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亭主様と恋の種  作者: まるあ
第二章 種を育てた末に
23/58

勝利の女神がほほ笑むのは、どっち?!

 私の目の前でこの世最強と言われているお酒『スパルック』が並々と注がれている杯が、次々と開けられていきます。

 コレで六杯目である新しい杯を持ち、ジョニーさんとヴェルさんが不敵な笑みを浮かべています。



「お前なかなかやるじゃねぇか! けどよ、顔が真っ赤だぜ? リタイアしたらどうだ? 」

「そっちこそ顔が真っ赤な上に目が真っ赤だぞ? 杯を持つ手も震えている。限界なんじゃないか?」



 ふん、と口端を上げた後、両者同時に杯を煽ります。

 ヴェルさんは涼しげな顔をしていますがお酒のせいでしょうか、色気が五割増しされている感じがします。

 対するジョニーさんは、作り笑いを浮かべてはいるものの全身真っ赤です。真っ赤な目は眼光鋭くヴェルさんを見据えています。見ているこちらにもその闘志が伝わってきます。……ですが変な汗も出ている様子ですし、そろそろ止めた方がいい気がします。



「ジョニーさん、ヴェ……リウヴェルさん、そろそろお開きにしませんか? 倒れてもいけませんし」



 先ほどヴェルさんに魅了されて抜けてしまった腰が動くのを確認し、ジョニーさんの胃の中のアルコールを薄めるべく、お水を差しだしました。

 ジョニーさんは一気に水を煽ると、表情を曇らせて再び杯に手を伸ばしました。


 

「お開きだぁ? 冗談じゃねぇ。何年も想い続けて……いきなり現れたコイツにココットちゃんを奪われた俺の気持ちは、こんなんじゃおさまらねぇ。ぶっ倒れようが、きちんとケリを付けてえんだ」

「そうだな。彼女を想っている男が居るのを知ってて、いきなり結婚をしたのはフェアじゃ無かった。……けどな、俺はいきなり現れたわけじゃない。何年も前から彼女の事を見てきた。」

「―――え? 」



 初耳です。

 何年も前から想っていてくださったなんて。

 嬉しさと気恥ずかしさで、自然と頬が緩んでしまいます。

 ふ、とヴェルさんを見ると彼は甘い瞳で私を見ていて、今の言葉はジョニーさんに言ったと見せかけて、私に向かって言ったのではと錯覚してしまいそうです。



 でも、同時にジョニーさんに申し訳ないと思う気持ちも湧きあがってきます。

 ……ジョニーさんが私の事を長い間想っていてくださったとは気付かなかったのです。気さくな常連さんとしか認識していませんでした。



 私の心が浮上と降下を繰り返している最中も、戦いは続いていたようです。

 先ほどよりも杯の数が増えて、ジョニーさんはフラフラとしています。ヴェルさんも目が真っ赤になってきました。

 



「……負けねぇ……。俺だって年季が入った想いなんだ」

「俺は年季だけじゃない。人生と内臓を変えた想いだ。彼女の隣に立つのに相応しくなるよう、俺はそれまでの自分を見つめなおした」

「……俺だって……」



 口は何かを言おうとモゴモゴしていましたが、それを打ち消すように持っていた杯を喉を鳴らして飲み干し、空になった杯を机に打ちつけるように置きました。ヴェルさんも次いで飲み干し、新しい杯を手に取りました。

 二人とも視線を絡ませ、お互いに外そうとしません。



「……もしも、今の状況が逆だったら俺はきっとここまで食い下がれない。臆病だからね、俺は。だから彼女が誰かを選ぶ前に、結婚を急いだんだ。……負けるのかが判っても引き下がらない、お前のその根性は凄いと思うよ」

「―――なんだよそれ……。そんな考えなら、とっとと別れやがれっ! 」

「断る」



 グイッと持った杯を飲み干したヴェルさんは、私に視線を移すと神様をも魅了出来そうな妖艶な頬笑みを浮かべました。



「昨夜、いつか俺と同じ想いをくれるって言ってくれたしね。それに俺は宇宙よりも大きい愛で、彼女の事を想ってるから」

「―――っ!! 」




 どうしたらいいのでしょう。

 昨夜言った些細なひと言だったのに、そんな事を覚えてくれているなんて。

 ……凄く、凄く嬉しいです。

 若干クラクラしてきたのは、お酒で色気パワー全開で微笑むヴェルさんに魅了されたからなのか、先ほど言われた言葉が嬉しいからなのか、どちらなのでしょうか……?


 


 杯を開けたヴェルさんに対抗して、朦朧となりながらも次の杯を持とうとしたジョニーさんの手を、突然現れた大きな手が制しました。

 ”決着はついた” と、その視線は頭を振りながらジョニーさんに伝えています。



「親父さん……」

「……悪いなジョニー。俺も顔だけの軟弱野郎は認めたくはねぇが、ココットはこの野郎が良いらしい。さっきから軟弱野郎の顔を見てニタニタクネクネして気持ち悪いくれぇだ」

 


 二ッ、ニタニタッ?!

 そんなに口が緩んでたでしょうか……?

 確かにヴェルさんの言葉は嬉しかったですが……まあ、大きな声では言えませんが、あまりの色気に身悶えたのは確かです。

 そんなズバッと言われるほど、クネクネしていたのでしょうかっ?!

 



「お、お父さんっ! 一言余計だと思う!! 」

「あんっ? いいじゃねぇか、本当の事だろうが」



 花も恥じらう乙女に対して、衆人環視の中ニタニタクネクネだなんて!

 皆さん、大笑いしてるじゃないですか!!

 あっ!! ジョニーさんまで大笑いするなんて、酷いじゃないですかッ!


「ココットちゃん、騒がせて悪かったな。耳元についてる痕を見たら……つい。今回は(・・・)俺の負けでいい。けどな」

 痕とは……? 何かは判りませんが、ジョニーさんは私に向かって些か舌が回っていない口で謝罪した後、目の前に座るヴェルさんに向かって人差し指を突き出しました。

「彼女を泣かせたらタダじゃおかねぇ! もしも浮気でもしてみろ、次の日にはお前に重りを付けて海に沈めてやるからなぁ! 」



 酔いすぎて目がすわり舌ったらずな口調でしたが、一瞬ヴェルさんが霞んで見える程、とても格好よく見えました。

 相対するヴェルさんは勝利したにも関わらず、先ほどの神様を魅了できる笑みを投げ捨てたのか不機嫌になっていました。




「するわけないだろう。……ジョニー、だったな。お前こそ、人の嫁に色目を使うなよ? 」

「はんっ! 色目使ったぐれぇでココットちゃんが俺に乗り換えてくれるなら、いくらでも使ってやらぁ!! 」



 椅子に深く座るヴぇるさんと、よろけながらも立ちあがったジョニーさんの間に、再び熱い火花が散っています……。

 しかし、向かい合う二人の顔は、雨上がりに見る太陽の様に眩しい笑顔でした。

 顔は笑ってるのに、目からは火花なんてどういった状況なんでしょうか?

 ……でも、笑っていると言う事は、いつの間にか仲直りをしたのですかっ?

 



 帰り支度をしたジョニーさんが机に背を向けた瞬間、ヴェルさんがそれまで和んでいた空気を一掃して、神妙に口を開きました。

 


「―――俺は謝らないからな? ……だが、勝負ならお前の気が済むまで受けて立つつもりだ」 



 ヴェルさんの言葉に返事は無く、振り返る事も無く、ジョニーさんは背中に哀愁を漂わせて、ひらりと手を振って店を出ていきました。 







 



 

 




ご覧いただき、ありがとうございます! そして更新が遅くなり、申し訳ありません。

実は……亭主様の性格で迷走していまして、イメージを固める為にずっとイラストを描いてました(-_-;


へたっぴですが、みてみんさんにて亭主様一点のみ公開中です(*^_^*)

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