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亭主様と恋の種  作者: まるあ
第一章 種は勘違いの末に
13/58

勘違いは恐ろしいですっ。 2

 ソファの上で絡み合う男女の影。

 女は身を捩り、男の腕から抜け出そうと試みる。

 男はそれを許さないとばかりに、女を抱きしめる腕に力を込める。

 男は逃れようとする女に睦言を紡ぎ、女はそれを聞き頬を染め上げた。



 ……今の私の状況を、客観的に説明してみました。

 自分で説明しておいてなんですが、官能小説みたいですね。

 


 今現在、私はヴェルさんの上に上半身だけ乗り上げています。

 私の顔はヴェルさんの胸の上にあり、ヴェルさんの顔は私の頭の横と言った感じでしょうか。

 ヴェルさんの吐息が、私の耳にかかり、少しくすぐったいです。

 耳元で、私の好きな程良いテノールの声で愛を囁かれたら、私も女の子ですから少しクラっときてしまいます。



 美形の類に、耳元で美声を使い愛を囁かれたら、どんな女の子でも落ちてしまうんじゃないでしょうか?

 ―――しかしですね。

 私は、少しクラっと来ただけです。

 ……めったに聞く事のない告白に嬉しくて、少しクラっときてしまいました。

 ですが、頭の中身の大半は疑問符が占めています……。



 「……不倫」

 

 

 なぜ私が不倫をしている事になっているのでしょうか?

 その相手は誰なんでしょうかっ??

 お酒を飲んだ時に、ヴェルさんにあんな事やこんな事をしただけじゃなく、不倫まで経験しちゃってたんでしょうかっ???

 私ったら、なんて最低最悪な悪女なんでしょう……っ!



 「……ごめんなさい。 もう(飲み比べなんて)しません……」


 私、ココットは今心の中で高らかに宣言いたしますっ! 『禁酒』する事をっ!!


 

 私の決意を聞いていたかのようなタイミングで、ヴェルさんが私の身体に回していた腕を緩めてくれました。

 片腕は未だに私を包みこんでいますが、もう片方の手は、私の頭をポンポンと軽く撫でてくれています。程良い力加減で、心地良いです。

 心なしか、空気も和んできました。

 

 

 「……そうだね。何度も繰り返されると、俺もさすがに堪えるから。 ―――で? 相手は誰かな? 」



 さっき和んだばかりの空気が今、空気が音を立てて一瞬凍りついた気が……?

 ヴェルさんの声も、一オクターブ程低くなったような……。


 何だか怒っていませんか?

 そうですよね。さすがに不倫をされれば、怒るのは道理です。


 ああでも、頭はずっと撫でてくれているのですね。

 普通はもっと怒り狂って、私の顔なんて見たくないと言う筈なのに、ヴェルさんは優しく抱きしめながらも私の頭を撫でてくれています。



 とても心が広く、優しいヴェルさん。

 私が判る事なら全部話したい。しかしですね。覚えていないんです。

 普通は覚えているものではないでしょうか? 

 というか、いつの間にヴェルさんや誰かさんと男女の関係になったのでしょうか?

 そもそもそこから判らないのですから、誰と不倫したかなんて判る筈有りません。


 

 私はヴェルさんの身体に回した腕が緩んだのをいい事に、腕を立て彼の顔を覗きこみ、口を開きました。


 「……全く覚えていないんです。 酩酊していたとはいえ、ヴェ……リウヴェルさんを襲って結婚するほどの仲になっていた事も、誰かと不倫していた事も。 ―――本当に、ごめんなさいっ!! 」


 

 彼の瞳が驚愕からか見開き、私を見つめる翡翠の瞳が揺れています。

 頭を優しく撫でてくれていた手が止まり、私の身体を包んでくれていた腕の温かな重みが離れていくのを感じました。

 ヴェルさんの温もりが消えていくのを物悲しく感じながら、私は立ち上がり、彼から少し離れる事にしました。

 しかし、ヴェルさんは離れる私を繋ぎとめるかの様に私の手をとると、横になっていた体勢からソファに座り直しました。

 ソファに座るヴェルさんは、私の手を掴んでいない方の手を額に当てながら俯いています。

 ……挙式の時にも、何かを考えている時にとっていた仕草です。



 「―――酩酊状態の君が、俺を襲って結婚する仲になった……? 」



 ヴェルさんの、酷く動揺している声が室内に響きました。

 自分に問いかける様で、私にも問いかけている様に……。

 声の余韻が消える頃、座っている彼が額に当てていた手を下し、『何の事かさっぱり解らない』といった表情を浮かべ、私を見上げました。

 


 「俺は、君の誕生日に告白をして、その一週間後位に『結婚誓約書』にサインをして貰ったんだけど。 ……酔ってる風には見えなかったし、それに、君が俺を襲ったって? それこそ俺に覚えが無い事態なんだけど……」

 「―――ぅええっ?? 」


 

 困惑気味のヴェルさんの視線に、私も訳が判らなくなりました。



 ―――『誕生日に告白』って……。

 いやいや、私こそ身に覚えがありませんがっ?!

 誕生日は、普通に仕事をしていましたよ?

 もちろん、お酒なんて飲みながら仕事はしません。



 誕生日にこんな素敵な男性から告白されれば、かなり印象に残るはずです! それに、人生初の告白ですから、脳みそに皺が刻まれていてもおかしくない出来事ですっ!!

 『結婚誓約書』に関しても、そんな重大な書類にサインしたのに覚えていないなんてっ!!



 ……「私って悪女かも?」ではなく、「私って頭がどうかしちゃったのかも?」と考えた方がいいのかもしれません。



 悠長にヴェルさんを見下ろしている場合ではないですね。

 今すぐに病院に行って頭を診てもらった方がいい気がしてきました。しかし、ヴェルさんが倒れていた事もあり、今現在は深夜です。病院の診察時間はすでに終わっています。急患として病院を訪ね、医者を叩き起こせば診てもらえるのですが、そんな非常識な事出来ませんっ!



 ……ああ、常識について判断出来る様で安心しました。

 安心感からか、未知なる恐怖からか、涙が出てきました。

 先ほどの様にヴェルさんに涙の雫が落ちない様に、服の袖で拭いながら口を開きます。

 



 「あの。 ……明日、頭を診てもらいに病院に行ってきます」



 私の言葉を聞いたヴェルさんは、何故か苦笑すると、私の腕を離し彼の隣の場所を叩き、その場所に座る様に示しました。

 

 

 「いや、……病院に行く前に俺とココット嬢の微妙にずれてる部分を、話し合う必要があると思う」



 

 ……そうですね。

 ずれてるのかどうかわかりませんが、私が全く覚えていない以上、ヴェルさんにその時の事を教えてもらう必要がありますね。

 病院はその後に再度考える事にしましょう。




 私は力強く頷くと、苦笑を浮かべるヴェルさんの隣に座りました。

 座ると同時に、私の心の中で開始のゴングが高らかに鳴り響きました。





 ―――さあ、話し合いを始めましょう。


 


 

 



 



 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 


 


 

 


 

 

ご覧いただき、ありがとうございますっ!!


ココットの臨戦態勢で終わってしまいました。

もしかしたら、次回は五千文字を超す長さになってしまうかもしれません(^_^;)


 







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