婚約破棄えもん
「ちょっと、婚約破棄されましたのっ!!」
そう叫びながら、私は自分の部屋の扉をバンっと開ける。
「あれ、どうしたんですか? ノビビ様」
私の部屋で掃除をしていた執事のエラドーモンがこちらを見る。
「また、ヤジン様に婚約破棄されたのですわっ。なんか、見返せる道具を出してくださりませんか!!」
「そうですね。では、これなんてどうでしょうか?」
そういって、エラドーモンはポケットからナイフを取り出した。
「ちょっと、そういうことではなく、もっと、ヤジン様にちょうどいい具合にやり返せる道具が欲しいのです!!」
私がそういうと、エラドーモンは「仕方ないですね」と言って、ポケットから何やら透明な袋に入った粉のようなものを取り出した。
「なに、その粉みたいなのはなんでしょうか?」
「これは、ざまぁミロと言って、これを牛乳に混ぜて相手に飲ませると、相手が貴方様にやってきたことが相手に返ってくる、という道具でございます。ホットもおすすめですよ。しっかりと、かき混ぜてから飲んでくださいね」
私はぴょんぴょんと飛び跳ねて「それ、貸してくださいませんか?」とエラドーモンの手から粉を取ろうとすると、エラドーモンはそれをヒョイと避けて、「貴方様に道具をお貸しすると、ろくなことがございません」と言った。
「大丈夫、今回こそはちゃんとやりますわ。もう、同じ失敗はしません!!」
私がそういうと、彼は渋々その袋を私にくれた。
「ありがとう!! フフフ、ヤジン様、覚悟しておいてくださいませ」
私がそういって部屋を出ようとしたときに、エラドーの「やれやれ」という言葉が聞こえたが、私はそれを気にせずにヤジン様のいる部屋に向かった。
「今度こそ、ヤジン様にぎゃふんと言わせてやるのですわっ」
私はそう言って、どしどしと廊下を練り歩く。
「でも、これ、ホントにうまくいくのでしょうか? エラドーモンの道具はいつも役に立たないですからね」
私は、不意にこの道具の効果が心配になってきた。
「よし、まずはセニオ様で試しましょう!! そうしましょう!!」
私は、一度ぐるりと踵を返して、セニオ様の部屋へ向かうことにした。
すると、部屋に向かうまでもなく、セニオ様と廊下で出くわした。
「セニオ様〜、セニオ様〜」
前を歩いていたセニオ様がぐるりと振り返る。
「なんだ、ノビビ様ですか。どうしたのですか? 申し訳ないのですが、今は何もお貸しできるものがございません。おっと失礼。何かあってもお貸しできませんけどね」
そういってから、「ハハハハ」と笑った。
「いいえ、本日はそういった御用ではございません。実は、セニオ様にぜひ飲んでいただきたいものがございまして」
私はそういって、持っていた粉の入った袋を取り出した。
「実は、これをセニオ様にぜひ、と思いまして」
セニオ様は、私が喋っている途中に私の手からその袋を乱暴に取り上げて、そして、中身を手の上に少し出してから「これは、なんでしょうか」と言ってペロっと舐めた。
すると、どこからともなく、彼の従兄弟のお兄様がスポーツカーに乗って出てきた。
「あら、セニオじゃないか」
「おやおや、セニ吉兄様じゃないですか。こんなところでどうしたのですか?」
「いや、実は、これからこのお車に乗ってドライビングにでも行こうかと思っていたのですが」
「もしやそれは、私めも乗せていただけるのですか?」
「ハハハハ、何を言っているのでしょうか。セニオを乗せるスペースなどまったくございません」
セニオ様はお車の中をしっかりと見回してから「セニ吉お兄様のお隣が、空いているように見えるのですが」と言った。
すると、セニ吉様は「空いていても、セニオを乗せることなんてございません。それでは」と言って、無駄にうるさいエンジン音を吹かせて、城の廊下をさっそうと駆け抜けていった。
「そ、そんな、待ってくださいませ〜〜!!」
セニオ様は、そういってお兄様の車を追いかけていった。
「なるほど。これは、すごい道具ですわ。急いで、ヤジン様のところに向かわなくては」
私はそういって、元々の目的であったヤジン様の部屋に向かった。
「あれ、ノビビ様ではないですか」
この声は。
「ああ、ズシカ様と、……ギギスデー様ではありませんか」
私の友達のズシカ様と、もう一人の彼は、宮殿内で一番勉強のできるギギスデー様ですわ。
ちょうどいいですわ。なんとなく、気に食わないと思っていたのです。
「少し、お茶でもしてきませんか?」
「ノビビ様は、よろしいのですか?」
「はい。少しならば、大丈夫ですわっ」
そういって、私たちはズシカ様の家でお茶をすることになった。
「実は私、クッキーを焼きましたの」
「私、ずっと楽しみにしていましたの!!」
そういって、ズシカ様はクッキーを持ってきてくれた。
ギギスデー様がズシカ様からクッキーをもらっている隙に、私は彼のお茶の入ったコップの中にエラドーモンからもらった粉を入れた。
「これで、ギギスデー様も……」
すると、気が付かれたのかギギスデー様がこちらを向いて「どうかされたのですか?」と聞いてきたので、私は「何にもございませんわ。それよりも、クッキーいただきますね」と言って、クッキーを口に運んだ。
「まあ、美味しいですわ!!」
「それは良かったですわ!! ギギスデー様もぜひ食べてください」
ズシカ様がそう言うと、ギギスデー様が「じゃあ、私もいただきますね」と言って食べ始めた。
「美味しいですね。ちょっと、お茶も」
そういって、彼はそれをコップに口をつけると、「なんだか、粉が入っているのですか?」と私に尋ねてきた。
「何か入っておりましたか? それは、失礼しました」
そういって、ズシカ様がギギスデー様のコップを取り替えようとしていたのを、彼は彼女の手を軽く持って「大丈夫です。とっても、美味しいです」と言った。
ホント、気に食わないわ。
しかし、待てど暮らせど、ギギスデー様には何も起きない。
もしかすると、すぐに飲ませないといけないのかもしれませんわ。
それか、私の一方的に気に食わないというのは、この道具の範囲外なのか。
やっぱり、エラドーモンの道具は信用なりませんわ。
しかし、これでわかりましたわ。
「すいませんが、私、ここらでお暇させていただきますわ」
私はそういって、ズシカ様の部屋を出た。
彼女は「もう行かれてしまうのですか」と言ってきたが、さすがにこれ以上待っている時間もない。
私は、どしどしと歩く。
そして、ようやくヤジン様の部屋に着きそうだ、と思ったところで、隣から「エーンエーン」という子供の泣き声が聞こえてきた。
私は、何事かと思って泣き声の聞こえた部屋に耳を澄ますと、中でなにやら子供が泣かされているみたいですわ。
「おやおや、そのお菓子を私どもにくださいませぬか? でないと、暴力を利用させていただくことになりますが」
「我々に渡してくれればそれで良いのです、どうか、くださいませんか?」
どうやら、中で上級貴族が子供をいじめているみたいだ。
上級貴族の脅迫の言葉の合間合間に、子供の泣き声が聞こえてくる。
どうしましょう。どうしましょう。
エラドーモンは、呼んでもどうにもなりませんわ。
でも、私だけではどうにも。
「エーンエーン!!」
「おやおや、泣かないでくださいよ。それをこちらに差し上げてくれれば、もう泣かせるようなことはしませんので」
「そうですぞ」
どうしましょう。
あああ、困ったわ。
こういうときこそ、エラドーモンがいてくれればよかったのに。
……。
私、決めましたわ。
私は、その声が聞こえる部屋の扉をぐいっと開けた。
中には、案の定、小さな男の子が座ったまま泣いていた。手にはキャンディーのようなものが握られていた。
「あ、あなた達、弱いものいじめはおやめくださいませ!!」
私は、震える声でそういった。
「おやおや、あなた我々になんの用なのでしょうか? 痛い目を見たくなければ、大人しくこの部屋を出ていくのが良いかと思うのですが」
上級貴族は、私よりも頭一つ大きい。
私は、ギュッと袋を握りしめる。
勇気を出すの。
「あら、逃げないのですか? それでは、殴らせていただきますよ!!」
そういって、上級貴族の一人がこちらにてくてくと向かってくる。
私は、勇気を振り絞って粉の中身を上級貴族の口に向かってばらまいた。
「ゴホッゴホ、……これは、ゴホッ、なんですか?」
「おい!!」
この声は。
「あなた達、何をやってらっしゃるんですか?」
私の目の前、そして、先程殴りかかろうとしてきた上級貴族の目の前には、ヤジン様が立っていた。
「おやおや、一人ではないですか? いいのですか? 痛い目をおみせすることになりますよ」
そういって、上級貴族は口についた粉を手で拭いながらコキコキと音を鳴らした。
もう一人の上級貴族の男も、こちらにやってきて、戦闘態勢をとっている。
「では、こちらから行かせてもらいますよ!!」
そういって、ヤジン様はまず、手前にいた上級貴族の顔面を思い切り殴った。
殴られた彼は、ゴホッとうめき声を上げて、その場に倒れた。
もう一人の上級貴族の男は、その様子を見て、「お、覚えていてくださいませ〜」と言って、部屋の外に倒れた仲間を引っ張りながら出ていった。
先程まで泣いていた男の子も、「お姉様、ありがとうございます」と私にお礼を言いに来てくれた。
そして、私に持っていたキャンディーをくれようとしたのだが、私は「せっかく守ったものだから、大事にしてね」と言った。男の子は私に手を振りながら帰っていった。
部屋には、私とヤジン様だけだ。
「あの……いいですか?」
私は、声がして一瞬ビクリと肩を震わせた。
もう、ざまぁミロは残っていない。
「あの、私、先程のことを謝りたいと思っていまして、先程はついカッとなって「婚約破棄する」なんて言ってしまいましたの」
彼は、少し下を向きながらそういった。
「そ、そうだったのですね」
「だから、その、もう一度私と婚約していただけませんか?」
そういって、彼は私に深く頭を下げた。
……。
「ヤジン様、どうか頭を上げてくださいませ」
彼は顔を上げた。
「……あの、言わなければいけないことがあります」
私がそう言うと、彼はぎゅっと目をつぶった。
「そ、その、先程はありがとうございます」
ほんと、彼の姿を見ていたら、ちょっとしたことで仕返ししようと思っていた自分が情けなく思えてくる。
「だ、だから、そうですね。婚約は引き続き、お願いします」
私がそういうと、彼は「そ、そうですか! ほんと、良かったです」と言ってニッコリと笑っていた。
「あ、ちょっと」
ヤジン様がそういって、私の方に手を伸ばしてきた。
私は、何事かと思って一歩身を引いたのだが、彼が私の服に優しく触れて、「少し、汚れていましたので」と言って、服についていた粉を払ってくれた。
「あ、あら、ありがとうございます。す、すいませんね〜」
そういって、私たちは途中まで一緒に帰った。
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「あら、おかえりなさいませ」
「ただいまでございます」
エラドーモンがこちらをじっと見てくる。
「……うまくいったのですか?」
私は、濁すように「まあ、」と言った。
「なんだか、いつもよりいい顔をしているように思えますわ」
私は、部屋に寝転んだ。
「あら、昼寝ですか?」
「ちょっとくらい、いいじゃないですか」
エラドーモンが、珍しく「たまにはいいかもしれないですね」と言った。
ぶっちゃけ、ドラえもんを使えば誰でも面白い話ができますよね。
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