サブの苦労
裏路地に存在する隠れ家のようなたたずまいの小さなバー。そのバーが俺の行きつけのバーだ。
「マスター。焼酎水割りで」
「安い男ね」
「金がないんだから仕方ないだろ」
隠れ家のようなバーのマスター。大きな胸に大きなお尻をしたナイスバディの女マスター。さらしにホットパンツという目の行き場に困る格好をいつもしているが、そんなところに目が行くことはほとんどない。疲れてバーカウンターで脱力するからだ。
「今日もお仕事お疲れさん」
「ありがとう」
水割りの安っぽい焼酎を飲んで疲れをいやす。
「相変わらず借金に追われる日々かい?」
「そうだよ。先月ようやく聖棒スターステッキのローンを払い終わったばかりなんだよ。そのステッキは俺がローンを組んで買ったものなのによ!ステッキ持ってるのは俺じゃないって言うのがムカつく!確かに魔王攻略のためにあげたがそれを使ってテレビで出て女優にグラビアにテレビに出まくりやがって!誰のおかげだと思ってんだ!あの女は!」
ちなみにあの女というのは魔法使いのことである。
「大変ね。この間は聖剣ライトニングナックラーのローンが終わっていないのにオークションに売り出されているのを見つけて激怒していたものね」
「俺がどんな苦労を強いて手に入れたものだと思ってんだよ!俺の苦労を知ってほしいわ!」
薄い酒を流し込む。借金に追われる俺が飲める酒はこのバーで最も安い焼酎の水割り一杯だけなのだ。魔王攻略のために投資した借金が1年以上たった今でも重く俺の背中にのしかかっているのだ。
「確かライトニングナックラーは西の山岳地帯に住んでいる仙人の一番弟子になってようやく手に入れたものなのよね」
「そうだよ!毎日出される食事は低カロリーの質素な物ばかりだし!仙人にはこき使われるしマジ最悪だったよ!」
「スターステッキも大変だったんでしょ?」
「そ!東の山奥にたたずむ魔女の城とかいう廃墟の奥から幽霊に追われながらも命からがら取りに行ったんだよ!しかも、その後になぜか請求書が送られてきて仕方なくローンを組んで二度手間だよ!最初から請求書送りつけるくらいだったらもっと楽にとらせろよ!」
そんな苦労を奴らは知らずに自分で取りに言ったもののように私物化して好き勝手に使ってやがる。売り飛ばすはテレビで入手の苦労についてのドキュメントに勝手に話を作り上げたり。怒ることがたくさんありすぎて消化できずいるのが今の現状である。
「まだよ~。聖珠ホーリーローザリーのローンも残ってるし」
「でも、それが払い終わればようやく全部の借金の返済が終わるんじゃないの?」
「それがさ~。魔王城に向かう際の宿泊費とかも全部俺が賄ったんだよ!あいつら一銭も金を持たずに旅に出るバカがどこにいるんだよ!」
俺も持ち金はわずかしかなかったので仕方なくカード払いで宿泊費を支払った。そのカード決算の明細書がとんでもない金額で送られてきた。身に覚えのない出費も存在しているのであの勇者か武闘家か魔法使いか僧侶が勝手に俺のカードを使って買い物をしたとしか考えられない。
「ちなみにホローローザリーの裏話について私何も聞いてないから聞かせてよ」
「ああ?ああ、あれは確か南の寺院を守るブツゾーンとかいうモンスターが首にかけていたものだよ。手が6本あってさ、すべての手に剣を持っていてすべての攻撃を避けて弱点の腹に斬撃を入れるのはスゲー大変だったんだよ!」
「へ、へぇ~」
その後にブツゾーンの修理代を請求される始末だ。だったら、最初に持たせるなよ。
「なのによ!あのくそ僧侶の野郎はホーリーローザリーを勝手に使って自分の寺院を開きやがって!」
「今、入院者はすごいでしょ?その寺院」
一体どれだけの金を入院者にとっているのか分からないが俺よりも裕福な生活をしていることは間違いない。
「あんた本当に大変ね。勇者よりも勇者やってるじゃない」
「本当だよ」
「で、今は借金に追われてバーで飲んだくれるただの町人Bになってるわね」
そう。俺はどれだけ頑張っても町人B。サブキャラクターなのだ。
「というか。あんたも魔法使いみたいにテレビに出ればいいじゃない。一応、勇者のパーティーに入っていたんでしょ?」
「そうしようと思ったんだけど、魔王退治に使った武器をエクスカリバーの代わりに解く気の神殿の賢者にあげちゃったせいで俺が魔王退治に参加した証拠品がなくなった。そのせいでテレビの出演を断られた」
「それだけで?」
「なんか俺が魔王退治に参加したんだって言う偽物が多くいるらしくてよ。聖剛剣マスターソードを手放した俺もその偽物と同じ扱いをされているんだよ」
「・・・・気の毒ね」
そう言ってくれるだけありがたい。
「てか、なんでマスターは俺の言うことを信じてくれるわけ?」
マスター以外は誰も信じてくれないのだ。
「だって、一番苦労してそうだもの。テレビで勇者たちの言っていることってなんか嘘くさいのよね。それに比べてあんたの言うことはリアルなのよ。普通だったらあんたみたいに苦労していてもおかしくないのにそんな感じが全然伝わってこないのよね」
バーの天井に釣り下がっているテレビを見ながらマスターは言う。つられてテレビを見ると魔法使いがバラエティーに出演していた。スターステッキを持って。
「まぁ、私だけはあんたの苦労を知っているから。だから、もう泣くな」
そう言って新しい焼酎水割りを俺に渡してきた。
「俺追加注文したっけ?」
「私のおごりだよ」
「ありがとう、マスター」
身に沁みる酒を流し込んで明日も働く。ホーリーローザリーのローンと宿泊代の借金を返すために。




