夫になった青年さんは、亭主様でしたっ!
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ありがとうございます!(^^)!
ヴェルさんの家を見た瞬間、私のたいして可愛くも無い顔が歪んでしまいました。
大きくも小さくも無い口が、ポカンと開いて塞がりません。
…… ゴミ屋敷だった、とかじゃないですよ?
…… 幽霊屋敷だった、でもないです。
…… ここは乙女チックに…貴族の館だった、でもありません。
それじゃあ何だったんだ?と言いたいですよね。
――― お店です……。
ああっ! 言うのをためらった事の弁解をさせてくださいっ!!
実はこのお店、『うさぎ亭』と呼ばれる会員制の高級料理店で、この町では知らない人はいない程の有名店です。
名前は『うさぎ』という小さくて可愛らしい生き物なのに、それなのに……っ!
ここの入会金は我が家の年収五年分だそうで、月会費に当たっては我が家の年収の半年分なんです!
ここに入るお客様は皆さん貴族様ですっ!!
庶民が憧れてやまないお店なんですっ!!!
そう。……「庶民大歓迎!!」の看板を掲げる弱小食堂の我が家とは、対極に当たるお店なんですよっ!!
なぜ私が、このお店のお家の方と結婚なんて、そんな大それた事を承諾してしまったのでしょうか?
お店の看板とにらめっこをしている内に、ヴェルさんが私の荷物を持ってお店の扉を開けてくれました。
どうぞ、と人好きのする頬笑みを浮かべて、手を取って導いてくださいます。
おずおずとお店の扉をくぐった途端、強烈な音が響きました。
バアァーーーンッ!!
「―――っ!! きゃぁっ!!! 」
一瞬、誰かが発砲したのかと思って、思わず手を取ってくださっているヴェルさんにしがみ付いてしまいました。
「おっめでと~っ!!」と聞こえてきた声と、ヒラヒラと無邪気に落ちてくる紙吹雪で、今のはクラッカーだったと納得できましたが……。
とても焦りました。
心臓がバクバク言っています。
隣のヴェルさんを見上げると、なぜかうろたえています。
彼も今のクラッカーで心臓が止まりそうになったクチでしょうか?
心なしか、彼の心臓の音も早い気が……?
ヴェルさんを観察している私の前に、先ほどお会いした筋肉オジサンが来ました。
「よぉっ! さっきの嬢ちゃんも可愛かったが、今の方が見慣れていて良い感じだ!! 」
大きな体格に見合った声量で、大笑いを付け加えるのを忘れない筋肉オジサンの笑い声がこの場に響き渡っています。
そう言えば、このオジサンは家の食堂にヴェルさんと一緒に来てくれている常連さんでした。
素敵筋肉の皆さんの中心に居ましたね。
初めてヴェルさんが我が家の経営する食堂の大皿料理を平らげた時に、派手に喜んでいたのを覚えています!
……もしかしたら、このお店の店主さんでしょうか?
あらっ?
よくよく店内を見渡してみれば、我が家の常連さんばかりじゃないですかっ!!
いつも思いますが、皆さんいい体格をしていますね。
太くて逞しい上腕二頭筋、大胸筋も服越しに盛り上がっているのが見えます。
この町の筋肉チャンピョンである我が家のお父さんに次ぐ素敵筋肉ですっ!!
ああ、いけませんね!
筋肉ばかり見ていては……。
よく判らずに結婚の宣誓をしてしまったとはいえ、今日、参列してもらったお礼すら言っていませんでした。
「あの、店主さん。 今日は参列してくださって、ありがとうございました。 それに、いつも家の食堂に来ていただいて、嬉しいです! あの見事な食べっぷりは見ていて気持ちがいいですっ! 」
感謝の気持ちをこめて頭を下げた後、ニッコリと微笑むのも忘れません。
ですが、何故か店主さんは隣にいたヴェルさんを見た後に、大笑いをしだしました。
――― 私、変な事言ったでしょうか……?
「はっはっはっ! 嬢ちゃんっ! 俺は店主じゃねーぞ? 俺はただの料理人だ。そんで、店主は隣で俺を睨んでるリウヴェルだ」
「―――…え? 」
ヴェルさんが、この高級料理店の店主さんだったんですかっ?!
家では足元にも及ばない有名店『うさぎ亭』のっ?!
いえ、ここまで有名店にしたお方に対して、店主さんじゃ失礼かもしれませんね。
―――『うさぎ亭』の亭の字を取って『亭主様』ですねっ!!
私よりも幾分か背の高いヴェルさんを見上げると、先ほどまでの優しげな表情は消え失せ、冷やかな瞳で目の前の筋肉オジサンを見ていました。
明らかに、怒っていると感じる事のできる表情です。
……もしかして、筋肉オジサンを亭主様と間違えた事に対して、怒ってらっしゃる?
あわわわっ!
私ったら何て事をっ!!
「ご―――っ」
ごめんなさい、と言おうと口を開きかけた時、ふと気付きました。
まだ、リウヴェルさんにしがみ付いたままだったと……。
……もしかしてヴェルさんは、いつまでも私がしがみついて離れないから怒ってらっしゃる?
――― 亭主様を別の方に間違えた挙句、いつまでもしがみ付いているのに怒っているに違いありませんっ!!
すぐさまヴェルさんの腕に巻きついていた自分の身体を離し、一歩距離を置きました。距離を置くと同時に、口を開き、頭を下げました。
「ごっ、ごめんなさいっ!! ……亭主様を別の方に間違えた挙句に、ずっとしがみ付いたままでっ!! ご迷惑でしたよね? 」
「……亭主様……? ―――…ああ」
下げる頭の上に、大きな手が撫でるように優しく触れました。
ヴェルさんが動いた気配がしたので、この手は彼で間違いないでしょう。
その事を肯定するように、ヴェルさんの声が優しく耳に響きました。
「いえ、迷惑なんて……、むしろ離れないで欲しかったかな」
「―――えっ? 」
私が思っていた言葉とは違う言葉がかかった事に驚き、慌ててヴェルさんを見上げると、また優しげな表情に戻っていました。
なぜか、赤い顔をしながら瞳を甘く潤ませて。
どうしましょう。
なんだか、動悸がしてきました……。
「……ただ、ココット嬢が他の男の身体ばかり見ているから……。ちょっと……」
え?!
身体なんて見てませんよ??
ただ、皆さん立派な筋肉だと思って観察を……。
あのあのっ!!
そんな潤んだ瞳で見つめないでくださいっ!!
―――ちょっ!
何だか顔が近付いて来ていませんか?
皆さん、何故か口笛を吹いていますけれど、どうしてですかっ?!
筋肉オジサン、そっと離れて行くのは、なぜっ?!!
最後までご覧いただき、ありがとうございました☆
さて、前回予告しました、リウヴェルの名前の由来について……。
作中に出てきた会員制高級料理店の名前を覚えておいででしょうか?
―――『うさぎ亭』でしたね。
実はリウヴェルは、「野うさぎ」をフランス語にして聴き間違いをしたものだったのです(ー_ー)!!
フランス語 で『野うさぎ』は、リエーヴル lièvre ←リウヴェルと聴こえたんですっ(>_<)
引っ張った挙句にこんな、しょうもない由来で申し訳ないですっ(~_~;)
さてさて、次回はリウヴェル目線のお話にしますね!
所々にある彼の行動の不思議(?)を書いていこうと思います☆
また次回も読んでいただけると嬉しいです(^v^)