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亭主様と恋の種  作者: まるあ
間章 花の蜜はとても甘く
31/58

太陽が見ていますから!

二章のラストを投稿してから、お気に入りがたくさん増えて驚いています(@_@;)

同時に、こちらは暫く更新停止で申し訳ないとの思いもあります(>_<)

なので三章で書こうと思っていた内容を、ちょっとばかし入れて更新です。


ようやく春が来た亭主様。頭に花が咲き乱れて暴走中です(笑)

三章も始終こんな感じになるかと思います^_^;

 とある日の午後、まったりとした時間をヴェルさんと二人、読書をして過ごしていました。

 読んでいたのは騎士と姫の恋愛物語。今、巷の女の子達に大人気の『プリンセスナイト』略して『プリナイ』です。

 王道展開で進むこのお話。他国に嫁ぐ事が決まったお姫様に恋をした騎士が「命を掛けて貴方を守ります」と姫の手にキスをし、忠誠を誓った部分。その部分を呼んでいる時に、隣から覗きこんでいたらしいヴェルさんに声を掛けられました。



「その本、この間も読んでいなかった? 同じのばかり読んで飽きない?」

「飽きるだなんてとんでもない! この本は乙女のバイブルなのです。騎士が叶わない恋に身を焦がす展開! 最後の最後で、騎士が姫の額にキスをする部分なんてもう涙が止まりませんっ!!」

「……へぇ? 額って事は、最後は恋人ではなくて友人になったんだね」

「そうなのです! 旦那様になった王様に恋をした彼女を見て、友人として彼女を見守ろうと……って、よくわかりましたね? あっ、読んだ事があるんですね!」




 ヴェルさんは意味深な笑みを浮かべると、私の額を指さし「額のキスは友情だからね」と私を抱き寄せ本を手から抜き取りました。

 


 わわっ! 

 なんでそんなに色気たっぷりで、妖しく笑ってるのですか?!

 抱き寄せる意味は?!

 



 未だにこう言った行為は慣れないと、そう現すかのように跳ねる鼓動。時折見せる妖しげな表情につられて、私の顔に熱が集まります。

 


「読んだ事は無いけど、キスの意味なら知ってる。―――たとえば」



 ヴェルさんは私を抱き寄せたまま手を取ると、甲に口づけました。

 熱い吐息が甲に掛かり「手の上は尊敬」と優しい低音が耳に響きました。そして頬に手を当てると、その僅か上の瞼に軽く唇を押し当てました。瞼のキスは、ヴェルさんと想いが通じ合った日にされたキスです。ヴェルさんもその事を思い出したのか「瞼は、この事を忘れないでという情景のキス」と優しく翡翠の瞳を細めました。

 ……勿論、あの時の事は忘れるわけがありません。

 私がヴェルさんを好きだと自覚した時ですから!



 瞼に引き続き、まだヴェルさんの『キス講座』が続きそうです。

 瞼に何度か口づけると、私の瞳と合わさる様に顔が下りてきました。先ほどの優しい笑みはそのままに、瞳には甘く熱い色が備わっています。

 ……何かのスイッチが入った様子です。

 口元にヴェルさんの指と吐息がかかり、親指で唇を優しくなぞると同時に妖しい声が耳朶に響きます。瞳を閉じた彼のその仕草から、何をしようとしているのかわかり、条件反射で私も双眸を閉じてしまいました。



「唇は、愛情を―――……」

「……ん」



 囁く言葉の後に、重なる熱い唇。その熱に浮かされて、蕩けそうな自分が居ます。

 何度か口角を変えて交わされる口づけに息が乱れた頃、ヴェルさんは私の唇を解放し再び手を取ると手首に口づけ、次いで掌へとその温かな唇を押しつけました。

 上目遣いで私を見るヴェルさんは、窓から入る光に髪が輝いてとても魅力的です。

 ……私の言葉が出なくなるほどに。

 ……キスの意味など、どうでもよくなるほどに……。

 ヴェルさんの美貌に見惚れていると、掌から離された唇が音を奏でました。



「手首へのキスは、欲望。掌のキスは―――」



 「わかるよね?」と囁かれた後、何故かソファへと押し倒されてしまいました。



 掌のキスは『懇願』。

 何度もヴェルさんがやってくれましたし、その意味を知った日に起きた甘くも激しい行為で、その意味はしっかりとわたしの小さな脳に刻まれています。

 手首のキスである『欲望』と掌の『懇願』。

 その意味するところは―――。

 つまり……。



「~~っ!! ま、ま待ってくださいっ! 昼間からする事ではないです!」

「……そう?」

「そうですっ! 第一、恥ずかしいじゃないですか!!」


 

 ゆっくりと私の身体の線をなぞるヴェルさんの手を制し、近づく顔をもう片方の手で遮り必死の抵抗を試みました。しかし、男性のヴェルさんに力で敵うはずは無く、いとも容易く両腕を頭上で纏め挙げられてしまいました。



「誰も見ていないから、恥ずかしがる事はないよ」

「誰もって……。―――太陽が見ているじゃないですか!」

「苦し紛れの事を言うね……。俺は、日に照らされたココットが見たい」



 まな板の鯉の如く為す術もない私は、熱く甘く重なる柔らかな唇に酔いしれ、窓から洩れ入る日に照らされるヴェルさんの妖艶ともとれる微笑みに、翻弄されたのでした。

 



 


 

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