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亭主様と恋の種  作者: まるあ
第三章 百花繚乱、花の嵐は尽きることなく
51/58

奥様はお転婆でしたっ!

 あちらこちらで、私の名前が呼ばれています。

 この声はアンナさんでしょうか。時折マルスさんと思われる雄たけび様な声も聞こえますが、部屋のすぐ傍に居るのは、少し高めの女性の声なのでアンナさんで間違いはないでしょう。

 アンナさんは一つ一つ扉を開けて私を探しています。



 パタン、パタン―――……。



 扉の閉まる音が、だんだん近づいて来ています。

 荒い足音と共に、叫ぶように呼ぶ私の名前。

 悪い事をして逃げて隠れている様な気分です。



「ココットちゃん?」


 やがてこの部屋のドアノブが音を立てて回されました。鍵がかかっているので、もちろん扉は開きません。

 こんこんと軽くノックされて、私の名前が呼ばれました。

 


「中から鍵がかかってるから、居るのよね? リウヴェルの馬鹿、今度はあなたに何をやったのかしら。私でよければ話を聞くから出てこない?」

「………………。」

「それともバレンが何かしたのっ?! アイツさっきから姿が見えないのよね! リウヴェルかバレンかどっちかわからないけど、……ココットちゃんにひどい事をした奴の顔の形が変わるまで、ボッコボコにしてあげるから出てらっしゃい?」 



 アンナさんは、無言を貫く私に根気強く説得を繰り返しました。

 しかし、一向に返事をしない私に業を煮やしたのか、ドアノブを捻ってこじ開けようとし始めたようです。ガチャガチャと激しく動くノブが、外れそうな勢いです。

 ……その内、蹴破られそうな感じですね。

 蹴破られた時の事を考えて、ちょっと離れていた方がいいでしょうか?

 それとも、直ぐに見つからないようにクローゼットの中に隠れていた方がいいでしょうか?

 

 


「物置き前で何やってんだアンナ。嬢ちゃん探してたんじゃねぇのか?」



 早く鼓動を刻む心臓を押さえながら、アンナさんが扉を蹴破った時の事を考えていたその時、先ほどまで遠くに居たはずのマルスさんが現れた様です。

 アンナさんはマルスさんの方に走り寄ったのでしょうか。足音が少し遠ざかった後に、喜色を含んだ声音が聞こえてきました。



「マルスさんっ。ちょうど良かった! ココットちゃんを見つけたんですが、ここに籠城をきめこもうとしてるのでこの扉を壊してくださいっ! ささっ、ガツンと一発!」

「……俺は無駄な破壊はしない性分なんだよ」

「いいえっ。これは人命救助です! このままココットちゃんが食料も水も無く、トイレすらない場所に籠城したら健康を害するのには目に見えてます。だから、早くガツンと強いのを一発っ!!」

「……いや、しかしだな……」




 二人分の足音が、この扉の直ぐ目の前にきました。

 マルスさんは乗り気ではない様子ですが、このまま蹴破られてしまうのでしょうか。

 ……いっその事窓から逃げてしまいましょうか。

 いえいえ。ここは二階なのでそれは無理です。いくら下には植木があると言っても、二階から飛び降りるのははさすがに怖いです。

 窓の下を見てみれば、赤と白の花を付けた低い木がたくさん生い茂っています。ここから飛び降りたとしても、その木々がクッションになってくれそうです。しかし、怖いのでそんな事は出来そうもないです。

 やはりこの部屋にあるクローゼットに隠れるべきでしょうか……?

 でも、この部屋に居るのが知られているのに、隠れる理由は無い気がしますね。

 窓の外や部屋の中を見回していると、はっきりしないマルスさんに焦れたアンナさんが、叫びながら走って行きました。



「―――もういいですっ! 今からリウヴェルの所に行って扉を壊す事を伝えた後に、斧をもってきますからっ! マルスさんはそこでココットちゃんが逃げ出さないように見張っててくださいっ!!」



 アンナさんの足音が聞こえなくなると、マルスさんは扉を背にして座ったようです。

 マルスさんが扉を背にしたであろう瞬間に、扉が軋みましたから間違いないでしょう。

 暫くの沈黙の後に、マルスさんが私に向かって声をかけてきました。



「……あのよ、嬢ちゃんは何に対して怒ってるんだ? リウヴェルの野郎すげぇ落ち込んでたけどよ、籠城するなんたよっぽどの事をされたんだなぁ。アイツ、時たま空気読めねぇ人間になるからな」

「………………何もされていません。もう少ししたらちゃんと部屋から出ますから、放っておいてください」

「そうか。でもよ、アンナから頼まれたからなぁ。ま、アイツがリウヴェル連れてくるまで我慢してくれ」



 かかかと豪快にマルスさんは笑っていますが、私はさっきの言葉を聞いて固まりました。

 ……ヴェルさんを連れてくるって、さっきアンナさん言ってました?

 言ってなかった気がしますが……。



「……ヴェルさんが来るんですかっ?!」

「んあ? 探してたからな。そりゃ来るだろう」

「―――――えええええーっ?!」



 マルスさん、そんな当たり前のように言い捨てないでくださいっ!!

 ヴェルさんから逃げてるのに、見つかったら意味がないじゃないですかぁ!

 か、か、隠れなければっ!

 でもどこにっ?

 クローゼットしか私が入れそうな場所は無いですね。

 ―――何でこんな場所に隠れたんでしょうか私は!

 慌てながら部屋を見回しても、隠れる場所は他になさそうです。

 部屋に備えられている寝台下は、一か八かでもぐろうと試みて失敗に終わりましたし、どうすればいいのでしょうかっ。



 部屋を見回しながら慌てていると、アンナさんがヴェルさんを連れてきたようです。

 マルスさんは、私がもう少しだけ放っておいてくれと言っていたとヴェルさんに伝えてくれていますが、ヴェルさんはそれを聞いてくれそうもありません。

 私の名前を呼びながら、扉を叩いています。

 前にはヴェルさん。後ろには窓。まさに、前門の虎後門の狼ですね。どちらを選んでも怖い事が待っています。



「……どうしましょう」



 

 私は目を閉じて覚悟を決めると、寝台にかけられていた埃で汚れている大きな布を取り、窓にかけられているカーテンをはぎ取りました。

 そして、幾つもの節が出来るように縛ると、寝台の脚に縛りつけて、残った部分を窓から垂れ下げました。簡易はしごのでき上がりです。

 少し長さが足りませんが、この位ならばなんて事はありません。二階から飛び降りるよりも遥かにマシです。

 付けていたエプロンを腕と手に巻きつけて摩擦で火傷をしないように手を保護すると、私は簡易はしごをグッと握りしめると窓枠に足を掛けて一歩を踏み出しました。

 




******




 見事に二階からの脱出に成功しました!

 普通のはしごとは違い、滑るしクルクル回るしでかなり怖かったですが、最後の着地で足を捻った以外は成功です。昔読んだ本の知識が役立ちました。高い塔から逃げたかった女の子は、自らの長い髪をはしごにして逃げたといお話でした。うろ覚えだったのですが、それを応用して何とか成功です! 

 右足がジンジンと痛みますが、こんな場所で止まっているわけにはいきませんね。逃走再開です!

 部屋の扉を開けてバリケードを壊した後に、直ぐに、窓に垂れさがっている簡易はしごに気付くでしょう。再び追いかけられるまでそこまで時間はなさそうです。

 


「……どこに逃げたらいいのでしょうか」

 

 


 





 

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