亭主様は、常にプラス志向です。2
今回も読んでいただいて、感謝です!
リウヴェルのターン後半戦(?)です(>_<)
今の心境を簡潔に言おう。
――― あ、り、え、な、いっ!!
……あり得ないとしか言えないだろう。
名前を名乗り忘れた挙句、プロポーズをするなんてあり得ない。
あまりに恥ずかしすぎて、涙が出てきそうだ。
俺の一生の恥になるに間違いない。
……だが、過ぎてしまった事はしょうがない。
とても恥ずかしいが、同時に理解した事がある。
彼女は一度も、俺の名前を呼んでくれた事が無いのだ。
食堂で彼女を口説いていた筋肉ダルマの名前は呼ぶのに、どうして俺の名は呼ばないのだろうと思っていた。
だが、謎が解けた。
知らなかったから呼べなかったのだ。
もう少し早くにその事に気づいていれば、彼女にこんなバツの悪そうな顔をさせる事は無かった。
もう少し早くにその事に気づいていれば、彼女の口から俺の名を呼んでもらえていたのに。
……ああ、勿体ない事をした。
俺はマルスに頭を玩ばれながら、先ほどから筋肉親父直伝のジュースがどうのと言って百面相している彼女に、これからの未来、俺の名前を呼んでもらえる期待をこめて、自分の名を音にした。
「……………リウヴェル。 リウヴェル=ホルスタインです」
俺の名を聞いた彼女は、何やら乳牛とか言いながら、ブツブツ言い始め、最後には何だか納得した様子でこちらを向き、俺を虜にしたその笑顔と手を俺に向けた。
「私はココットですっ! 」
その手に魅せられ、吸い寄せられた俺は、彼女の手の平に口づけた。
親愛や敬愛の挨拶は、手の甲にする。
しかし、
―――どうか、これから一生、俺にその笑顔を向けていてくれ。
懇願に近い想いで、彼女の手の平に己の唇を落とした。
手の平から視線を彼女の顔へと移すと、何故かとても赤くなって、俺の手が触れていない方の手で胸元を押さえている。
彼女の愛らしい双眸が驚きに見開き、俺だけを見ている事に喜びを隠せない。
俺は、口から飛び出てきそうな程高鳴っている心臓を感じながらも、平静を装いながら、彼女の口から紡がれる声を聞きたくて、慌てて口を開いた。
何を話したのか、正直なところ微かにしか覚えていない。
彼女との会話を覚えていないのは勿体ないとは思う。
だが、仕方がないと思う。
口は勝手に動いていたが、俺の心は彼女しか見ていなかったのだから。
彼女の視線、紅潮する頬。
呼吸を繰り返している、上下する胸元……。
これから毎朝毎昼毎晩彼女を見る事ができて、且つ話す事や触れる事が出来るなんて、夢みたいだ。
彼女に見惚れ、これからの未来に夢を馳せていると、彼女の高すぎず低すぎない声音が
俺の名を呼んだ。
「リウヴェルさん」と!
初めて彼女が俺の名前を……っ!!
感動しすぎて、涙が出そうだっ!!
さっきから強く鼓動を刻み続ける心臓が、本気で口から出てきそうだっ!!!
―――ああっ、早く家に帰って彼女ともっとたくさん触れあいたいっ!
―――早く家に帰らなければっ!!
俺は彼女をエスコートしつつ、男心からその腰の細さを堪能し、何か言いたげの彼女を言いくるめながら家路を急いだ。
****
家に入った俺たちに待っていたのは、強烈なクラッカー音だった―――。
彼女と二人になりたかったが為に、『本日休業』の看板を表に出しておいた筈だったが、店内に居たのはこの店の従業員達。
―――クソッ! 何でいるんだ!? 彼女と二人になれないじゃないか!
若干苛立つ心を消したのは、小さな悲鳴を上げながら俺の身体に巻きつく、彼女の腕だった。
まさか抱きついてもらえるなど思ってもいなかった俺は、狂喜のあまり再び魂が天へ逝きそうになった。
……こんな幸せの絶頂で天になど逝けるかと、慌てて戻ってきたが……。
気付けば俺の前でマルスが大笑いを繰り広げ、彼女と親しげに話していた。
彼女の顔を見るだけで満足していた俺は、未だに彼女と親しげに話した事が無い。
それなのに、マルスだけが親しげに話し、彼女の熱い視線を受けている。
なぜかマルスを凝視している。
―――俺でも、未だに凝視してもらった事が無いのに……。
羨ましすぎて、マルスを見る視線がきつくなる。
俺の視線に気づいたマルスは、彼女に余計な事を言い、それを聞いた彼女は俺の身体に触れていた腕を離した。
彼女が離れた為に、俺の身体に冷気が纏う。
俺のココット嬢の視線を一人占めした挙句、俺に与えられた彼女の温もりを俺から奪ったなど言語道断だ。
師匠であろうと容赦はしない。
どんなバツを与えようか……?
山で熊を100頭倒せ………。温いな。
海へ行って巨大哺乳類を50頭……。これも、温いか……?
そう考えていた俺に、彼女の声が聞こえてきた。
「ごっ、ごめんなさいっ!! ……亭主様を別の方に間違えた挙句に、ずっとしがみ付いたままでっ!! ご迷惑でしたよね? 」
『亭主様』という言葉が若干気になったが、それは『うさぎ亭』の『店主』で『亭主』と言う事で納得した。
まあそんなことはどうでもいいが、俺は彼女が誤解している事に少し戸惑った。
大丈夫だ、と彼女の頭を撫でる。
ご迷惑なものか。
むしろもっと―――。
俺の若干おしゃべりな口は、勝手に俺の心情を暴露してしまったようだ。
彼女が驚いた顔で俺の顔を見た。
俺の顔を見た彼女は、何故か真っ赤になり、―――その表情が、なぜかひどく官能を誘う。
蝶が花の蜜に引き寄せられるように、彼女の手の平にキスをした時の様に、俺の顔が彼女に向かう。
驚きに満ちた彼女の瞳を視界に収めながら、ゆっくりと彼女の顔に近づく。
俺の視界の端に、店の従業員達が居るようだが……
―――― そんなのは、関係ない。
ご覧いただき、ありがとうございました☆
今回の後書きは、少し変えて私が書きたかったけど、あえて入れなかった部分を……(*^_^*)
くだらない内容ですがっ(-_-;)
****
『リウヴェルVS筋肉親父(ココットの父)』
今日もあの軟弱野郎が、ココット目当てに来てやがる。
ここん所毎日あの大皿料理を平らげるようになりやがったし、そろそろ何か言って来るか……?
そう考えている俺の元に、あの軟弱野郎が紙切れを持って俺の前に立った。
「筋肉親―――、いや、筋肉が素晴らしい親父店主さん。 ココット嬢と結婚させてください」
俺はその言葉に目を剥いた。
同時に、その紙切れを見て卒倒しそうになった。
その紙切れは……
―――『結婚宣誓書』だった。
俺の大切に育て上げた愛娘を、見てくれだけは良い軟弱野郎にやれるかぁっ!!
その言葉を言おうと口を開きかけた俺の目に、愛娘のサインを見つけた。
しかも婚姻の承諾の欄に……。
俺の視力は良い。
500メートル先の蟻んこの数を数えれる程だ。
だが、コレは俺の見間違いだと思いたい。
だが、コレが俺の見間違いとすると、愛娘直筆の署名を見分けれなかったバカ親父になり下がる……。
ぐぬぅぅぅっ!!!
この軟弱野郎がっ!
どんな手を使って俺のココットを落としやがったぁ~~!
―――つうか、いつの間にそんな結婚する仲になったんでぃ?!
だが仕方がない。
ココットがこの軟弱野郎がいいと言うなら認めようじゃないか。
ココットには俺の様に頑丈な漢をっ! と思っていただけに残念だ……。
ココットを熱心に口説いていたジョニーには悪いが、俺も男だ、グダグダ言わんっ!!
口では強い事を言っていた俺だが、親の承諾サインをする時に泣いたのは、秘密だ。