が難しい。


 子供は基本的に好奇心が旺盛じゃ。ワクワク心躍るものに興味示す。


だが、それがあまりにも難題だと恐怖したり萎縮する。逆に簡単すぎると子供でも稚拙に思ってしまう。


そこそこの難易度だということをチラつかせて、それでいてシンプルでなければ子供の探究心は満たされないのじゃ。ソースはタカシ。


「本当じゃ。ほらタカシ、そうこう言っているうちにダンジョンが見えてきたぞ。」


「うん! ってあれは……!」


 タカシは森を見て口をわなわなと震わせている。もちろんそこあるのはただのダンジョン、もといただの小山。


「おじいちゃん、葉っぱが全然ないよ! なんで?」


「そりゃ、冬だからじゃよ。タカシの学校の木とかも葉は落ちとるじゃろ」


「そうだけど、ここはダンジョンだよ? これはいったい……」


 どうやらタカシはこの山を特別視しているようじゃ。


ここはタカシにとってはサンクチュアリのようのもの。仕方ない、ここは少し乗っておいてあげるか。


「ふむ、もしかしたら魔物の影響かもしれんぞ? 力を蓄えるために周囲の木々から栄養を吸い取っているのかもしれん」


「そ、そんなぁ」


 タカシは露骨に恐怖する。


「だが、わしとタカシならきっとこのダンジョンを救ってやれるじゃろう。どうだタカシ、できるか?」

「……うん!」


 どうやらいい感じに盛り上がってきたようじゃ。


「ファッファッファ、じゃあそろそろ準備をしよう」


 タカシは無言で頷く。その顔には一抹の恐怖が伺えるが、同時に野心を秘めた武将のように凛々しくもあった。


タカシはさっそく付近にちょうどいいサイズの枝がないか探し始める。


剣はダンジョン攻略の必需品、これがなければ探検は始まらない! まだ恋は始まらない!とタカシが前に言っていた。


最後のは嘘。まぁ気分を盛り上げる安定剤のような働きをするのじゃろう。


「タカシ、おじいちゃんの木も探してくれんか? おじいちゃん屈むと腰が痛くての……」


「わかった! ちょっと待っててね!」


 するとタカシはうーんこれは違うとか、これだとストライクキャノンが出せないとか、これは物理攻撃が弱いなぁとか一人で呟いていた。


 丁度いいものが見つかったのか両手に木を握りしめて、わしの元までトコトコやってきた。


「おじいちゃん! いいのが見つかったよ。こっちが俺のでこっちがおじいちゃんの」


「タカシの木の方が強そうじゃないかの?」


 明らかにタカシの木の方が重量感があり、形も整っている。か、カッコいい!


「ううん。俺はじいちゃんを守らなきゃいけないから、ちゃんとした剣が必要なんだ。おじいちゃんは俺がピンチになったらそれで突っついてくれれば大丈夫だよ」


 突っついてって……まぁいいいか。


「ファッファッファ、肝に銘じておこう」


 剣を手にしたワシらは山……ではなくダンジョンに足を踏み入れた。


転ばないように気を付けないと。本気で。


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