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サブと勇者

 カンカンと教会の朝を告げる鐘が町中に響き渡る。その教会と家が近いせいかいつもその鐘の音で目覚めてしまう。集合住宅の一室に俺は暮らしている。外見はレンガ作りで最近外装を工事したばかりで真新しいが中は黒ずんだうすぼろいフローリングに壁の塗装は一部剥げてしまっている。日差しは部屋にひとつだけある窓に可視差し込んでこない。でも、正面のある窓の南側に教会が建っているせいで入ってくる日差しは朝日だけで寝過ごすと部屋の中で日の光を浴びることなく1日を終わることもある。

 今日は日曜日で多忙に追われる俺の日々も一時の休息となる。

 いや、普段だったら日曜日だろうと仕事があるんだけどたまたま今日だけすべての仕事が休みになっている。元気だったら適当な日雇いの仕事を探しに行こうとか思うのだが今日くらいは1日家でゆっくりするのもいいかなと思うわけだ。たまには昼まで寝ようと思ったのだが教会は日曜日だろうと鐘を鳴らすのだ。だから、いつも通りに目覚めてしまう。

「・・・・今日何しようか」

 いざ、仕事がないとすることがない。これだと仕事依存症になって借金の返済が終わっても仕事しないと生きて行けない人種になってしまう。いや、それだけは絶対に嫌だ。

「と、とりあえず、外に出れば何かやることが見つかるだろう!」

 そう言って出かける。

 ちなみに町にはカジノとかボーリングとか映画館とかショーステージとかカラオケとか遊ぶところはあるにはあるのだがすべてにそれなりの金がかかる。借金に追われる俺にそんな遊びに使う金はどこにもない。

 だが、外に出れば金のかからない何か遊ぶことがあるだろうと集合住宅の階段を降りて路地に出る。路地では子供たちがベイゴマで遊んでいた。お金のかからない遊びだが大人の俺が参加できるような遊びでもない。大通りへ向かおうとすると全身をマントで覆って顔もフードで隠した不審な人物が大通りから路地に入って来た。その行動は明らかに挙動不審。

 絡まれたくないな~と思っているとその不審者と目が合う。うわぁっと思うと不審者は俺を見るなりに飛びついてきた。

「サブス~!」

 奇声に近い声で俺の名前を呼んで飛びついてきた。反射的によけた。不審者はそのまま汚い路地の地面に顔面をこすりつけるように転倒する。

「き、汚い!」

 すぐに顔をあげると勢いで顔を隠すフードからその顔が明らかになった。

「あ!お前は!ゆ!」

 名前をあげる前に俺の口を覆った。

「今、正体がばれると厄介だから。今はお忍びだからお願い」

 そう俺にすがるように物事を頼む情けない姿を見て確信した。

「今更何のようだよ、勇者」

 そいつは俺に魔王討伐の準備をさせるだけさせて手柄をすべてネゴ削ぎ持っていった。俺の元親友である勇者だ。今は親友だとは微塵も思っていない。親友だったら俺の借金を肩代わりしてくれてもよかったはずだ。こいつの生活と俺の生活は天と地の差がある。俺の苦労を何も知らずに魔王討伐したことをテレビで語りまくっている。ちなみにテレビで語った魔王討伐の内容はほぼすべてがガセである。

 しかし、今や王様の姫と結婚して王子になった勇者がどうしてこんな汚い路地にやって来たのか。かなり焦っている様子だ。一応、勇者は魔王から世界を救った勇者として人気が高いので町に出れば観衆に囲まれて身動きが取れなくなる。だから、何か話があるようだったので家に招いた。

「相変わらず、こんな汚いところに住んでいるんだ」

「誰のせいで今もまだこんな汚い生活を強いられていると思ってるんだよ」

 若干、キレ気味にとりあえずお茶を出す。それを口にする勇者。

「薄いし不味い」

「だったら飲むな」

 水も近くの井戸から汲んできたものだ。王宮みたいにきれいな泉の水なんて使っているわけがないし、お茶葉も安いものを色が出なくなるまで使うんだから薄くて不味くても我慢しろ。

「で、何か用か?」

「実は」

「嫌だね。帰れ」

「いや、まだ何も」

「お前は前に俺に魔王退治を手伝えって言うお願いを俺は仕方なく受け入れて大いに働いた。だが、報いは全くなかった。残ったのは魔王討伐に費やした借金だけだったんだ!最初に勝手に魔王退治に行ったときだって俺に勝手に俺の名前と住所で明細書を作りやがって!この悪魔が!」

「あの時はゴメン。でも、今はそれどころじゃないんだ」

 さらっと流しやがって!全然反省してないだろ!

 きっと、他の奴も同じなんだろう。俺の苦労なんか知らないし知ろうともしない。

「実は前に倒した魔王とは違う別の魔王、新魔王が現れたんだ!」

「俺は退治に行かないからな」

「回答早すぎ!」

 どうせ一緒に行ってくれないかだろ?分かり切った質問をぶつけるな。どうせ、俺に下準備の苦労をさせるだけさせておいしいところを奪って俺を切り捨てるんだろ。そんなことを分かったうえで誰が手伝うか!

「そう言わずに前みたいにいっしょに魔王退治を」

「やらないって言ってるだろ。第一、お前は勇者なんだろ。だったら、勇者らしく自分の力で何とかしてみろ。お前には俺が在り処を見つけて入手するための武器と防具を用意して手に入れた聖剣エクスカリバーがあるだろ」

 ついで俺がその貸賃も払ったんだ。

「いや、でも相手はちょっと面倒なことをしているんだよ。正直、エクスカリバーだけじゃ無理だ」

「なら、武闘家にでも魔法使うにでも僧侶にでも頼めばいいだろ。俺は聖剛剣マスターソードが手元にないから魔族と戦う手段は皆無だぞ。あいつならまだ聖属性の武器を持っているだろ」

「それが無理なんだ」

「なぜ?」

「武闘家は聖剣ライトニングナックラーをオークションに出して手元にはないし」

 ああ、そういえば俺が苦労して入手したのにってブチ切れしたな。

「魔法使いは女優業が忙しいしそんな魔王退治なんて言う時代遅れのことはやってられないって」

 魔王よりも先に抹殺したい。

「僧侶は修行でどこにいるか分からないんだ」

 一番、僧侶がまともな気がする。

「つか、俺があげた聖防具もまだ持ってるんだろ。聖防具のチート級の防御力とエクスカリバーのバランス崩壊レベルの剣を使えばそんな新魔王ごとき楽に倒せるだろ」

「それがそうもいかないんだ」

「なんで?」

 やけに弱気だな。初めて魔王を倒しに行くときは俺は勇者だから、魔王に負ける勇者なんて聞いたことないって謎の自信であふれていたのに。

「何が厄介なんだ?」

 一応聞いてやろう。

「前の魔王を初めて討伐しに行こうとした時に王宮は魔王によって訪れる世界の終焉を食い止めるために多くの軍艦を作って出撃できる準備を整えていたんだ」

 整えていたのにたった一人の勇者があっけなく魔王を倒してしまったんだ。その軍艦は使われず終わってしまったわけだ。

「軍艦には当時使う予定だった砲弾の弾や火薬が大量に使われず王宮の東側にある武器庫に残っているんだ」

「おいおい、まさか新魔王はそれを使おうとしてるのか?」

「そうなんだ。軍艦はいつか使うために保存してあったんだけど、そのありかを悟られてしまってすでに新魔王に占領されている」

 マジかよ。何やってんだよ。

「もう、明日!いや、今日新魔王がその軍艦をこの町に襲い掛かって来てもおかしくないんだ!ことは一刻を争うんだ。だから、サブス頼む!どうか魔王討伐の時みたいにいっしょに魔王を倒して世界を守ってほしい」

「嫌だ」

「って!それも即答!」

 だって、またおいしいところを持って行かれるだけだし。

「いや、この町が世界が再び危機に陥ってんだよ!なんとも思わないの!」

「え、いやそれを武闘家と魔法使いと僧侶に同じことを言えよ。あいつらは魔王と戦える武器を持っている。対して俺は持ってない」

 魔王には聖属性の攻撃以外はほとんど利かないって言うのはきっと同じなはずだ。それに攻撃は本来の闇属性の他に軍艦に装備された砲弾とかがあれば前のようなチート級の防御力を誇った聖防具でも砲弾から身を守るのは難しい。聖防具はまだ持っているが聖防具のチート級の防御力が皆無となって聖属性の武器がないとなると、ただの庶民である町人Bにどうこうできるはずがない。

 しかし、勇者は不敵な笑みを浮かべた。何かを思いついたようだ。その思考を新魔王討伐に使えないものか。

「なら!これをあげる!これで魔王退治に言ってくれるよね!」

 勇者は腰に装備していた聖剣エクスカリバーを机に上に置いて俺に差し出した。

「いや、俺の話聞いてた?いくら攻撃力があっても相手は砲弾を使って来るから聖防具が」

「聖剣があれば何となるよね!他のメンバーについてはこっちが何とかする!王宮の力を見くびったらダメだ!前とは違う!魔王を倒した暁にはしっかり謝礼は払わせてもらうよ!」

「いや、その謝礼の前に前の魔王討伐に使った資金を耳を揃えて払ってくれれば」

「じゃあ!頼んだ!」

 そう言って部屋から出て行った。

「おい!俺はまだやるとは一言も!」

 しかし、勇者はすでに路地から抜け出して大通りの方に走って行ってしまった。

「・・・・どうすればいいんだよ」

 手元の聖剣エクスカリバーを見て思う。

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