サブと魔王
「マスター。焼酎水割り」
「はい。今日もお疲れ」
本日もいつも通りバーで一番安い酒を頼んでそれをちびちびと飲む。
「今日はどこでお仕事したの?」
「勇者の城の外壁工事」
「・・・・あんたって本当にかわいそうね。とっくの前から同情しているけどさらに同情したくなるわ」
そう言われると泣きそうになるのでそれ以上言わないでほしい。
だが、今日の仕事が一番給料がいい。魔王攻略のための道具集めとかで前の職場を休みがちになってしまったせいで首になってしまい今は不安定な派遣の仕事をして借金を少しずつ返済している。少し余ったお金でここにやってきて俺の愚痴をマスターに聞かせるのだ。
「なんで俺はこんなどん底生活なのになんで勇者はあんな豪邸に住んで裕福な生活してんだよ!本当は俺が勇者だったんだよ!なんであいつが勇者なんだよ!あいつは結局最後に魔王にブスッと斬っただけなのに!どうしていっしょにいたはずの俺はこんな生活なんだよ!」
「気の毒ね」
「・・・・それは気の毒ですね」
マスター以外に俺に声をかける人物がいた。涙でぬれる目元を拭き取って顔をあげると同時に俺の座るカウンターの隣に男が座る。身長は2メートルくらいあって筋肉質で従えた髭がその威厳さを物語っているその男。俺と同じく焼酎水割りを手にしていた。
「・・・・あれ?どこかで見覚えが」
「分かりますか?自分はあなたのことを知っています」
「俺のことを?」
はて、どこかで見た顔なに名前が出てこない。こういう場面でどう話をしていいのか迷う。見たことあるのどんな奴なのか分からないのが一番厄介なのだ。
「ごめん。失礼だけど名前なんだっけ?」
失礼を承知で名前を聞いて驚愕する。
「ああ、自分は魔王です」
バーが凍りついた。
「ままままままま!魔王だ!」
確かにその容姿!今は深緑色の作業着を身に付けているせいで黒いマントを身に付けて魔剣を腰に従えたその魔王独特の雰囲気はすでに地平線の方に投げ飛ばされていて分からない。魔王じゃなくて俺が働いている建設現場で働いているただのおっさんと何も変わらない。
いや、そんな場合じゃない。世界の終焉を企んでいたあの魔王が目の前にいるということは非常に不味い。
「どうしてこんなところに!」
戦闘態勢に入るが俺の腰には聖剛剣マスターソードはない。時の神殿の賢者にあげてしまってないのだ。マスターもバーカウンターの隅に置いてあるほうきを手に取って戦闘態勢に入るが魔王は笑みを浮かべる。微笑んだのだ。
「そんな殺気だてないでください。自分はもう魔王を止めてますんで」
魔王って辞められるの?
「今は勇者たちに怪我を負わされた部下たちの治療代を返済するためにバイトを掛け持ちして働いています」
魔王のくせに超真面目なんだけど!
「部下の治療費って?」
マスターが尋ねるとしんみりとした空気の中魔王は答える。
「いや~、自分たち魔族にはどうも社会保障制度が適用されないので治療費がバカにならないんですよ。何度も申請したんですけど、断られまして」
いや。誰もOKしないよ。だって、相手が魔王だもん。
「自分は勇者に敗北したせいで勇者に全財産をほぼ奪われてしまって明日食べるのも苦しい状況でした」
魔王よりも勇者の方が悪だ!
「魔族の長の魔王として他の魔族たちを食べさせていかなければいけない自分は魔王というプライドを脱ぎ捨ててこうやって下っ端として地道に働いてお金を稼いでいます。治療費もそうですが、最近部下の門番のデビルが結婚してもうすぐ子供が生まれるんです。その祝い金でも何とかして稼ごうと最近は寝ないで働いているんですよ」
そう言って酒を飲み干す。
すると魔王の前に焼酎水割りが置かれる。
「自分お変わり頼んでないですよ」
「私のおごりだよ」
マスターは若干涙をこらえながら焼酎を渡す。
いや、俺もグッと来たよ。どんだけ部下思いの魔王なんだよ。こんな奴がなんで世界を終焉させようとしたんだよ!意味分かんないよ!
魔王はありがとうございますと一礼して焼酎を口にする。
「そういえば、サブスさんはどうしてこんなところに?勇者一行でしかも魔王討伐に一番貢献したはずのあなたがどうしてこんな裏路地の小さなバーにいるんですか?」
魔王が自分で魔王討伐とかいうのが何か不思議。
「まぁ・・・・かくかくしかじかいろいろあったんだよ」
とすべてを魔王に話した。
「そうですか。世の中報われないものですね。一番働いたものが一番損をしている。自分はそんな世界が嫌いでいったん終わらせて新しいきれいな世界を作り上げたいと思ったんですよ」
それで世界を終焉にさせようとしたのかよ。結構、優しい理由だな。
「サブスさんは自分と境遇が似てますね」
「似てるってどういうことだ?」
「自分も昔は王宮に使えていたんですよ」
魔王なのに?
「ですが、ある日城下を火の海にしようと企む魔王が現れました」
今の魔王よりも前にいた魔王か。
「今の王様、要するに勇者さんの奥さんのお父さんですね。彼と私は親友でした」
「え!王様と魔王って親友だったの!」
驚きの連続なんだけど!
「城下を火の海にしようとする魔王。火魔王と呼んでいたその魔王を倒すべく王様は自分の貯めた貯金を勝手に使って剣と防具を買ってひとりで火魔王と戦いに行ってしまいました」
あれ?どこかで聞いたことのある展開。
「ですが、何も対策をしていなかった王様は惨敗して自分のところに帰ってきました。そして、火魔王を倒すのを手伝ってくれと頼まれて自分は仕方なく応じました」
なんかデジャブが・・・・・。
「自分はグーグルを使って検索して火魔王は聖属性と水属性に弱いということが分かりさっそく自分は北東の果てに存在する湖に向かいそこで聖水剣アクアブレードを手に入れました」
「ちょっと待て、魔王」
「なんですか?」
「もしかして。その火魔王を倒すための武器武具を全部集めて王様とかに持たせて宿舎とかの手筈とか聖水剣のレンタル料とかも全部お前が借金して払ったのか?」
「はい」
それって―――。
「まったく俺と同じ境遇じゃねーか!」
似てるどころかそっくりそのままじゃねーか!
「そうですね」
「じゃ、じゃあ、今の王様が火魔王を剣でブスッて最後に刺しだけで終わったり」
「してますね」
「その後、たたえられたのは王様だけだったり」
「してますね」
「それで冒険に使った費用とか事後処理とかは全部魔王が受け持ったりも」
「してますね」
「・・・・・マスター。魔王に焼酎水割りを俺のおごりで」
そうか。俺は同じ仲間を同士討ちしてしまったのか。
「サブスさんも借金の返済が終われば魔王に」
「いや、ならないからな」
さすがに焼酎はもういいと言って俺のおごりは断った。生活が苦しいのことを魔王は同じく境遇者として知っているのだ。
「王様はバカでした。となると勇者も」
「バカの上で大バカだな」
「じゃあ、王様は大大バカですね」
「勇者はさらにその上の大大大バカだ」
「では、王様は」
「切がないからやめなさい」
マスターに止められる。
「あなたのような得をしない頭の切れる人がいるから魔王の悪事は止められてしまうのです。ですから、先輩として」
いや、魔王の先輩とかいらないから。
「あなたは頭がよく行動力に長けています。それを最大限に活用するほかないです。自分もそうだった」
俺のせいで魔王は撃沈したんだもんな。
「あなたには勇者以上に世界を転覆できる力があります。どうか、その力を無駄にしないでください」
そう言って魔王は焼酎代を払ってバーから出て行った。これから夜勤だそうだ。
「・・・・あんた魔王になるの?」
「さぁ~?」
飲みかけの焼酎の飲みきる。




