雨と玩具と少年と
水も滴る梅雨時、ゴォゴォと鳴り響く風、そしてその中で濡れながら壊れかけの舗装道路を歩くみずぼらしい私。木刀を背中にしょいながら。
「あ〜ッ!最悪!!」
レインコートに滴る雨の音とその辺でゲコゲコ鳴いてる蛙に子供みたいにイライラする。子供だけど。
私の名前は弁助。名前と雰囲気は(納得いかないけど)どこか男臭い。政府に雇われるため諸国修行中の賞金稼ぎである。一応剣の腕前は人以上と自負している(ドヤッ)
この国は政府の管理下の要職に就けば大金が手に入る。どんな身分でも...だ。
特にコマンドはいくら馬鹿でも腕っぷしが良ければ入隊できる。しかし軍属になるためには確かな実力と名声が必要だ。
その為、私のような賞金稼ぎも少なくない。
家は剣道一筋で、その家系のおかげで女の私も木刀を握る定めである。そのおかげで金には困らないのだが...
「近くに休憩所なんてあったっけなぁ...」
この森はとても見通しが悪く、最悪迷子になる事もあるらしい。それなんて樹海...
「だがこの程度で私は屈服しない!してなるものか!」私は鍛え上げた土地勘と、切り札である地図を使おうとした。
その時であった。
ガサガサッガササ
木の陰でバックルを漁っていた私の前方の草むらで、その音は聞こえた。
え...何?野生の動物??
しかも音からして兎とかあきらかに小型の動物ではなかった。
多方イノシシか猿...ヤバイ場合に熊であろう
「勘弁してよぉ...」
一応バックルをその場に投げ捨て木刀を構えるが...正直かなり動揺した。
猿とかならともかく...熊とかマジで無理だ。
強靱な肉体。自動車並の素早さ。そして内蔵血管を粉々にするほどの破壊力を備える爪と牙。いくら刀の形をしても所詮は木。申し訳程度な棒切れじゃ無理だと誰もが思うだろう。
しかも音が徐々に近づいてくる。
頼むから某RPGモンスター系の演出になってくれと切に願う。
ガサガサッ ガサガサッ ガサガサッ!
「お願いだから来ないで...」
ガサッ!
「ひッ...」
そして黒い物体が草むらから飛び出して来た。サイズは小さくよく見えないが間違いなく獣だろうと断定した。
あぁ...終わった...
思考停止をした...もう軽く桃源郷が見えたそうだった。
「お姉ちゃん、何泣いてるの?」
と、人の声が聞こえた。
見ると、中学校低学年ほどの少年が傘をさしながら立っていた。
ほぼしゃがむ姿勢で緊急ガードしていた自分を少し笑い気味に。
「い、いや!これはその...」
どうしよう。まさか動物にビビっていたなんて言えない。とりあえずここはッ!
「す、少し雨が強くなってさ!時計が濡れないようにね!」
まあ時計なんて持ってないのだが。
「ふ〜ん...」
少年は苦笑しながら呟いた。
くそ〜ムカつくぅ・・・
立ち上がって見てみると、少年の腰にホルスターの様な物を付けていた。拳銃もちゃんとある。
まぁ、玩具だろうな。すぐにそう思い、驚きもしなかった。
この国では、一般人が武器を持つことはできない。何故なら、使おうとしても無理なのだ。
刀でさえ切れ味は制限され、人を斬る事は不可能である。銃などもっての外だ。包丁ならギリギリ刺身を裁くぐらいだが...。
しっかりと使うには免許が必要だ。それもやはり軍属じゃなければ...。
でなければこんな貧相な木刀を持たなくてもいいのだが。
他は察して特徴的な物はなかった。大方ピクニックに来たら親とはぐれて...なんて事だろう。
「あの・・・」
私が脳内で思考を飛び散らす最中に少年は話かけてきた。
「僕、道がわからないんです。だから一緒に峠を超えませんか・・・?」
そーれ見ろ。やっぱりそうだ。こいつめ、こいつめ。
「わかった。私に離れないでね」
あれほどしきりに降っていた雨も止み、見通しも良くなっきた。
地図をしっかり確認し、再び道を歩き始めた。
しかしーー私はもう少し冷静な判断をすれば良かったのかもしれない。
なんでこの子はわざわざ草むらに??
それに、少年の側に不気味な気配がほんの少しだけした。ほんの、微かに。
そんな事、当時の私にはどうでもよかったのかな。
その甘い判断のおかげで、今の私がいると言っても
・・・。
過言では無いのだが。