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亭主様と恋の種  作者: まるあ
第三章 百花繚乱、花の嵐は尽きることなく
36/58

波乱の波が襲ってきましたっ。

第三章開始しましたヽ(^o^)丿

多分、最終章になると思われます。


苦笑いと溺愛と勘違いは標準装備です(笑)


7/18 脱字訂正。


感想等あれば気軽にどうぞっ☆

 『うさぎ亭』亭主のリウヴェルさんと結婚して、季節が夏真っ盛りになった熱い日の午後。

 実家のお店をお手伝いしに行こうとした時です。

 店舗の扉を開いて顔を出した私に、声がかかりました。


「よぉ! ココットちゃん! 亭主さんいるかい?」


 何やら配達員の格好をしたジョニーさんが店前にいました。

 ジョニーさんは可愛らしい小花柄の封筒を手に、亭主様―――ヴェルさんを探している模様です。


「ジョニーさん、お久しぶりです! 最近お店に来ないなと思っていたら、配達員さんになっていたんですね。お疲れ様です! あ、ヴェルさんなら直ぐに出てくると思いますよ?」

「おう! じゃあ、俺も待つわ。最近、忙しくてココットちゃんの顔が見れなくて寂しかったしよぉ」

「私もジョニーさんの顔が見れなくて寂しかったですよ。うふふっ!」



 口元に手を当てて笑った瞬間、私の背後で冊子がばさりと落ちる様な音がしました。

 怪訝に思って振り向くと、そこには真っ青な顔をしたヴェルさんが遠い目をして立っていました。

 ヴェルさんは整った口元を歪ませて、私とジョニーさんを交互に見ると何やらぶつぶつ言っています。


「ジョニーが寂しくてココットも寂しい……。俺はお邪魔虫なのか? いやいや、そんなはずは。ココットは俺の妻で、でもジョニーと会えなくて寂しくて……。つまり……浮気? ―――不倫っ!?」


 目の前に爆弾でも降ってきたような青い顔をして、爆弾発言を落とすヴェルさん。

 ……いえいえ、違いますからねっ!

 完全に誤解ですから! 

 

「不倫なんてとんでもない! 私には、その……ヴェルさんだけですから」

「そうだね、うん。わかってる」


 ヴェルさんを浮上させるべく発した私の言葉は、効力があったようです。

 彼は頬を紅潮させると、一つ咳払いをしていつもの落ち着きを取り戻しました。落とした冊子を拾うと、何故か私の腰に手を当てて引き寄せて額にキスを一つ落とし、ジョニーさんに意地悪な笑みを見せました。


「―――独身には目の毒かな? 悪いね。……それで、用件は何かな?」

「……バカップルやってんじゃねぇよ。羨ましすぎるだろうが! ―――ほら、アンタに手紙だサインくれ!」


 ヴェルさんは手紙を受け取り、送り主の名前を見るや否や、柳眉を顰めてそれをジョニーさんに突き返しました。

 

「要らない。返すついでに、もう送ってこないように伝えてくれ」

「―――はぁっ?! アンタこの前も受けとり拒否しただろうが。依頼主がすげぇ怒ってたぜ?」

「……そうだろうね。とりあえず、受けとらないから持って帰ってくれるかい?」


 ヴェルさんは否を言わせない黒い笑顔で、ジョニーさんを閉口させました。 

 顔は女神様の如き妖艶な笑顔なのに、翡翠の瞳は飢えた肉食獣の様な獰猛な輝きを放っています。

 対面するジョニーさんは恐怖で凍りつき、動けないのでしょうか。口を金魚の様にぱくぱくとしています。横にいる私も足元が凍りつき、背筋が冷えてきた感じがします。熱い季節なのに、足元と背筋が涼しいです。

 ヴェルさんは、ジョニーさんが物言わないのを肯定と捉えたようです。未だに金魚状態の彼にむかい「よろしく」と呟くと、私の手を引いて、実家の食堂へと向かいます。


 食堂に着くまでの道程は、普段とは違って重々しい雰囲気でした。

 いつもならゆっくりと歩く道も、今日は何かに追われるように早歩きです。

 立ち並ぶ商店の品物を見ながら歩くその道も、今日は無言で通り過ぎました。


 ……そんなにあの手紙が嫌だったのでしょうか?

 ここまでヴェルさんが不機嫌だと思えるのは、初めてかもしれません。


 


 結局、ヴェルさんは私の実家のお手伝いを終えても不機嫌なままでした。

 いえ、不機嫌と言うよりも、何かを考えていて心がここに在らずと言った呈でしょうか。

 それは『うさぎ亭』へ帰り着いても変わらずで、ヴェルさんをそんな状態にするほどの手紙とはどんなものなのか気になってしょうがないです。

 夜食もとり、後は寝るだけの時間となったのですが、ヴェルさんは本を読んでいるふりをして何かを考えている様子です。

 ソファーに座りながら、俯き加減に机に肘を付いて規則的に頁はめくっているのですが、本が反対なので、読んでいないのは一目瞭然なのです。

 見えてないと思っているようですが、向かいに座る私からはばっちりと見えています。


 ヴェルさん自身で手紙の受け取りを拒否をしたのに、その内容が気になるというのがひしひしと伝わってきます。

 気になり過ぎて私とヴェルさんの両者が安眠できないといけないので、思い切って聞いてみる事にしました。


「ヴェルさん、あの手紙ですが、明日あたりにジョニーさんから頂いてきましょうか? 随分と気になっているようですし」



 私も気になりますし、という欲望と言う名の心の声は飲みこんで聞いてみたのですが、ヴェルさんはこちらに視線を移すと、緩慢に首を振るだけで否を伝えてきました。

 いつもなら言葉のひとつふたつあるのに、無言で……。

 …………。

 ………………。

 ……益々気になるじゃないですか!


 私の心の声が聞こえたのか、ヴェルさんはバツが悪そうに本を閉じて、向かいに座る私をじぃっと見た後に深く長い溜息を吐きました。


 ……えっ?

 なぜか溜息を吐かれてしまいました。

 


「……寝ようか」


 ソファを立ちあがったヴェルさんは、いつもの彼に戻っていました。

 ニコニコと優しい微笑みを浮かべる、いつもの柔らかな雰囲気のヴェルさんでしたが、一切の追及はされたくないといった雰囲気もひしひしと伝わってきます。

 

「……はい。そうですね」



 寝台に入っても、ヴェルさんの態度と手紙の関係が気になり過ぎて、あまり眠れた感じがしませんでした。

 ヴェルさんもそうだったのでしょう。隣で横になる彼が、何度も溜息を吐いているのを耳にしましたから。


 


 翌朝早く、寝室の扉が叩かれました。

 それは通常時のコンコンと響く静かな音ではなく、巨大動物が体当たりをしている様な激しい音でした。

 破壊されそうな音と、聴きなれたマルスさんの咆哮のような大音声が夜具に包まる私たちの耳に響き、二人揃って飛び起きてしまったのは言うまでも無いでしょう。


「な、何でしょうかっ!! 熊でも現れたんでしょうか?! マルスさんが戦っているのでしょうかっ??」

「―――いや、こんな街中でそれはないよ」


 慌てて寝ぼけた頭で変な事を口走った私とは対照的に、落ち着いて熊説を否定するヴェルさん。

 彼は緩慢な動作で寝台を降りると、寝癖がついた頭そのままで部屋の鍵を開けました。


「やっと起きやがったかっ! とんでもない客がお前を訪ねてきてる、早く来い!!」

「―――は? 客?」


 鍵を開けると同時に、マルスさんは勢いよく扉を開け放ち、呆けるヴェルさんの胸倉を掴むように行ってしまいました。 

 残された私は訳が解らず、着替えを手早く済ませるとヴェルさんの後を追いました。




 ヴェルさんを見つけたのは、お店の玄関付近のテーブルでした。

 仁王立ちしたマルスさんがヴェルさんの背後に付き、美女と野獣のような一枚の絵画のようです。

 野獣(マルスさん)に睨まれて困りきった表情が、なんともいえない雰囲気を醸し出しています。


 ……あれ?

 でもですね、お客様の姿が見えません。

 ……透明人間?


 そんな馬鹿なと思い、テーブルに走り寄ると、お客様の正体がわかりました。

 

 ―――お客様は、小さな男の子だったのです。

 歳は三つくらいで、うさぎの可愛いぬいぐるみを抱いています。

 その表情は強張りながら陰りを見せており、輝く金の髪と同色の睫毛は長く時折揺れ動いて、翡翠のつぶらな瞳は不安げに揺れていました。

 まるでその不安を誤魔化すように、うさぎを力強く抱きしめています。

 その男の子は、金の髪がふわふわの綿菓子みたいで、癖のある髪は白い白磁の様な肌によく映えて、顔に収まるパーツは神の采配ともとれる配置で、悶えたくなる程に可愛らしいです。天使の様です。

 きっと笑顔が似合う子です。成長すれば、ヴェルさんの様な優しく微笑む綺麗な男性に―――……。


 ……ヴェルさんの様な?

 そこで、アレ? と気付きました。

 

「ヴェルさんとそっくりじゃないですか……? それに、その封筒は……」


 ヴェルさんそっくりな男の子のうさぎの服に、先日ジョニーさんが配達してくれた小花柄の封筒が顔をのぞかせていました。

 


 

 

 


 



 

 


 


 








 

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