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亭主様と恋の種  作者: まるあ
第一章 種は勘違いの末に
12/58

勘違いは恐ろしいですっ。 1

 ヴェルさんがソファに倒れてから、どの位時間が経ったのでしょうか。



 

 倒れた直後に彼の名前を呼んだら、小さな声でですが「ヴェルと……。」と返事があったので、直ぐに目を覚ますだろうと思い、そのままの体勢にしておいたのですが、―――全く目を覚ます気配がありません。

 

 倒れた直後は少し青ざめていたので心配したのですが、今は『倒れた人』と言うよりも、『寝ている人』な感じがします。

 今までずっと眠っていなかったかのように、起こすのが可哀そうな程、ぐっすりと気持ちよさそうに瞳を閉じています。

 時折揺れる長い睫毛は、彼を男ではなく美しい女性の様に錯覚させ、彼が美形の類に入っていると認識しました。



 ……寝顔が女性よりも綺麗だと思えるのはいかがなものでしょうか。何だか少し悔しい気がします。



 油性塗料で落書きをしたくなる衝動を抑えながら、彼の顔をまともに見たのは今が初めてだと思い、観察を更に続けます。

 

 金に近い髪はサラリとしていて、絹の様です。私の髪は少し癖がついていて、纏めていないと縦横無尽に広がり大変な事になります。雨の日はとても大変です。梳いても梳いても爆発しますから……。


 ……憧れのサラサラストレートを男の人が持っているなんて、羨ましいです。ウィッグにするために伸ばして貰いたいですね。

 きっと、彼の両親は美形でサラサラストレートの髪をお持ちなのでしょう。そうでなくては、女性に錯覚する男性は誕生しないと思います。



 彼の両親の事を考えて、ある事に気付きました。



 今日の挙式には、彼の両親は参列していなかったのです。

 新婦親族席には、大号泣している私の家族が座っていました。良く判らないまま式が終わってしまったのですが、泣いてまで祝福してくれる家族が居る事に嬉しくて、少しだけ涙が出ました。

 しかし、新郎親族席には、誰も座っていなかった気がします。



 もしかしてヴェルさんは『天涯孤独』な方なのでしょうか?

 一人で、この『うさぎ亭』と隣接する家に住んでいるのでしょうか?

 


 何だか母性本能がくすぐられてしまいました。

 「頑張っていますね」と抱きしめたい衝動に駆られた私は、手をヴェルさんに向けて少し躊躇しました。


 ……眠っている男性を抱きしめるなんて、痴女みたいじゃないですかっ!?



 さすがに痴女になりたくない私は、ヴェルさんの頭を撫でる事で、母性本能を抑える事にしました。

 彼の髪は思っていた通り、滑らかな撫で心地です。撫でる事で、彼の表情が少し和らぎ、喜んでいる事が伝わってきました。


 ……撫でたのは、サラサラストレートの髪に触りたかったからじゃないですよ? 彼を称賛したかったのです。



 撫でても一向に目を覚ます気配がない彼を見ていると、少し心配になってきました。

 目を覚ましたくない程に、酷い事を言ってしまったでしょうか?

 ……言った気がします。今日一日で、たくさん彼を傷つけてしまった事でしょう。

 恋人であったであろう彼に対して「どちら様ですか?」から始まり、彼の告白や自分の告白も覚えていなかったんですから。

 お店に毎日来てくれていたのも、きっと恋人である私に会いに来てくれていたのですね。それなのに、私ときたら常連さんとしか認識していなくて……。



 幸せ絶頂の彼を、奈落の底に突き落としてしまった気がします。 ……気がするじゃくて、まさに今、実感しました。

 私が逆の立場だったら、もう一生目を覚ましたくないですね。


 

 いくらお酒に酔っていたからと言っても、忘れてはいけない事もあるはずなのに……。

 ―――稀代の悪女として、世に語り継がれても何も言えません……。



 何だか、申し訳なさ過ぎて涙が出てきました。どれくらい謝罪しても足りませんが、自己満足と言われても謝らせてください。



 「……ごめんなさい。もう、お酒は飲みません……っ! 悪女でごめんなさいっ!! 」


 

 彼の頭を撫でながら泣いた為、彼の頬に涙の雫が一つ落ちてしまいました。

 拭おうと慌てて指を彼の頬に当てた途端、今まで開かれる予兆すらなかった瞳が、いきなり見開かれました。

 ……音が出るとしたら、「カッッ!!」ですね。

 ヴェルさんは、瞳を見開くと同時に、私に手を伸ばし引き寄せました。いきなりの事で体勢を崩した私は、ヴェルさんの上に圧し掛かる様に倒れこみました。


 

 「―――っあ! ごめんなさいっ! 直ぐに退き―――」



 私の言葉を遮るように、ヴェルさんが私をきつく抱きしめ、耳元で囁きました。



 「……酔うと悪女になって不倫をしていたとしても、何でもいい。 俺はココット嬢が好きで、君が傍に居てくれるなら一度位の不倫は、……過ちとして目を瞑るから。それ位俺は君を想っていて、愛しているから」

 「――――――え……? 」



 とても甘い愛の告白をされたのに、何だか腑に落ちないのはなぜでしょうか?

 とても私を想ってくれているのが判る告白だったのですが、素直に喜べないのは、なぜでしょうか? 

 彼の心音が早鐘を打っていて、抱きしめる手が若干震えていることから、真面目に告白をしてくれたのだと伝わってきます。



 

 ―――でも、なんで私が不倫をしている前提なのでしょうかっ??

 

 



 


 

 



 

 

 

 

 

ご覧いただきまして、ありがとうございますっ!


少しづつですが、進展していってホッとしてます^_^;


さて、恒例(?)の小話です。

また本文並みに長くなってしまいました(~_~;)


読んでもいいよって言うお方は是非どうぞっ☆

 



↓↓↓


 

 『亭主様、筋肉親父と約束する。』



 役所で手続きを全て終わり、上機嫌で扉を開けると筋肉親父が真っ赤な顔をしてこちらを見ていた。

 

 ……あの親父は何時も怒ってばかりだな。

 まあいい。俺は機嫌がいい。ココット嬢を俺の妻とする事が出来たからだ。

 ああ、そういえば挙式の予定と、ココット嬢に家に来てもらう日取りを筋肉親父と話し合わなければいけなかったな。



 筋肉親父の方を向き、営業スマイルを表情筋を駆使して作り出し、筋肉親父を呼ぶ事にした。

 「店主」と呼ぼうとして、ふと考える。



 今現在、筋肉親父は俺の義父になった。

 そうすると、「店主」と呼ぶのは間違っているな。

 やっぱりアレの呼び方だな。



 「お義父さん」


 

 呼ばれた筋肉親父は、超神速と言ってもいいほどの早さで俺の前に立ちはだかり、俺の胸倉を掴むと唾が飛んできそうな勢いで叫び出した。

 



 「――――俺はお前の『お義父さん』じゃねぇぇっっ!! 」



 その怒鳴り声は破壊力抜群だったようで、俺の聴力を少しの間奪った。奪ったと言っても、耳鳴りがうるさくて、他の音が聞こえなかっただけだが……。



 まあ、筋肉親父は色々と怒鳴っていたが、最初の口撃で耳鳴りがしていた俺はサラリと聞き流す事が出来た。

 別に聞き流しても問題ない事に間違いない。

 俺は営業スマイルを浮かべ相槌を適当に打ちながら、筋肉親父の声を全力で聞き流した。



 「……そうかっ!! じゃあ、約束だ。 毎日だからな! はっはっはっ!!お前、意外に善い奴じゃねぇかよっ!! 」


 


 俺は聞き流してはいけない言葉を聞き流し、相槌まで打っていたようだ。

 筋肉親父は先ほどとは打って変わって、機嫌が良くなっている。



 ……毎日とは何の事だ?


 ……俺は何を約束したんだ?



 とりあえず当たり障りない事を言って探ってみることにした。


 「……何かを持参した方がいいでしょうか? 」


 筋肉親父は怪訝な顔をして、俺を見ている。

 毎日何をする約束をしたんだ?!


 「あん? 持参って……。普通は、連れてくるっつぅんだろ? 」


 何を連れていけばいいんだ?

 誰をっ?

 主語を言ってくれ!!


 「忘れんじゃねぇぞ!」と言いながら、筋肉親父は用が済んだとばかりに踵を返し、店の方へと歩き出した。


 俺は焦った。 

 何を約束したのか判らないからだ。


 

 「あのっ!!……毎日でないと駄目なのでしょうか? 」


 

 筋肉親父の歩き始めた足が止まると同時に、ゆっくりと振り向く。まるで錆付いたねじを緩める様な動作で……。

 こちらを向いた筋肉親父の顔色は、噴火寸前の火山の様に至るところから蒸気が出てきそうな程、赤い。 

 ……どうやら怒らせてしまったようだ。


 「ぁぁあっ??? お前、ホントに話を聞いてねぇだろっ!!? 」



 ……ここは素直に「聞いてない」と言うべきか?


 いやいや!!!

 そんな事を言ったら、筋肉親父の筋肉腕で首を絞められそうな予感がする……。

 しかしどうやって、しらを切りとおすか……。

 いや、約束したのなら、しらを切ったら不味いだろう……。

 ここは俺が謝って、もう一度言ってくれと伝えるべきだろう。

 

 俺は口を開いて謝罪をしようと覚悟を決めた。


 「お義父さんっ! 」

 「ぁあ? 」


 だが、よく考えてみると俺が筋肉親父の話を聞きそびれた原因は、筋肉親父本人のバカでかい声だ。―――そうすると俺が謝るのは癪に障る。先ほどの決めた覚悟は脆くも数秒で崩れ去った。

 



 早く用件を言えとイラついているのが判るほど、組んだ腕の上で指がせわしなく腕を叩いている。


 ………。

 ………。



 俺は先ほどとは別の意味で覚悟を決めた。覚悟を決めると言うより、作戦を考えたと言った方が正しいかもしれない。

 『筋肉親父を褒めて褒めまくって聞きだそう作戦』と。


 俺がさらっと見た感じ、筋肉親父の褒めれる所はそんなに無い。

 だが、確実に食らいつくツボは調べてある。

 ―――そう…。


 「いやぁ、あまりに立派な筋肉なので、見惚れてて話が耳から耳へと流れてしまったんです! あははっ!! 本当に立派ですよ!! 世界一、いや宇宙一の筋肉ですねぇっ!! 」


 俺が作り笑いを浮かべて、筋肉親父自慢のもりもり筋肉を褒め称えると、筋肉親父は先ほどまで腕を叩いていた手を顎の下に持って行き、自慢げな表情をしだした。



 ……単純、単細胞だな。




 「ぁん? ―――そうか? 見惚れてたのかっ!! はっはっはっ!!! それなら仕方がねぇな!! ……さっき話したのはなぁ、ココットがお前ん家に住んだ後も、毎日家に連れてこいって事だ」

 「は?! 毎日実家に?! 」


 ……てか、毎日あの大皿料理を平らげ続けなければいけないのかっ!?

 彼女を手に入れるまでだと我慢していたが、一生続くのか?!


 ああ、しかし彼女がそれで一生俺の傍にいてくれるのなら……。

 というか、すでに俺の妻になっているが。

 もの凄く、心底嫌だがしょうがない事だな。



 「…………わかりました」

 



 

 

 

 


 


 

 

 







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