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亭主様と恋の種  作者: まるあ
第一章 種は勘違いの末に
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亭主様は、色々考えているようです。 2

亭主様ターン2です!

 今、俺の前では愛するココット嬢が、俺の作った菓子を美味そうに口に入れている。


 俺よりも細く小さい指が、俺が皿に入れた幾つかの菓子を一つまた一つと彼女の赤い唇に運ぶ。

 口腔に菓子が入った途端、彼女は頬を紅潮させながら緩ませ、頬を包むように手を当てている。

 碧色の瞳が細まり、鼻から抜け出る小麦の香りと、素朴ながらも余韻を残す甘みを楽しんでいるのが判る。

 

 ―――気に入ってくれたようだ。



 感嘆した様子で菓子を熱心に見つめるその瞳は、菓子に対して俺に嫉妬心を湧きあがらせる。

 自分で作った物であり、彼女に喜んでもらおうと思って作った菓子だったにも関わらず、だ。

 俺の心はどれだけ狭小なんだか。

 

 彼女が幸せそうに菓子を口に含む仕草に湧きおこる、満足と嫉妬という非なる感情を、腹の中に押し込め、今度一緒に作る事を提案した。

 彼女は満面の笑みで快諾し、先ほど俺の腹の中に押し込めた嫉妬心が、その笑みによって霧散するのを感じた。



 今度の休みはいつだったか?

 絶対にその休みだけは死守しなければ!!

 今度の休日こそは、マルス達全従業員を店内(家)に入れない様に、鍵をかけなければ。

 ……いや、鍵を新調し、更に一つ追加するべきか?

 なんせ、初めての共同作業なんだからなっ!!

 誰にも邪魔されない様に、戸締りは厳重にしなくては……。



 顔では笑顔を作りながら、頭の中では必死に、彼女と二人きりで過ごす休日の計画を練っていた。

 そんな時だ、彼女が頬を染めながらも、真っ直ぐに俺を見ながら口を開いたのは……。



 「あのっ。 ……式場でも聞いたのですが、どうして私と結婚する事になったのでしょうか? 」


 


 ……なぜ、そんな事を聞くのだろう?


 そんなのは、「好きだから」に決まっているじゃないか。

 俺がココット嬢の事を好きだと告白して、彼女も言ってくれたからだ。 ―――「好き」と。 

 彼女が働いている、あの食堂で……。



 俺は、あの感動の瞬間に想いを馳せた。


***



 俺とココット嬢の始まりは、あの日からと言ってもいいだろう。

 ……『筋肉親父からの勝負に初勝利した日』だ。 

 あの日から俺は、彼女と会話をする事を許された。忙しく働き回っている彼女と話せるのは「こんばんは」や「おはよう」だったり、「また来てくださいね」と言った会話が主にだったが。

 だが、彼女の声を聴けるのが嬉しくて、彼女の笑顔を見たくて、毎日通った。

 彼女を見て、彼女とたった一言でも会話したいが為に、毎日毎日、筋肉親父お手製の大皿料理を平らげ続けた。

 誰かに彼女を盗られる前に「好きだ」と伝えたくて、機を窺っていた。



 そして、あの運命の日が来た。


「―――今日は、私の誕生日なんですよ。 だから、今日は大皿料理じゃなくて、ココット皿を使った料理なんです……」



 物事には雰囲気とシチュエーションが大切だ、と周囲から教え込まれていた俺は、彼女からその話を聞いて「今日しかない」と思った。

 


 まずは彼女に誕生祝いの祝福の言葉を告げ、俺の言葉を聞いた彼女が頬を染め微笑む仕草を愛おしいと感じながら見る。

 誕生日に告白すれば、印象も残る事だろう。



 ……そうだっ!

 俺も男だっ! 覚悟を決めて今日告げるべきだっ!!

 


 いつも料理を置いたらすぐに次のテーブルに去ってしまう彼女を繋ぎとめたくて、早く想いを告げようと、歩き始めた彼女の後ろ姿に向かい、慌てて口を開いた。



 「―――好きなんだっ! 」



 心臓が大きく脈を刻み、血流が顔に集中するのが自分でも判る。

 恥ずかしすぎて、彼女の顔を見る事が出来ない俺は、机の上に並ぶココット皿に視線を合わせた。

 あまり大きな声では言えなかったが、彼女には聴こえたとは思う。

 振り返る気配がして、少し離れた所から、彼女の声が俺の耳に響いた。



 「……私も好きです」



 彼女の奇跡の様な返答に、慌てて顔を声のした方角へと上げる。

 彼女が満面の笑みを浮かべて、俺に念押しするかのように、再度口を開いた。その声は、周囲の雑音などものともせず、俺の耳に届いた。



 「私も、大好きです」



 今まで女を好きになった事なんて、いくらでもあった。

 告白もされたし、した事もある。

 しかし、だ。

 今、彼女から告げられたこの愛の告白は、今までの恋愛を薙ぎ払うような、歓喜の嵐を俺の中にもたらした。天へも昇るこの気持ちとは、正にこの事だと思える。



 今なら、筋肉親父が俺を罵詈雑言しても、笑って受け流す事が出来るだろう。

 今なら、この食堂の中で、腹踊りを披露しろと言われても、笑って演じるだろう。

 今なら、逆立ちでこの町全体を踊って歩けと言われても、やり遂げる自信がある。


 今、俺の中では歓喜の嵐が吹き荒れ、花吹雪が舞っている様な気分だ。どんな過酷な事でも実行できると思う。

 それくらい、嬉しいのだ。

 きっと、ココット嬢が俺の運命なんだ。 ……そう思える。

 


 別のテーブルへと行った彼女を見送った俺は、料理を急いで平らげると、急いで役所に行き書類を一枚貰うと家路についた。

 家に着き、まずは遠方へいる両親に役所で貰った書類を同封した手紙を出した。



 ……そう、いつ彼女に結婚を申し込んでも良い様に、『結婚宣誓書』に親の署名を貰う為に。



 俺の迅速な行動のお陰か、告白から一週間後に、彼女から『結婚宣誓書』の妻の欄に彼女の署名を貰う事が出来た。

 その書類はその日の内に役所に届け、受理された……。



 告白から挙式まで時間が無く、あまり話す事もできなかったが、それでも俺の妻となった彼女の顔を見に毎日食堂へ通った。

 筋肉親父は心底嫌そうな顔をして、包丁を片手にこちらを睨んでいる。だが、毎日ソレを見ていると、なれとは恐ろしいもので、最初は感じていた恐怖感をもう感じない。

 あの親父はそんな性格なのだと納得した。あんな変な筋肉親父でも、愛する妻・ココットの父親だ。

 大切にしようじゃないか。


 


 ***


 思い出に浸り過ぎていたようだ。

 ココット嬢が顔を真っ赤にしながら、潤んだ瞳をこちらを見ている。

 そうだ、彼女が聞いた事を答えていなかった。

 怒ったのだろうか……?

 


 しかし、再度彼女に俺の気持ちを告げるのは恥ずかしい。彼女につられて、俺の顔も赤くなってきたかもしれない。

 だが彼女が望むなら、答えるべきだろう。

 俺は、思い出に浸り過ぎて冷めたカップに口を付けると、熱くなってきた身体を鎮めるかの様に一気に飲み干した。



 「ココット嬢が好きで、君も好きだと言ってくれたから。 確かに告白して一週間で結婚は急過ぎるかなとは思ったけど、……働いている君に『結婚宣誓書』を出したら、サインをしてくれたから」



 あまりに恥ずかしくて、彼女にそう伝えるのが精いっぱいだった。

 

 

 

 


 

 

 



 


 


 

 


 

 

ご覧いただき、ありがとうございました!(^^)!


今回は亭主様の、ココットを愛する気持ちをたくさん書きたくて、思ったよりも進んでませんでした(~_~;)

時数は結構あるのですが……。


今回は勘違いの始まり部分だったのですが、どの部分か判りましたでしょうか?



『結婚誓約書』のココットの署名の場面はココットターンで出しますので、さらっと流しました^_^;


細かい部分は、もう少しお待ちをっ!!


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