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SF 短編・掌編

掌編『罪の根源断絶装置』

 はるか未来。テクノロジーの進化は人類に絶大な恩恵をもたらした。

 一人のとあるエンジニアが開発した画期的な装置も、その恩恵のなかの一つだ。

 “罪の根源断絶装置”

 この装置は「罪の根源となった事象を特定し、それをこの世の中から消去する」というものだった。根源がなくなれば罪もなくなる。そういう考えのもとから生まれた装置である。

 “罪の根源断絶装置”は一部の反対を押し切り、公的な執行機関に採用された。それからというもの、世の中に存在していた様々な“罪の根源”はみるみるうちに駆逐されていった。武器やタバコ、薬物はもちろん、過激な反政府組織や性欲を煽る不埒な出版物、犯罪をテーマにしたテレビ番組や映画、ゲームなどもその対象となって、あえなく世間から抹消。この世の中には一切存在しないものになっていった。

 

 そうして順調に根源断絶が進んでいったある日、ひとつの“断絶”が物議を醸すこととなる。

 とある子供の犯した罪の根源が「その子供の親である」と認定され、その子の両親の存在がこの世から“抹消”されることになったのだ。

 子供のほうはもちろん反対した。しかし、たかが人間の一人や二人程度の意見など“根源断絶装置”は意に介さない。結局、決定は実行され、その親は“罪の根源”として消されてしまった。

 もちろん一部からは非難の声があがった。中には論理的なものもあれば、非論理的なものまで多彩であったが、装置の存在が浸透した世論の中では、それらの意見は力なき少数派でしかない。結局、政府は批判の声を聞き入れず“根源断絶装置”は取り壊されないままとなった。


 だが問題はそれだけでは終わらなかった。親を消されてしまった“その子供”が、再び罪を犯してしまったのだ。今度は「反政府的な過激行為」を行ったことによって。

 その子はまたも“根源断絶装置”にかけられた。

 しかし、何故か今度は結果が出ない。待てど暮らせど“根源断絶装置”は、その子が犯した罪に関する診断データを吐き出さなかった。

 しばらくして開発者のエンジニアが診断データを取り出そうと試みた。何故か装置のプログラムは大部分が破損しており、再起動は不可能な状態になっていたが、なんとか診断ログを取り出すことには成功した。


 しかしそこに書いてあったのは、エンジニアにとってこれ以上ないほど衝撃的なものだった。


【診断結果】

■診断対象:親を抹消された子供

■罪の根源:罪の根源断絶装置

■理由:罪を犯した動機は「親を抹消した装置に対して恨みをもったため」であるので、『罪の根源断絶装置』を抹消対象とするのが適当である。

■断絶の実行内容:『罪の根源断絶装置』の実行機能抹消

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